超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は任天堂の新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」について語ります。
ウナギノボリ
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今となっては考えにくいが、任天堂は家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」を発売した当初、「テレビがなければ遊べない不完全な遊具」と考えていたふしがある。1980年代に社会的ブームとなった電子ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」の後ではなおさらだ。いつでもどこでも遊べる「ゲーム&ウオッチ」に対して、ファミコンはテレビのある茶の間でしか遊べず、“チャンネル権”の確保も必要だった。テレビを中心とした生活様式の中で、共存する必要があったわけだ。
一方、現代社会でテレビに相当するのがスマートフォンといっても差し支えないだろう。スマホは完全に日常生活に溶け込んでおり、テレビの視聴率低下の要因という声もある。こうした中で子供たちがスマホを欲するようになるのも当然だろう。だが親にとっては、子供が小さいうちからスマホを買い与えるのは抵抗感がある。こうした中、ゲーム機は安全性をアピールして共存しようとしており、日本ではこの傾向が強いといえる。
任天堂の新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が挑むのも、こうした遊びをとりまく社会変化だ。国内販売台数は発売後3日間で約33万台にのぼった(ファミ通調べ)が、前世代ゲーム機「WiiU」も同程度の滑り出しで、数字自体の意味は乏しい。ポイントはスマホ中心社会の中で、ゲーム機がスマホと共存できるかにある。「スマホもいいけど、テレビゲームもおもしろいよね」と言ってもらえるかが重要なのだ。
“答え”の一つは、ゲーム機のアーキテクチャ(設計思想)にあるかもしれない。家庭用ゲーム機の多くはPCの設計思想を受け継いでいるが、ニンテンドースイッチは携帯ゲーム機やスマホで主流のアーキテクチャを採用している。そのため4Kテレビ対応を進めるライバル機に比べてパワー不足は否めないが、スマホゲームの移植には親和性が高い。さらに多彩なセンサーを内蔵した「Joy-Con(ジョイコン)」を使えば、スマホにないゲームを生み出してうまく差別化できる可能性もある。
もっともスマホと共存できるか否かは、これからのソフトウエア次第だ。本体と同時に発売された任天堂が出した2本のタイトルは“答え”とは言いがたい。人気の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は、もともとWiiU向けに開発されていたもの。「ワンツースイッチ」はジョイコンの機能を生かしたソフトだが、「Wiiスポーツ」のようなインパクトには欠ける。
もともとファミコンを支持したのは、ゲームセンターでゲームを遊びたくて、うずうずしていた子供たちだった。いわばゲームセンターがファミコンの“宣伝役”になっていたのだ。一つの答えは、ニンテンドー3DS向けソフト「ポケットモンスター サン&ムーン」だろう。同作が世界で1000万本を超える好調な販売を記録した背景には、スマホゲーム「ポケモンGO」のヒットがあったのは、発売したポケモン側も認める事実。スマホから客を呼ぶ“導線設計”も含めて、今後の任天堂の施策に注目したい。
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