超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は「ファミリーコンピュータ」と「プレイステーション」の開発者がそろった立命館大のセミナーについて語ります。
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立命館大のゲーム研究センターが14日、「温故知新―ファミコンとプレイステーションにみる“プラットフォーム”ビジネスの神髄」と題したセミナーを開催した。セミナーが終わるとメディアによるフォトセッションが始まった。司会から「なぜフォトセッションが行われるか不思議に思われる方がいるかもしれないが、今回のセミナーはゲーム業界的には記念すべきこと」と説明があった。その瞬間、それまで会場全体を覆っていた違和感の正体が解けたような気がした。
セミナーは2部構成で、第1部では家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」や「スーパーファミコン」などの開発に携わった元任天堂の上村雅之さんと、「プレイステーション(PS)」の生みの親である元ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の久多良木健さんが講演を行った。第2部では「Gzブレイン」の社長でゲーム雑誌「ファミ通」グループ代表の浜村弘一さんも加わり、パネルディスカッションが実施された。出席したのはゲームファンではなく、アカデミックな参加者が中心だった。
少しゲーム業界に詳しい人なら“奇跡”の組み合わせであることがわかる。元任天堂の上村さんと元ソニーの久多良木さんの間には、ゲーム機のライバルメーカー同士という立場だけでなく、共に周辺器機を共同開発していた縁もあった。PSは元々、スーパーファミコン用の外付けCD-ROMドライブとして開発されていたが、一転して“破談”になり、ゲーム機として再開発された経緯がある。この時の担当者が上村さんと久多良木さんだった。
浜村さんも、“縁”があるという意味では同じだ。「Gzブレイン」が前身の「エンターブレイン」という社名だった時代に、ゲームソフトの開発も行った。そして、PS用ソフト「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」を発売し、任天堂と著作権訴訟になったこともある。
もっとも、セミナーは“因縁”を避けて、大人らしく和やかに進められた。上村さんは、任天堂が元々「花札」を制作していたこと、ファミコンなど任天堂のモノづくりの歴史を振り返り、久多良木さんはPSの立ち上げ、CD-ROMを用いた流通革命、半導体の自社設計・生産を核とした、新しいゲーム機ビジネスのスタイルなどについて説明した。パネルディスカッションでは、「ファミ通」の前身である「ファミコン通信」の当時の誌面が紹介され、浜村さんの解説とディスカッションがあった。立命館大映像学部の細井浩一教授は「任天堂は最終消費者、ソニーはクリエーター重視の戦略を採っていた」と分析し、これがおのおののプラットフォームビジネスにも影響を与えたと指摘した。
今回の“奇跡”のセミナーが開催できた背景には、上村さん、久多良木さん、浜村さんが共に立命館大の関係者という点にある。上村さんは立命館大のゲーム研究センター長・衣笠総合研究機構客員教授としてゲーム研究に従事している。久多良木さんもサイバーアイ・エンタテインメント代表をつとめるかたわら、立命館大学院経営管理研究科客員教授として講義を担当している。浜村氏もGzブレイン社長だが、映像学部客員教授に就任した。大学側とすれば、千載一遇のチャンスだったわけだ。
家庭用ゲームは1970年代にアメリカで誕生したが、そのときは「プラットフォーム」のビジネスとしては失敗している。その教訓を生かしたのが、任天堂などの日本企業だ。ゲームは日本が主導権を握り「プラットフォーム」ビジネスが世界的に成功した数少ない例で、背景や秘密を探ろうと、セミナーの客席は研究者が大半を占めた……というわけだ。ウェブの募集は開始後10分で満席になったという。ゲームビジネスが産業研究の題材として、正面から取り上げられる時代になったといえる。
ゲーム業界はこれまで、学術側からのアプローチを「敬して遠ざける」姿勢をとってきた。企業にとって、直接的なメリットに乏しいからだ。その一方で、ゲーム業界は非常に早い速度で変化を続けており、新陳代謝が進んでいる。その結果、過去の知見に学ぶことなく、同じ失敗を繰り返す例もみられる。研究という客観的な視点を取り入れ、企業活動の一般化・学問化を進めることは、ゲーム業界の持続的な成長につながる。今回のセミナーはその第一歩であり、さらなる広がりを期待したい。
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