阿部寛:ロングインタビュー(上) 筋肉質から体重を15キロ落とし肉体改造「人から心配された」

主演映画「祈りの幕が下りる時」について語った阿部寛さん
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主演映画「祈りの幕が下りる時」について語った阿部寛さん

 阿部寛さん主演の映画「祈りの幕が下りる時」(福澤克雄監督)が、27日から全国で公開された。阿部さんは、2010年に放送された連続ドラマ「新参者」以降、8年間、断続的ではあったが、警視庁の刑事、加賀恭一郎を演じ続けてきた。今作は、その「新参者」シリーズの最新作であり完結編。加賀を演じた経験が、俳優としての「自分の背骨」になった一方で、今回5度目の加賀を演じるためには「過去を断ち切る必要があった」と語る阿部さんに、撮影について話を聞いた。

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 ◇過去作を見直す

 「新参者」シリーズは、人気作家、東野圭吾さんのミステリー小説「加賀恭一郎シリーズ」を原作に、これまで連続ドラマと2本のスペシャルドラマ、そして、1本の映画が作られてきた。今作では、ある殺人事件の捜査線上に、ひとりの女性が浮上。さらにその事件が加賀の失踪した母とつながっていくことで、加賀自身の“最大の謎”が明らかになっていくという展開だ。事件の鍵を握る舞台演出家、浅居博美を松嶋菜々子さんが、加賀の母を伊藤蘭さんが演じる。

 阿部さんは、前作のスペシャルドラマ「眠りの森」(14年)から3年ぶりに加賀を演じるに当たり、これまで映像化されてきた新参者シリーズの全作品を見直したという。それによって初期のころの気持ちを振り返ることができ、加賀という人物を「客観視できた」と話す。それは同時に、「同じ役を続けて演じていくと、いつの間にかスーパーマン的になっていくんです。今回はそういうものを一掃する」ために必要なことだった。

 ◇過去を断ち切る

 というのも、「8年ずっと引っ張ってきた父親との確執の部分、つまり母のこと」が事件に絡んでくることから、「これまでの加賀だったら、自分の内面を見せないんですけど、今回はそこを見せていかなければいけなかった」からだ。

 どのように表現しようかと考えたとき頭に浮かんだのが、11年に放送されたスペシャルドラマ「赤い指」だった。「母と父の確執に一番迫った作品なんです。そのときのイメージがずっとあって、そこをちょっと意識した」と明かす。

 しかし、李正美さんの脚本と福澤監督が要求したのは、むしろ、「赤い指」から離れることだった。「非常に苦労しました。『赤い指』の感覚を断ち切らなければいけなかったんです。『赤い指』のときは、今作のような母との結末を、僕は想定していなかった。それが今回、ああ、こういうことだったのかと腑に落ち、その部分を考えながら(気持ちを)絞り出していくことは、結構難しかったです」と打ち明ける。

 ◇日本橋・人形町は「第二の故郷」

 体重も落とした。「テルマエ・ロマエ」(12年)以降、体に筋肉がついていた。「加賀の身体は筋肉質じゃない」ことから、17年の年明けから、「夜9時以降、物は食べない」「好きなサウナに通う」などし、体重を約15キロ落とし、半年後の撮影に備えた。ただ、一気に体重を落とし過ぎたために、「痩せると意外と老ける(笑い)」ことに気付き、そのうえ「人から心配される」こともあり、今は当時より5キロほど増やし、自身のベスト体重を維持しているという。

 印象に残るシーンを尋ねると、しばらく考えてから、「たくさんありますね」とした上で、「だけど、すべてがあの最後の強烈なクライマックスにつながっていきますからね。全部です」と言い切った。

 撮影の都度、日本橋・人形町を訪れるのは、「いとこに会いに行く」感覚で、「そのときどきで、(地元の)皆さんと世間話をしたり、お店にしばらくいさせてもらったり、何か食べさせてもらったり、プライベートでもお参りに来たりしていますから、本当に第二の故郷みたいな感覚を勝手に持たせていただいています」と笑顔を見せる。ちなみに、和菓子屋の列に並んだり、買い求めた人形焼きなどを頬張ったりする加賀の姿はおなじみだが、阿部さん自身も甘いものは「大好き」で、人形町の和菓子屋はだいたい訪れたという。

 ◇恭一郎は「自分の背骨」

 「30代のころは、刑事ものの連続ドラマは、色がつくと避けていた」という阿部さん。40代半ばを過ぎ、「年齢的にもそろそろ刑事ものをやりたい」と思っていたころ、舞い込んだのが加賀恭一郎役だった。しかし、「普通の感覚で物をしゃべっていく。それでいて、すごく鋭い刑事」「派手な動きはなく、目や心、そういう芝居の一番大事なところでしか見せられない役」は思いのほか演じるのは難しかった。

 さらに当時は、「加賀恭一郎の、原作にあるような洞察力の鋭さを、映像にしたときどう表現するか」「優しい刑事さんで、人当たりがすごくいいというところはちゃんとやりたいと思いました。だけどそこにたどり着くところで、刑事特有の怖さみたいなものを出さないと、このシリーズはできないと思ったんです。そうしないと、ほかの刑事ドラマと似てしまうから。その差をどこで出すか」と深く考えたという。

 それでも、8年続ける中で、「自分の背骨というか、いろんな役柄をやる上での軸になっているんだなということに、最近気づきましてね。気付いた途端に終わるんですけど(苦笑い)、そこを軸にしていろんな役ができていたのだと思います」と巡り合った加賀恭一郎という役に改めて感謝していた。映画は27日から全国で公開。

 <プロフィル>

 あべ・ひろし 1964年6月22日生まれ、神奈川県出身。モデルを経て、87年に映画デビュー。主な映画作品に「トリック劇場版」シリーズ(2002、06、10、14年)、「歩いても 歩いても」(08年)、「麒麟の翼~劇場版・新参者~」(11年)、「テルマエ・ロマエ」シリーズ(12、14年)、「柘榴坂の仇討」(14年)、「エヴェレスト 神々の山嶺」「海よりもまだ深く」(共に16年)、「恋妻家宮本」(17年)など。公開待機作に「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎」「北の桜守」「のみとり侍」がある。

 (取材・文:りんたいこ)

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