中国映画界の巨匠、チェン・カイコー監督が、俳優の染谷将太さんを主役に迎え撮り上げた「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」(24日公開)で、玄宗皇帝の寵愛(ちょうあい)を受けた楊貴妃を演じている台湾出身の女優チャン・ロンロンさん。抜てきされたときは「ワクワクした」ものの、次第に「プレッシャーを感じていった」と語るチャンさんに、役作りや印象に残る場面、また、美しさを保つ秘訣(ひけつ)、10年後の自分などについて聞いた。
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映画は、1200年以上前、唐の都、長安を揺るがす怪事件が起こり、その謎を染谷さん演じる若き修行僧、空海と詩人の白楽天(のちの白居易=ホアン・シュアンさん)が追う中で、約50年前の、玄宗皇帝(チャン・ルーイーさん)と楊貴妃の存在が浮かび上がってくる……というストーリー。
映画の中の楊貴妃を「非常に高貴で包容力があり、誰に対しても愛情を持てる人というイメージで演じていった」というチャンさん。
楊貴妃といえば「世界三大美女」と称される一方で、玄宗皇帝が彼女を溺愛したあまり「安史の乱」を引き起こしたとされることから、「傾国の美女」ともいわれる。そういった楊貴妃に対して、チャンさんは「(皇帝の寵愛を受け)とても幸せだったと思いますが、同時にかわいそうな面もあります」と語る。
というのも、「一つの王朝の栄枯盛衰を、一人の女性が左右するわけがない」と考えるからだ。「にもかかわらず楊貴妃は、唐王朝の代表者になってしまっています。後宮には、3000人もの女性たちがいて、皇帝の寵愛を受けていたといわれています。その中で楊貴妃は、皇帝の寵愛を一身に受けて、とても大事にされましたが、国が滅びかけると、その罪をたった一人で背負わされてしまったのです」と楊貴妃に同情する。
楊貴妃役のオファーがきたときは、「歴史劇はやったことがなかったのでワクワクしました」というチャンさん。しかし、それは最初だけで「少しずつプレッシャーを感じるようになっていきました」と明かす。なぜならメガホンをとったチェン監督は「作品に対しても役者に対しても、求めるものが非常に高い監督」と聞いていたからだ。
そこでチャンさんは役作りとして、唐王朝や唐の前の時代、隋の歴史に関する書物を読み、当時の人たちがどのような生活をしていたかを勉強し、弦楽器の琵琶(びわ)も習った。しかし、最終的に一番の助けになったのは、やはりチェン監督の言葉だったという。
「チェン監督は、古代の女性と今の女性の違いをよく分かっていらっしゃいますし、とても教養のある方。私の演技を、ああしたらいいよ、とか、こうしたらいいよ、といろいろ調整してくださいました」とチェン監督の演出を振り返る。
楊貴妃の、玄宗皇帝に対する愛をチャンさんは「無償の愛」と表現する。それが端的に表れていたのが、楊貴妃が死を決意する場面であり、同時に、チャンさんにとって演じるのが難しかった場面だ。
「数秒の間に決意しなければいけないという、非常に難しいシーンでした。実際に撮影したときは、周りに誰もおらず、チェン監督がトランシーバーで、玄宗皇帝のせりふを言ってくれました。私はまるでプレゼントをもらうように、一瞬、うんとうなずいてしまって、そのあと、笑わなければいけないのに、うまく笑えなくて……」と打ち明ける。しかし、結果的には「非常に満足する演技」ができたそうだ。
映画では、空中ブランコのような遊具に乗る場面もある。撮影は、グリーンバックで、ワイヤーでつるすなど安全措置を施して行われた。空を切って揺れるブランコに腰かける楊貴妃の姿は、とても優雅でうっとりさせられるが、当のチャンさんは「とても高いところでブランコを漕ぎました。怖かったです。全然楽しくなかったです(笑い)」と明かす。
楊貴妃役に抜擢(ばってき)されるほどの美貌を持つチャンさん。1児の母だというチャンさんが美容や健康で気を付けていることを聞いてみた。中国には、女性はよく泣くことから「女性は水でできている」ということわざがあるそうで、そのことわざを挙げた上で「水分補給はとても大事です」と話す。
ほかにも、「適度な運動」と「化粧は必ず丁寧に落とす」と教えてくれた。ちなみに楊貴妃はライチが好きで、それが美の源だったともいわれるが、チャンさん自身も、ライチは「すごく好きです」とにっこり。
最近気になるファッションアイテムに挙げたのは靴。「母には、あなたはムカデなの? そんなに買ってどうするの?といわれます(笑い)。でも、並べて見ているだけでも楽しいし、服と靴のコーディネートをあれこれ考えるのも楽しいです」と語る。靴箱に入りきらず、何足あるかは「ちょっと分からない」そうだが、「買ったら履かないとダメですね。そのまま置いておくと、底のゴムの部分が劣化して履けなくなったものがたくさんありました」と苦笑い。それを教訓に「たくさん買わないか、買うならときどき履くようにしないと」と戒めているそうだ。
現在30歳。10年後の自分を想像してもらうと「たぶんそれほど変わっていないのではないでしょうか。というのも、今の自分が10年前の自分とあまり変わっていないと思うからです。でも、少しは成長していてほしいなとは思います」と話す。
そして、「私は演技をすることが大好きで、仕事をしていること、イコール、人生を楽しむことなので、仕事をプレッシャーと感じることはありません。それに、嫌なことがあってもすぐに忘れられる性質なので、やっぱり、(10年後は)あまり変わらないかもしれないですね」と気負った様子はない。
さらに、「私は、(『欲望の翼』などで知られる)ウォン・カーウァイ監督の映画が大好きで、作品の中に、嫌なことがあったら1本木を探して、その木の穴に秘密を言えば楽になるよ、というせりふがあるんです。前にやっていた仕事先の近くに、ちょうど適当な木があって、それに秘密を言っていました。そうすると、嫌なことは全部忘れられました(笑い)」と秘策を明かした。
そんなチャンさんに、年齢を重ねても女性が輝き続ける秘訣があるとしたら?と問うと、返ってきた言葉は「まず、楽しむこと」。「演技をすることが自分の興味であり、楽しみでもある」というチャンさんは、「仕事をしているときは充実感がありますし、そのために努力も惜しまずにできます」と話す。その上で「人生自体を楽しむ。そういう生活をしていれば、ずっと輝いていられるのではないでしょうか」と笑顔で語った。
<チャン・ロンロンさんのプロフィル>
1987年4月10日生まれ、台湾出身。フランス人の父と台湾人の母を持つ。サンドリーナ・ピンナの名でも活躍している。日本公開作に「一年之初」(2006年)、「光にふれる」(12年)、「恋する都市 5つの物語」(15年)、「52Hzのラヴソング」(17年)などがある。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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