染谷将太:チェン・カイコー監督と「空海-KU-KAI-」語る 起用理由はあのマンガ原作映画がきっかけだった

映画「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」に主演した染谷将太さん(左)をメガホンをとったチェン・カイコー監督
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映画「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」に主演した染谷将太さん(左)をメガホンをとったチェン・カイコー監督

 俳優の染谷将太さんが、密教の教えを求め遣唐使として唐に渡った若き修行僧、空海に扮(ふん)した日中合作映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」が24日に公開された。夢枕獏さんの長編伝奇小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」(角川文庫/徳間文庫)を原作に、「さらば、わが愛/覇王別姫」(1993年)や「始皇帝暗殺」(98年)などの作品で知られるチェン・カイコー監督が映像化した。チェン監督と染谷さんに、撮影を振り返ってもらうとともに、演出や演技について、さらに作品に懸ける思いなどを聞いた。

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 ◇中国で持ち切りの染谷さんのほほ笑み

 映画は、1200年以上前、遣唐使として中国・唐に渡った若き修行僧、空海(染谷さん)が、詩人の白楽天(のちの白居易=ホアン・シュアンさん)と、唐の都、長安を揺るがす怪事件の謎を追う中で、約50年前に起きた玄宗皇帝(チャン・ルーイーさん)と彼が愛した楊貴妃(チャン・ロンロンさん)、さらに阿倍仲麻呂(阿部寛さん)の存在が浮かび上がるというストーリー。

 「僧侶の動作というのは、普通の人とは違います。非常に微妙な表現手法が要求されますが、染谷さんは、目できちんとものを言いながら、僧侶としての温和な部分を演じ切ってくれました。それにあのほほ笑み。とても不可思議な微笑で、そこが(染谷さんの)特徴でもありますが、中国では今、『謎のほほ笑み』(笑い)と持ち切りなのですよ」とチェン監督は染谷さんの演技をたたえつつ、中国での評判を明かす。

 胡玉楼(こぎょくろう)という遊女屋を訪れた際に染谷さんが見せた「優雅で高尚な舞い」にも「空海らしさが出ていた」と、大いに満足している様子。

 ◇「三日先」を生きた染谷さん

 そもそも、チェン監督が染谷さんを空海役に起用したのは、映画「寄生獣」(2014年)での染谷さんの“たたずまい”が気に入ったからだという。チェン監督はこれまで、宮崎駿監督の作品をはじめとする日本のアニメを「それほどたくさんではない」が、見てきた。また、「マンガを実写化した作品もいくつか見ている」そうで、その中の1本が「寄生獣」だった。

 チェン監督から演技を絶賛された染谷さんは、空海を「3日先を生きているような人間」とイメージして演じていったという。染谷さんによると、チェン監督は、毎シーン撮るごとにスタッフやキャストをモニターの前に集め、皆の意見を聞いたり、一つずつ確認したりしながら、「ワンカットが一枚の絵になるよう丁寧に」撮り上げていったそうだ。

 それによって染谷さんも集中力が一層高められ、「監督の意図はもとより、カメラマンや美術といった周囲のスタッフの意図も把握でき」、そんな初めての経験を「とても刺激的でした」と振り返る。

 ◇約6年かけて作ったオープンセット

 今作は、チェン監督がこれまで手掛けた「始皇帝暗殺」に代表される歴史劇に比べると、ファンタジー色が強い。その意図を、チェン監督は「非常に開放的で文化的だった唐の時代において、都の長安にはたくさんの詩人がいました。詩人というのは夢を追う人。夢とはすなわちファンタジーです。現実の中で夢を求めていくと、ファンタジーの要素は強くなります」と説明する。

 その一方で、現実感にはこだわった。デザインに2年、建築に4年と計6年をかけて、湖北省襄陽市にある広大な沼地を整地し、唐の都・長安を丸ごと作った。その広さは、東京ドーム約8個分にもなるという。そこにはチェン監督の「リアルな感覚をつかむことは役者にとって非常に重要だ」という考えがある。

 実際、染谷さんが、空海が住んでいたという青龍寺のセットに足を踏み入れたときは「本当に空海の部屋が広がっていて、自然とその場に自分が立てた」と話す。染谷さんは、「(俳優業は)想像力をとても必要とされる仕事ですが、余計な想像力を必要としない分、役の本質的なところでの想像力に集中することができました」と、セットの威力を身をもって体験した。

 ◇何をもって映画のスケールとするか

 チェン監督自身、今回の試みを「2万本の木を植え、その木が育ったところで撮影するという、ここまで時間をかけてゆっくり取り組んだところが、今までの作品の取り組み方と違うところです」と打ち明ける。そして、撮影しながら「何をもって映画のスケールというのか。ロケーションの広さなのか、CG(コンピューターグラフィックス)の出来具合なのか」と自問したという。たどり着いた答えは、「演じた役者さんの心の大きさ」だった。「空海にせよ白楽天にせよ楊貴妃にせよ、演じる人たちの思いが大きく伝わること、その心のスケールというものを感じました」と晴れやかに語る。

 ちなみにそのセットは現在、映画の撮影地として使われており、チェン監督いわく「各映画チームが(順番待ちで)並ばなければいけないぐらい大人気」なのだという。また、観光地にもなっていて、1日5万人くらいが訪れているそうだ。入場料をたずねると、「たぶん、90元(約1500円)ぐらいです。高いですね(笑い)」と明かした。

 ◇黒猫の“演技”に驚嘆

 CGの威力も見せつける。そのすごさは、玄宗皇帝が楊貴妃のために催した「極楽の宴」のシーンや、幻術師、黄鶴(リウ・ペイチーさん)の幻術を使う場面で存分に堪能できるが、染谷さんが驚嘆したのは黒い“妖猫”だった。

 「景色はセットで広がっていましたが、ただ唯一なかったものが黒猫でした。本物(の黒猫)を使っているシーンもありますが、ほとんどでCGを使っていまして、完成した作品を見たら本当に表情豊かで、主役の一人と言っても過言ではないほど。本当に素晴らしい演技をされていました」と黒猫の“熱演”をたたえる。

 これにはチェン監督も「特殊効果チームが頑張って仕上げた猫です。猫の生き生きとした雰囲気をすごくうまく表現できたので、そこはCGを使って成功したところだと思います」と黒猫の演技に太鼓判を押す。ちなみに視覚効果技術には、日本の会社「オムニバス・ジャパン」も参加している。

 ◇映画から得たもの

 「今と変わらないというのが、10年後の目標」と語る染谷さん。5カ月に及んだ撮影を振り返り、「割と長くこの仕事をしていますが、これまで経験したことのない経験ばかりでしたので、とても刺激的でした。あれだけの時間があるからこそできる熱量を、今後、時間がない現場でも、その熱量を持ったまま、こだわってやり続けたいと思います」と話す。

 今回、日本で公開される今作は日本語吹き替え版のみで、染谷さんの中国語を聞くことはできないが、「皆さんの声が上がって、(中国語版が)限定で上映されればうれしいな、とは思います(笑い)。でも、テンポも速いですし、歴史ものですし、登場人物も多いので、日本語でこの映像に浸るというのは、この映画にとっていいことだと僕は思います。吹き替えも僕がやっていますし、(日本語吹き替え版では)日本語の空海というのを自分は演じ切ったので、そこを楽しんでほしいと思う」と作品をアピールする。

 一方、チェン監督は「今回、染谷さんはじめ、さまざまな役者さんとこの映画を作りましたが、我々が作ったのは、東洋の雰囲気がたっぷり感じられるファンタジーです。ハリウッドが作るものとは、まったく違うファンタジー作品に仕上がっていると思います」と胸を張った。映画は24日から全国で公開。

 <チェン・カイコー監督のプロフィル>

 1952年8月12日生まれ、中国・北京出身。82年に北京電影学院を卒業後、「黄色い大地」(84年)で長編映画監督デビュー。「さらば、わが愛/覇王別姫」(93年)は、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。ほかの映画監督作として「花の影」(96年)、「始皇帝暗殺」(98年)、「キリング・ミー・ソフトリー」「北京ヴァイオリン」(共に2002年)、「PROMISE/無極」(05年)、「花の生涯~梅蘭芳~」(08年)、「運命の子」(10年)などがある。

 <染谷将太さんのプロフィル>

 1992年9月3日生まれ、東京都出身。2009年、映画「パンドラの匣(はこ)」で映画初出演を果たし、「ヒミズ」(11年)でベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)を受賞。主な映画出演作に「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」「寄生獣」(共に14年)、「寄生獣 完結編」「映画 みんな!エスパーだよ!」「さよなら歌舞伎町」(いずれも15年)、「聖の青春」「海賊とよばれた男」(共に16年)、「3月のライオン 前編/後編」「ポンチョに夜明けの風はらませて」(共に17年)がある。待機作として今秋公開の「きみの鳥はうたえる」がある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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