青木志貴の魔王式随想:忘れられない1冊の絵本

青木志貴さん
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青木志貴さん

 人気ゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ」の二宮飛鳥役などで知られる新人声優の青木志貴さん。自身を「ボク」と呼ぶ“ボクっ娘”で、“魔王”のニックネームで「League of Legends」などのオンラインゲームをがっつりやり込むコアゲーマーという異色の経歴も併せ持つ青木さんが、その独自の視点で自身の歩みやさまざまな思いを語ります。

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 梅雨まっただ中の6月。6月ですって! まだ2018年が始まったばかりのような感覚でしたが、もう今年も半分たとうとしているんですね。時の流れの早さにいろいろなあせりを感じてしまいます……(笑い)。

 ところで、皆さんは本って読みますか? マンガでも、小説でもなんでも構いません。ボクはといえば、最近は本を読む機会があまり多くはないのですが、小学生から高校に入るまでの期間が一番本を読んでいたように思います。もちろんマンガも含めて(笑い)。

 どうしてあまり本を読まなくなったんだろう、と考えてみたのですが、東京に上京してきてからマンガや本といった紙媒体の物がかさばってしまって置き場に困るようになったのが原因かなあと思ったり。上京したての頃こそ、暇だったりしたら嫌だなぁと思ってマンガをたくさん部屋に置いていたのですが、引っ越しを繰り返すうちに、やはり荷物になってしまうので全て実家に送り返してしまいました。

 そんなこともあって、本やマンガをあまり読まなくなってしまったのですが、今は便利な世の中になったもので。スマホで電子書籍としてマンガも小説も雑誌も読めちゃうんですよね。ありがたや~。アカウントさえあれば一度購入したものなら何度でも読めますし、もちろん荷物になることもない。データですからね。でも、ボクはどちらかといえば紙媒体での本やマンガが好きで。もちろん電子書籍も便利で、最近はよく利用しているのですが、データという部分でどこか味気なさを感じてしまう。やっぱり、気に入ったものが「形」としてそのまま残るほうが好きなんだろうなあと思います。

 そんな「本」の思い出として、ボクには忘れられない作品があります。実はボク、あまり小さい頃の記憶って残ってないんです。もしかしたらみんなそんなもので、断片的な記憶しか残っていないのが当たり前なのかもしれませんが、小学校に入る前までの記憶が本当に少なくて。4、5歳の頃に父親に英語を教えてくれと頼んでとても困らせたこと。もっと小さい頃にやたらと母親に「海ってなに? 海ってなんであんな水がたまってるの?」と聞いて困らせたこと。おままごとではいつもお兄ちゃん役やお父さん役など、男性の役ばかりしたがったこと。そして絵本が大好きだったこと。

 はっきりと思い出せる幼少期の頃の具体的な記憶がこのくらいで、中でもこの「絵本が好きだったこと」がとても自分の中で印象に残っているんです。幼少期の頃のボクの自室は兄と同じ部屋だったのですが、ボクの本棚には生き物の図鑑とたくさんの絵本がありました。当時気に入っていた絵本は、作家さんの名前もタイトルも忘れてしまったのですが、人魚姫の物語を書いた絵本。可愛らしいイラストというよりはとても写実的な絵で描かれた、あまり子供向けではなさそうな雰囲気の人魚姫でした(最後もハッピーエンドではなく、やはり泡になって消えてしまう悲しいお話でしたしね)。なぜ当時それを気に入っていたのか、今のボクにはわかりませんが、繰り返し何度も読んでいた記憶があります。

 しかしその絵本よりももっと印象に残っている絵本がボクの中にありました。「月夜のものがたり」という絵本です。表紙は月を背景に白と茶のクマのぬいぐるみが手をつないでいるイラスト。絵本を開くと音楽が流れるものでした。表紙の白と茶のクマのぬいぐるみは2匹そろってずっとデパートに飾られていたのですが、ある日デパートにきた女の子に白いクマのぬいぐるみが気に入られ、2匹は離れ離れに。最初はかわいがられていたのですが(多分そうだったはず)女の子は新しいぬいぐるみを買ってもらうと、その白いクマのぬいぐるみのことを忘れ、ベッドの裏だったか下だったかに落ちて放置されるように。寂しくて泣いていた白いクマでしたが、月夜の晩に茶のクマが泣いている白いクマを迎えにきます。そしてふたりでお互いを確認し合いながら、女の子の家を抜け出し、月夜の中を歩き出す。そんな物語でした。

 今これを書きながら思い出しても、なぜか胸がとても苦しくなるような、泣きそうになるような感覚です。とにかくこの絵本がとても印象に残っています。正直、小さい頃はこの絵本がなんだか少し怖くて、好きとはほど遠い物悲しい気持ちになっていたのですが。ちょっと不気味で切ない気持ちにさせられるのに、なぜか忘れられない。小さい頃はこの絵本に出てくる女の子が大嫌いで、白いクマが可哀そうで。

 でも月夜に2匹でお互いのことを確認しあいながら歩いていく姿がとても神秘的でぐっとくるものがあったんです。なんかすてきな2匹だな、こんな友達がいたらいいなあって。絵本を開いたときに流れる音楽がどんなものだったか、今は思い出せないのですが……。

 とにかくこの絵本がずっと記憶に残っていて、今でも読みたいなあ、手元にずっと置いておきたいなあと思う作品です。実家に確認したところこの絵本が見つからなかったようで、とても残念でした。今も売ってないかなといろんなところを探してみたのですが、流石に売っているところはなくて。幼少期の少ない記憶の中の、幸せな気持ちになる記憶とは言いがたいですが、大切で忘れらない不思議な気持ちにさせてくれる絵本なので、やっぱりこういう記憶に残るものっていうのは、形で残しておきたいなあと改めて思いました(電池が切れてさすがに音楽は流れないようですが、一部の図書館ではこの絵本があったりするようなので、探してみたいなと思ってます)。

 そういったことがあって、ボクは紙媒体派だったりするのですが……。本に関することでボクにもまたひとつ夢があったりします。それは、昔から自分の頭の中にある物語を書籍化すること! 小学生くらいから、読むのも好きでしたが自分で文章を書くのも好きで、高校のときには誰にも公開していない、ネットの日記帳のような場所でひたすら自分の中にある物語を書きためていました。

 それも今となってはデータの海に沈んでしまったので、昔の携帯とかを見てみない限りは見つけられないお話たちになってしまったのが少し残念ですが。そういった物語を、いつかどこかで発表して、欲を言えば本として残せたらいいなあと考えています(夢は口にするとかないやすいって誰かが言ってた!!)。

 見る人によっては引くかもしれないし、好きだなあと思ってくださる奇特な方がいるかもしれない。どんなふうに受け取ってもらえるかはわかりませんが、誰かに見てもらって、ボクの思い出に残る絵本のように、誰かの思い出の一部にしてもらえたらすてきだなあ、幸せだなあと思います。そんな夢がかなうように文章を書きながら、例の絵本探しも続けて、またいつかあの絵本が読めたらいいな。

 ◇プロフィル

 あおき・しき=1月14日生まれ。162センチ、AB型。「アイドルマスターシンデレラガールズ」の二宮飛鳥役など。声優、タレントと多方面で活動中。ゲーマーとしても「魔王」の愛称を持つコアゲーマー。

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