透明なゆりかご:30代男性や未成年も共感 話題の産婦人科医院ドラマの舞台裏

清原果耶さん主演のNHKの連続ドラマ「透明なゆりかご」 (C)NHK
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清原果耶さん主演のNHKの連続ドラマ「透明なゆりかご」 (C)NHK

 女優の清原果耶さんが主演を務めるNHKの連続ドラマ「透明なゆりかご」(総合、金曜午後10時ほか)が話題だ。原作は沖田×華(おきた・ばっか)さんの同名マンガで“真実の産婦人科物語”といわれている。視聴者の中心は原作同様20~30代の女性ながら、30代の男性や未成年からも共感の声が上がっているという。公式ホームページの掲示板では「娘と一緒に見ています」といった書き込みが見られ、親子2世代の視聴も。「思った以上に大きな反響をいただけて、男性の視聴者から『男性にも見てほしい』という意見もあり、まさに自分が思っていたことなので、ちゃんと届いているんだな」と制作統括の須崎岳さんも手応えも感じているようだ。なぜドラマは、これほどまでに幅広い層から支持を集めているのか、舞台裏を追った。

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 ◇描きたかったのは“実態”の向こう側にいる人々

 「透明なゆりかご」は、コミックスの累計発行部数は325万部を突破している人気マンガ。ドラマでも幸せな出産だけでなく、中絶や母体死といった産婦人科の陰の部分に向き合いながら、時に明るく、時に切なく、主人公たちの命への祈りにも似た思いを描いている。

 ドラマ化にあたって、須崎さんや脚本の安達奈緒子さん、演出の柴田岳志さんらが目指したのは“普遍性”だった。人工妊娠中絶(アウス)以外にも、10代の妊娠や周囲に理解を得られない出産、母体危機から「死」に至るまで、さまざまな状況が描かれているが「産婦人科医療の実態はこういうものだという、いわゆるNHKの社会派ドラマにはしたくはなかった」と須崎さんは話す。

 むしろ描きたかったのは“実態”の向こう側にいる人々だ。直面した状況を妊婦がどう受け止めるのか、医師や看護師たち、家族がどう寄り添うか。原作の簡素で、どこかひょうひょうとした絵柄が伝えるある種の“温かさ”、そこに込められた人々の思いをあぶり出すため、マンガの一コマ一コマを丁寧に読み解く作業を続け、映像化しているという。

 須崎さんは「行き詰まったら、まずは原作と向き合う。いかに原作の雰囲気を出せるのかはスタッフ、キャストが最も腐心した部分で、映像の光の感じ、できるだけ自然光っぽくとか、海のキラキラとした感じや主演の清原さんら出演者の爽やかな感じも大事にしました」と振り返っている。

 ◇善悪で切り分けない、光を見せる… あるシーンに集約されたメッセージ

 須崎さんら制作陣がさらにこだわったのが、妊娠や出産の“陰の部分”を正面から描きつつ「ものごとを善悪、正しい正しくないでスパッと切り分けてはいけない」ということと、視聴者に「希望を伝えたい、光を感じてもらいたい」ということ。その思いが集約されたのが、7月20日放送の第1回「命のかけら」終盤のとあるシーンだった。

 主人公のアオイ(清原さん)が、アウスによって母体から出された中絶胎児を専用の透明なプラスチックケースに入れて、窓辺から外の景色を見せてあげる場面のことで、須崎さんは「これは原作にもありますけど、あの場面でのアオイの忘れ去られていく命に対する心の込め方は、まさにこの物語のメッセージ」と言い切る。

 一方で現場では「中絶したあとの胎児がどうなってしまうのか、本当にこのシーンを描いて大丈夫なのかという意見はあった」というが、「でも、事実こういったことがあるわけで、アオイと同じような形で命と向き合っている人たちがいる。もちろん『見たくはない』と嫌な思いをされる方もいるかと思うのですが、これは伝えなければいけないなと思った」とどこまでも真摯(しんし)だ。

 ◇主人公の「もしかしたら」に込められた思い

 「希望」や「光」という意味で、もう一つ見逃してはならないないのが、劇中でアオイが「本当はこうだったのではなかろうか」と想像(独白)するシーン。各エピソードに一度は必ず登場し、深い余韻を残す。

 看護師としては見習いで、人間としてまだまだ未熟なアオイがもたらす「もしかしたら」や「せめて私はそう信じたい」という祈りのような思い。第1回での、わけありシングルマザーによる添い寝の事故、第2回に登場した女子高生の産み捨てをはじめ、悲しい出来事が起こったり、シビアでつらい状況に置かれたりもするが、どこかに救いを見いだそうとするアオイの真っすぐな視線が、共感の源になっているといっても過言ではないだろう。

 須崎さんも「第2回で蒔田彩珠さんが演じた女子高生も、赤ちゃんを道ばたではなく、産婦人科に捨てたということは、ここだったら助けてもらえるかもしれないという一縷(る)の望みにかけたのではなかろうか。一瞬でも赤ちゃんをいとおしいと思ったのではなかろうか。それは、アオイのただの想像なのかもしれないのだけど、アオイも僕らもそう思いたいし、視聴者の方にそう思ってもらいたいっていうメッセージなんです」と語っていた。

 ドラマは全10回。すでに折り返し地点を過ぎ、24日放送の第6回「いつか望んだとき」では、原点ともいえる「中絶」に立ち返った。残り4回、どんな命の物語を見せてくれるのか、ドラマの今後に注目だ。

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