名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
令丈ヒロ子さんの人気児童文学が原作の劇場版アニメ「若おかみは小学生!」(高坂希太郎監督)がジワジワと支持を集めている。メインターゲットのファミリー層だけでなく、アニメファンや映画ファンまで取り込んだ幅広い層の心をつかんだ裏には、誰もが愛するあのアニメスタジオの陰が……。週に100本以上(再放送含む)のアニメを見ている“オタレント”の小新井涼さんが独自の視点で分析する。
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9月に公開された劇場版アニメ「若おかみは小学生!」が、一度上映が打ち切られた映画館で相次いで再上映されるほど話題になっています。
「若おかみ」はタイトルの通り、小学生の主人公・関織子(おっこ)が、事故で両親を亡くしたことをきっかけに春の屋旅館を営む祖母に引き取られ、そこで若おかみをすることになるお話です。劇場版はおっこが、若おかみになる原因となったウリ坊をはじめとする幽霊たちや個性的な客人たちとの出会いと別れの中で両親の死と向き合い、成長してゆく物語になっています。
老若男女を問わず受け入れられるストーリーではあるものの、原作が児童文学の「青い鳥文庫」(講談社)ということもあって、公開するまでは完全に子供やファミリー向けの作品と考えられていました。ところが、いざふたを開けてみると、20代以上の大人たち、それも会社員やカップルといった意外な層の間でも徐々に話題となり、観客の熱い要望を受け、いったん上映を打ち切った映画館でも再上映するといった現象が次々と起きたのです。
本作が、公開前からは予想できなかった形でこのようにヒットしたのはいったいなぜなのでしょうか。
私は、人気の火付け役となったのは「意外な層からの高評価」だと思っています。この作品で気になったのが、映画の公開後しばらくすると、普段アニメを見ないような人や、冒頭に挙げたような「あなたが『若おかみ』を見るの?」というような意外な層からの高評価をちらほら目や耳にするようになったことでした。そうした「意外な人」による高評価は、作品内容への興味以前に「タイトルのイメージと全然結びつかないこの人がここまで絶賛するってどんな作品なんだろう」という、純粋な好奇心を人々に抱かせます。本作がじわじわと後から広がる形のヒットになったのも、そうした意外な層からの口コミやSNSへの投稿が起爆剤となり、気になった人々が次々と劇場に足を運び始めるようになったからだと思うのです。
ではそうした意外な層の人たちが最初に「若おかみ」に興味を持ったのはなぜかというと、それは、新海誠監督や「NON STYLE」の井上裕介さんといった著名人からの絶賛が原因であるとよく言われています。しかし、それ以上に大きかったのは、そうした著名人の絶賛をきっかけに、実際に劇場へ足を運んだ人たちが、軒並み大絶賛の感想を発信し続けたことではないでしょうか。何よりそうした絶賛の感想を見ることで、本作を子供やファミリー向けの作品であると思っていた人たちが、「『若おかみ』って自分たち向けの作品でもあるんだ」ということに気づくことができ、幅広い年齢層に支持されて今のヒットにつながったと思うからです。
こうした「若おかみ」の盛り上がり方は、同じく公開後に徐々に話題となっていった「この世界の片隅に」と似ているともよく言われているようですが、私は全くの別物だと考えています。
「この世界の片隅に」では、公開当初、元々の原作ファンが作品を地道に広めていったという功績が大きかったと考えているのですが、今回はむしろ劇場版で初めて「若おかみ」に触れた新規のファン層の方が、その意外な面白さに興奮してSNSや口コミで熱心に布教しているように見えたからです。このような作品人気の広がり方は、どちらかというと、同じく公開後の口コミから徐々に話題になっていった「カメラを止めるな!」に近い、いわゆる「バズる」形でのヒットであると私は思います。「若おかみ」のこの現象は、公開前はあまり注目されていなかったマイナー作品でも、口コミで火が付けば一躍話題作になるというポジティブな前例といえるでしょう。
しかしその一方で気になったのは、口コミで作品を称賛する際に「ジブリ映画のよう」という言葉が、あまりにも多用されていることでした。確かに「若おかみ」の高坂希太郎監督は数々のジブリアニメにメインスタッフとして参加していましたし、作中にもそれをほうふつとさせる描写はあったかもしれません。とはいえ、全くの別作品である「若おかみ」を、同じアニメ映画である「ジブリ映画のよう」と例えることが、まるで褒め言葉のようにされていることには少し違和感を抱いてしまいます。もしかするとこの「ジブリ映画のよう」という言葉は、作品の素晴らしさをたたえてというよりも、「普段アニメを見ない人でも見られるアニメですよ」という意味を込めて使われているのではないでしょうか。
そう考えると、今回のヒットは素直におめでたい一方で、普段アニメを見ない人が劇場に足を運ぶほどのムーブメントに達するには、いまだに「ジブリっぽい」という大義名分が必要という、ちょっとした“ジブリ信仰”がまだまだ垣間見えるものでもあったと私は思うのです。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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