今月30日で終わりを迎える平成は、任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」の絶頂期と共に始まり、ゲーム業界の成長の歴史と重なる。そこで平成のゲーム業界を、20年以上専門記者として現場で見てきたおじさんゲーマーが、今回故郷に帰るのをきっかけに印象に残った“思い出”をちょっと振り返ってみました。第1回は、スクウェア・エニックスの前身となるスクウェアの危機です。
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激動の平成のゲーム業界で、おじさんにとって最も印象に残ったのが、2001年に公開されたスクウェアの映画「ファイナルファンタジー(FF)」の興行失敗から始まる同社の再建です。映画は大きな期待をかけられながらも大失敗し、同社は約139億円の特別損失を計上した上に、映画事業からの撤退を発表しました。その過程で、当時の社長だった鈴木尚さんが発表した再建策には驚かされました。「聖剣伝説」シリーズや「サガ」シリーズなどの開発を凍結し、「FF」シリーズの開発にシフトしたうえで、「FFVII」や「FFVIII」をPS2向けにリメークするとぶち上げたのです。
だが「FF」シリーズの“生みの親”で、映画製作プロジェクトの責任者だった坂口博信さんが副社長を退いて最終的には退社することになり、当時の社長だった鈴木尚さんも責任を取りました。東京証券取引所の兜倶楽部で会見した鈴木さんが「(記事に)引責と書いていただいてもかまいません……」と悔しそうな表情をしたのを覚えています。PS版のFFVIIがヒットしたのはたった4年前のこと。そのときの同社は時代の寵児(ちょうじ)的な扱いだっただけに、あまりの落差に恐ろしさを感じたものです。
当時の記者たちの予想では、スクウェアの危機ではあるが、有力ゲームという財産もあるし倒産はない……という見方で一致はしていました。ただ、SCE(現SIE)が買収するのではという予測については、かなり意見が割れました。結論からいえば“引き分け”。SCEはスクウェアに出資はしたものの、経営権を握るまでの額ではなかったのです。スクウェアがソニーグループに入っていたら、どんな歴史が紡がれたのでしょう……。
話を戻します。そんな壊滅的な状況からスクウェアを復活させたのが、社長職を継いだ和田洋一さんでした。その手法は、ゲームを1本作るたびに世界観やキャラクターをごっそり変えるのは非効率……ということで、リメークやスピンオフ、続編を活用するという、今のゲームでは常道ともいえる経営戦略でした。
ただ、この考えは、当時のゲームファンには相当不評でした。ネットでも悪口が書き込まれ、東京大で開かれたゲームを題材にした授業で「スクウェアのやり方は悪……」という質問が出て、ゲームジャーナリストの新清士さんが「企業は利益を追求するもの」と答えて、フォローするという場面にも遭遇しました。
だが今振り返ると、ゲームのリメーク、スピンオフは、今はどのゲームメーカーもやっているし、ユーザーからも一定の支持を受けています。もちろん、新しいことに挑戦し続けていくのはエンターテインメント産業であるゲーム業界にとって非常に大切なことです。しかし、この戦略で、一つの人気ゲーム会社が倒産せずに経営的には立ち直ったわけです。そう考えると、もう少し違った評価があってもいいのかもしれないとも思うのです。
さて、社長が交代し、経営が立ち直って余裕が出たこともあるのでしょうが、凍結したはずの「サガ」シリーズも02年には復活し、一番大きな話であろうPS2版リメークの話も、いつの間にか“白紙状態”になりました。それでも個人的には、「FFVIII」のリメークは実現してほしかったと今でも真剣に思っています。幻の発表から18年が経過しましたが、PS4版「FFVII」のリメーク版発売後にもしかしたら……と思ってしまう、おじさんなのです。
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