コンフィデンスマンJP:ネタバレあり! 脚本家・古沢良太が語る映画を2倍楽しむ方法

映画「コンフィデンスマンJP」の脚本を手がけた古沢良太さん
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映画「コンフィデンスマンJP」の脚本を手がけた古沢良太さん

 5月17日の公開以降、順調に観客動員を伸ばし、21日目となる6月6日の時点で観客動員が150万人、興行収入19億円を突破している映画「コンフィデンスマンJP」(田中亮監督)。その痛快な展開に膝を打った人は多いだろう。脚本を担当したのは、2018年4月期に放送されたフジテレビ系“月9”ドラマ「コンフィデンスマンJP」から引き続き手がけている古沢良太さんだ。「連続ドラマのときのだましの手口やライバルの存在といった断片的なアイデアをつなぎ合わせて作ったのが、今回のロマンス編(映画)」と語る古沢さんに、今作の脚本完成への道のりや、物語にちりばめられた伏線、“真実”につながるヒントを聞き、今作を2倍楽しむ方法を探った。*ネタバレあり。未見の方はご注意ください。

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 ◇最初のネタは「宇宙」や「武器」だった

 連続ドラマに登場した人物が絶妙に配置され、複雑な相関図を作っている今回の「ロマンス編」。企画当初からターゲットとなる人物(*ネタバレ1)を決めていたのかと聞くと、古沢さんは「いやいや、決めていないです。最初は全然違う話をいくつも作ってボツにしていきました」と明かす。なんでも最初は、「宇宙開発編」や「武器商人編」といった「結構ハードな話を考えていた」そうだが、考えているうちに「殺伐(さつばつ)としてつらくなっちゃったんで(笑い)、恋愛をテーマにした華やかな話のほうが、やっぱりお客さんは喜ぶのではないか」と、現在の形になったという。

 ドラマでは恋愛詐欺は扱っていなかった。そこで、最近、世間をにぎわせた海外の財閥一族が起こした不祥事をヒントに、「財閥のトップで、“氷姫”という異名をとる、非常に冷血な女性を最初に設定し、その女性を巡る恋愛詐欺」を考えていったそうだ。

 その財閥のトップから香港マフィアの女帝にシフトした“氷姫”ことラン・リウを演じているのが竹内結子さんだ。ラン・リウが持つとされる伝説のパープルダイヤを手に入れようと、長澤まさみさん演じるダー子、東出昌大さん演じるボクちゃん、小日向文世さん演じるリチャード、小手伸也さん演じる五十嵐が動き出す、というのが映画の大筋だ。

 その一方で、恋愛詐欺をネタにするなら必要になってくるのは、古沢さんいわく「恋愛詐欺のスペシャリスト」。そこで作られたのが、三浦春馬さんが扮(ふん)するジェシーだった。ジェシーの存在と、ダー子との“関係”は、「早い段階から考えていた」そうで、2人がパープルダイヤを手に入れようと“別々の方向”から策を講じ、物語は展開する。さらにそこに、ドラマ第1話「ゴッドファーザー編」で、ダー子たちにまんまとだまされた、江口洋介さん演じる日本のヤクザ、赤星栄介が加わり事態はますます複雑になっていく。

 ◇キーパーソンは「コウ・カイトウ」

 映画には、序盤からアイパッチをつけた女性が登場する。彼女の正体(*ネタバレ2)は映画の最後に明かされるが、彼女のように“ヒント”となる人物がところどころに配されているのも今作の巧妙さだ。そこで古沢さんに、そういった仕掛けや伏線のヒントをいくつか挙げてほしいと頼んだところ、いの一番に挙げたのは、ラン・リウの元夫コウ・カイトウだった。

 「コウ・カイトウは、サングラスにひげを生やし、帽子をかぶり、長髪。変装の記号のようなアイテムばかりがある人だから、これは誰かの変装だろうと考える人もいると思います」と指摘する。

 では、誰が変装しているのか? そのヒントは、ボクちゃんと、今回、仲間に加わった、織田梨沙さん演じるダー子の弟子モナコが、コウ・カイトウについての情報を探り、その人物像が説明される場面にある(*ネタバレ3)。

 また、序盤の、小日向さん演じるリチャードが、沖縄で、ドラマ第7話「家族編」に登場した佐津川愛美さん扮(ふん)する矢島理花とプールサイドでいちゃいちゃしている背後にも、カメラのピントは合っていないものの、ある人物がしっかり映り込んでいる(*ネタバレ4)。その場面では、つい、水着姿の女性に目が行きがちになるが、それをぐっとこらえ、彼女たちとすれ違う人物に注目することをお勧めする。

 ◇「一瞬の議論」があったモナコの存在

 古沢さんによると「序盤のシーン展開が、割と僕(の作品)としてはもたもたしている」こともヒントになるという。「ダー子がラン・リウという人物の存在を知る前段階で、ダー子がモナコと出会い、ボクちゃんは遊園地で(ドラマ第7話に登場した)キンタ(岡田義徳さん)・ギンコ(桜井ユキさん)と出会っている。そこのところを、伏線を張っているためだと解釈しながら見てほしいです。すごく高度な見方ですけど(笑い)」と勧める。

 モナコは、今回の映画公開初日の翌日に放送されたスペシャルドラマ「運勢編」にも姿を見せており、こちらを先に見た人は、ある意味、“二重”にだまされることにもなる。このモナコを「運勢編」に登場させるか否かでは、「一瞬の議論」があったという。これについて、プロデューサーの成河広明さんは「先に映画を見た人からすると、後日談でモナコがちゃんとダー子の仲間になっているなと思うし、先に『運勢編』を見た人は、新しい仲間が入ったんだなと思って『ロマンス編』を見て、そこではダー子がモナコを自分の弟子にするという前日譚(たん)になっているので、それはそれで問題ない」との結論に達したという。

 ◇以下、完全なネタバレになります。ご注意ください。

 *ネタバレ1:今回のターゲット、赤星に関しては、企画当初から「どこかに出そうとは思っていましたが、彼をだますことは考えていませんでした」と古沢さん。代わりに、偽のターゲットとなるラン・リウとダー子の“つながり”は、「いろいろ考えていくうちに思いついた」そうだ。

 *ネタバレ2:中華屋などでしばしば目にするアイパッチをつけた女性こそが、本物のラン・リウ。なぜアイパッチなのか。それは映画を見てのお楽しみ。

 *ネタバレ3:「ボクちゃんとモナコがコウ・カイトウの説明をしているシーンで、あとからリチャードが入ってきます。リチャードが最初からそこにいた方が話は早いんですけど、彼は、その直前まで、コウ・カイトウに扮して(ボクちゃんとモナコに)会っていた設定なので、ボクちゃんとモナコよりあとから部屋に入ってくるんです。そのとき一応、リチャードは、顔から変装の跡を取りながら入ってきています」と古沢さん。

 さらに古沢さんによると、本物のコウ・カイトウは、「出てきていません。最初からリチャードです。若い時の写真も偽物です」とのこと。

 *ネタバレ4:映っているのは、ジェシーとモナコ。成河さんによると、ジェシーとモナコは、終盤のネタバレのところで、「今度は(カメラの)ピントを合わせて、同じポジションで、同じ動きをしています。その直前には、ジェシーは女の人とすれ違っている」そうだ。

 最後に、成河さんからのメッセージを。「ぜひ2回見ていただきたいです。1回目はだまされる側、2回目はダー子たちの目線(つまりだます側)で見られると思います。だます側で見ると、ダー子の“子猫ちゃん”になった気分になるので、印象が変わるはずです」。

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