名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載中の幸村誠さんのマンガ「ヴィンランド・サガ」と「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の野田サトルさんのマンガ「ゴールデンカムイ」。前者は7月にテレビアニメがスタート、後者は2018年にテレビアニメ化されるなど共に人気作だ。バイキングの生き様を描く前者、明治時代末期の北海道を舞台にした金塊をめぐるサバイバルやアイヌ文化を描く後者と、テーマが珍しいという共通点もある。互いの作品をリスペクトし合っているという幸村さんと野田さんの対談がこのほど実現。第1回は、人気マンガ家の二人に、互いのマンガの魅力を語り合ってもらった。幸村さんが「ゴールデンカムイ」愛を爆発させ、野田さんの緻密な取材の裏側が明らかになる。
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――「ヴィンランド・サガ」「ゴールデンカムイ」をそれぞれ読んだきっかけは? 第一印象も教えてください。
幸村さん 元々、ヤングジャンプを毎週読んでおりました。当時、最近のヤンジャンはきてる!と注目しておりましたところに「ゴールデンカムイ」が連載を開始。読む前から既に「ヤンジャンだから多分面白い」と、バイアスがかかっていたと思います(笑い)。第1、2話と拝読して、まず「調べている……この人はちゃんと調べてから始めているぞ!」「多分、まだまだ用意してるぞ! このマンガは面白いアイデアをたくさん用意してるぞ!」という印象を持ったことを覚えております。そして、僕は個人的にヒグマや猟師の話が好きです。「これは僕好みのやつが始まった!」と思いました。それで担当さんに「ヤンジャンで先々週から始まった『ゴールデンカムイ』読んでます? あれは絶対面白くなりますよ」って言ったんです。そしたら「幸村さんが面白いって言うと、そのマンガの運が落ちるからやめてあげて」と返されました。なんだか僕そういう死神的な扱いをされています。僕が枕元に立つと呪われると。呪われねーわ! てゆうか、ほら見たことか大ヒットじゃないですか!……って言うと「幸村さんがファンじゃなかったらゴールデンカムイは今の3倍売れてた」とか言うんだあの人。ともあれ、かなり早い段階で「ゴールデンカムイ」の魅力に気付いたことがワタクシ自慢です。
野田さん ありがとうございます。うれしいです。幸村先生の「プラネテス」が当時とても衝撃的でした。それまではファンタジー寄りのSFしか知らなかったので、何というか、地に足がついたリアリティーのあるSFで「すごい作家さんがきたな」という感じで。幸村先生が次にどんなものを描くのかってのは注目していました。(「ヴィンランド・サガ」の)第1話を拝読して「これはとても大変なところに覚悟を持って踏み出だされたんですね」という印象です。これだけ絵のディティールにこだわりの強い作家さんが北欧系の歴史物を描くというのはどれだけ大変かお察しします。僕もそうなんですが、気になってしまうと、ロシアのドアのノブはどんなのだろうと気になって資料から探してしまうこともありますので、幸村先生もそんな感じだろうなって。
――このマンガはすごい!と感じたところは?
野田さん 「ヴィンランド・サガ」は、巻を増すごとにどんどん描き込みが濃密に重厚になっていきますね。人物のタッチも多くなっていって、モブの描き分けもすごいし、細密に描き込むからこそ伝わることがたくさんあります。特に雪の描写が良いです。斧(おの)が落ちれば、斧の形に雪が落ちくぼんだり、深い雪の足跡がしっかり描けているんですよね。どこのコマもその描写に手を抜いてない。「ゴールデンカムイ」も本当はあんな雪を描きたかったです。週刊連載だと本当に余裕がなくて妥協してしまった……。いろいろなことに妥協しまくってます。本筋に関係なくて申し訳ないんですけど、そういう細かい描写に目がいきます。
幸村さん 僕が「ゴールデンカムイ」をすごいと思うのは、エンターテイメント精神にあふれているところです。とにかくもう、野田さんの「読む人を楽しませよう」というお気持ちが随所に詰まっていて、本当に素晴らしいなと思います。でも、野田さんは、きっと一番にはご自分を楽しませようとしていらっしゃるんだろうな……とそんな風にもお見受けします。ご自分が楽しんでいるからこそ、それが読者にも伝わるのだろうな、と。毎回の表紙の遊び心にはいつも楽しませていただいています。アシ(リ)パさんがアザラシとかリスとかとなんかイイ感じに戦友感を出してる時とか。食べちゃう前のやつ(笑い)。遊び心ですよね。本当に。「殺人ホテルだよ全員集合」のあの一連の回なんか遊び心の塊じゃないですか。たらい落ちてくるのとか。最後のあの、建物が崩れて出てきた時の杉元たちのあの服の破れ方! そんなとこをこだわって再現するのすごいな!って思いました(笑い)。ささいな部分にもしっかり労力を費やしてネタを入れてくるのってすごいなあ。杉元たちが第七師団本部から飛行船で逃げる時、鯉登少尉が一瞬空中を泳ぐコマが入るじゃないですか。あの一コマ、もちろんなくたって物語は追えるのですが、ちゃんとスペースを取って入れてらっしゃるんですよね。僕は「ゴールデンカムイ」のそういうところが大好きなんです。
――幸村さんがおっしゃるように、野田さんは「遊び」「楽しませよう」という気持ちを強く意識しているのでしょうか?
野田さん 会話劇でよくある「ボケてツッコんで」みたいなのよりは、絵とかその動きで遊びを入れるのが好きです。鯉登がスイスイやるのはアニメ「名探偵ホームズ」とか「未来少年コナン」とかあの辺のイメージで、どの場面のマネってわけじゃないんですけど、宮崎駿さんとかが昔のアニメでああいうダイナミックな重力表現をたまにやったんです。キャラの必死感とか豪胆さみたいものが伝わるので好きです。オマージュは本当はあんまりしない方がいいんですけどね。大ヒットした作品がある前提のギャグなんで卑怯(ひきょう)です。それに全くのオリジナルなシーンまで「あそこはあのパロディーだ」と言われてしまっているようなので。オリジナリティーのない作家みたいで不本意ですね。
――「ゴールデンカムイ」は料理、食事シーンも魅力の一つです。幸村さんは特に印象的な料理はありますか?
幸村さん いっぱいありますけど、食べたい!って一番思ったのはシャチの竜田揚げです。あれは本当においしそう! 脳みそは……。もしアシ(リ)パさんがすんごい顔でこっち見てたら食べます(笑い)。ご飯の絵がすごくリアルですよね。作り方も詳細だし。あれは想像で描いてらっしゃるんでしょうか? それとも一度取材として作ってみて、写真に撮っていらっしゃるのかしら。なんにしろすごいなあ。
野田さん 明治生まれの女性の聞き取り文献や道東に生まれ育ったアイヌと親密に過ごした和人の方が昭和初期にアイヌから聞き取った「さまざまな動物をどう扱い、どうやって食べたか」という内容の文献があるんですけど、そういうのを参考にしたり、阿寒湖のアイヌ料理のお店を取材したり、アイヌの猟師さんの鹿狩りについて行ったり。最近だと樺太へ行ってニヴフ(族)の方に頼んでいろんな料理を作ってもらって撮影したり。博物館や大学の研究者の方たちからもご厚意で写真や資料などをたくさんいただきました。鶴の肉の味が描かれている古い文献とか。ウミガメなんかは父島のウミガメ料理を出す居酒屋の方に調理法を聞いたり、「腹甲の切り方が間違ってる」と爬虫類を専門に研究されてる方に言われて修正したり。現代の似たような料理を参考に想像で描いたりして、とにかくいろいろですね。
――それぞれの作品で印象に残っているシーンを教えてください。
幸村さん これもたくさんありますけど、あれだなあ。大雪山でエゾシカのおなかに入って寒さをしのぐシーン。アシ(リ)パさんと杉元が一緒に入って、「元の自分に戻れず心がずっと戦場にいる」という杉元の言葉に、アシ(リ)パさんが泣かせることを言う(泣)。いいシーンですよね。好きです。戦争、暴力、殺人描写は、マンガや映画ではエンターテイメントとして消費されがちです。しかし“ただの”暴力エンターテインメントか、それとも、逃れられない現実の、また人間の一側面として隠さずに暴力を描くのか。こういうシーンがあることで作品の意味がかなり違ってくると思うのです。遊び心を織り込みつつやることはやる、すごいぜ「ゴールデンカムイ」……!
――「ヴィンランド・サガ」で印象に残っているところは?
野田さん 最初の方ですけど、バイキングが土曜に風呂に入るからって知っていたイングランド人が襲ってくるとこなんかが良いなと思いました。その民族の文化風習を話の展開に利用するのが、とても理想的な話の作り方です。「ゴールデンカムイ」でいつも担当さんに言われることが「ただの文化紹介マンガにならないように」です。あと、ビョルンが、ああいうことになって、その前日にアシェラッドと「足の傷の具合はどうだ」っていう会話のやり取り。ネタバレ嫌いなんで詳しくは言わないですけど、生き残ってきた古参兵同士の一見ドライなんだけど、ああいう感じの関係って大好きですね。
――マンガ家としてそれぞれ「うらやましい!」と感じることはありますか?
幸村さん 「すごいと感じるところ」とほぼ同じですが、やはり「遊び」がふんだんにある部分です。顧みて、自分にはそれがないなあ……と。僕は「必要なもの」ばかり描いてしまうクセがあると自覚しております。必要とは、ストーリーの進行においてです。ハンドルに遊びがない。余裕が足りない。「ゴールデンカムイ」のような「必要はないけど面白い」部分が欠けていると思うのです。木の実を食べたり狩りをしたり、おいしいご飯を作ったりという、楽しい寄り道をもっとすべきだったな、と。読みながら、こんな風にオモシロ盛りだくさんに描けたらなあ……と思っています。
野田さん 幸村先生の硬派なところが好きという読者も多いと思います。「ゴールデンカムイ」は金塊の謎解きをメインに描きたいマンガではありません。それぞれの人間が人生の役目を探す話だと思って描いてます。群像劇のように描いてるので、それぞれのキャラクターをある程度描いてあげないと、中途半端な作品になってしまうところまで育ってしまった気がします。本当は僕はものすごくせっかちなんで、描きたいこと描いたら早く終わらせたいくらいなんですけど。
――「ゴールデンカムイ」でお気に入りの登場人物は誰ですか?
幸村さん 僕は谷垣です。
野田さん 僕も谷垣です。幸村先生は「ヴィンランド・サガ」で一番お気に入りの登場人物は誰ですか? アシェラッドは、言うまでもなく本当に良いキャラというか、幸村先生の人格が一番濃く出ているのではないかと勝手に思いました。地味に「耳」みたいなプロフェッショナルの技術職人が好きで、ひそかに良いなと思ってたんですけど、あんな容赦のないひどい目に遭っていて笑いましたね。
幸村さん アシェラッドを褒めてくださってうれしいです。ありがとうございます。僕もやはりアシェラッドはかなり気に入っております。彼一人の中に相反する複数の性質が潜んでいて、我ながらなんと形容していいのか分からない妙な人間に育ったな、と思っています。悪人なのか善人なのか、父なのか敵なのか、バカなのか利口なのか分からないやつだなあと思っております。自分の中でもちょっと特別な登場人物です。僕の人格が反映されているかどうかは、自分を客観視するのがへたなせいでちょっと分かりません。どうなのかな……。
幸村さん 人間以外の生き物と一回ウコチャヌプコロしなければならないとしたら何としますか?
野田さん その質問はちょっとやめておきましょうか。でも幸村先生からこんな頭のおかしい質問が来たということは言っておきたいです。
幸村さん とんでもない質問をしまして申し訳ございません(笑い)。いえ、あまりにも姉畑支遁のキャラクターが僕にとって強烈だったもので。脱獄囚がもう、ことごとくぶっ飛んだ個性を発揮していて、本当に感服しております。ああいった人物たちをどうやって発想なさるのか……。すごい。ちなみに、僕がどうしても人間以外とウコチャヌプコロしなければいけないとしたら、産卵で遡上(そじょう)してきたサケの大群の中に素っ裸で身を投じてしようと思います。
*第2回に続く。
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2024年12月22日 21:00時点
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