映画化もされた「散歩する侵略者」などで知られる演出家の前川知大さんの新作舞台「終わりのない」に出演する女優の奈緒さん。奈緒さんといえば昨年のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「半分、青い。」で注目を集め、放送中の連続ドラマ「あなたの番です」(日本テレビ系)ではストーカー気質の“尾野ちゃん”として、顔に張り付いたような笑顔や焦点の合わない目、どこかズレた言動で視聴者を怖がらせている。今回が初舞台で、「浮き足だっているので、地に足をつけて頑張らないとなって思っています」と意気込む奈緒さんに、話を聞いた。
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舞台「終わりのない」は、古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を原典とした、神話的SF作品になるという。SFへの興味は「ものすごくある」としながらも、「自分が演じるとなると、ものすごく難しい」と感じているという奈緒さん。その上、舞台初挑戦となると、普段の映像作品とはまた違った緊張感やプレッシャーがありそうな気もするが、奈緒さん自身は「初めて何かするのがとても好きなので」とどこか楽しそうだ。
もちろん「今までやってきた作品と比べて、舞台は芝居の途中でカットがかからない」というのは承知の上。「最初から最後まで自分がそこに居続けることができるのか。正直やってみないと分からない」と不安がないわけではない。
それでも「無知は無知なりに、分からないところは『すみません、教えてください』って感じで、たくさんのことを学びたい」と前向きで、「映画やドラマももちろん好きなんですけど、より直接的にパワーをもらえるのが舞台。役者としても自分の演技に直接的なリアクションがあって、そこに怖さもあるんですけど、同時にすごく楽しみ。前川さんの(以前の)舞台を見て、(脚)本を読ませていただいてから、あの頭の中ではどんなことを考えているのだろうって、ワクワクしっぱなしなので、自分がそこに交じることができるのも楽しみです」と声を弾ませる。
そんな奈緒さんだが、実は「不安症」。一方で経験を重ねることで「不安症の自分も受け入れられるようになった」と明かす。「尊敬する先輩方も初日に『不安だな』ってこぼすのを聞いて。そこは無理に変わらなくてもいいのかなって考えられるようになったというか。自分に正直に、背伸びせず、無理せずにいればいいのかなっていうのは作品を重ねることで、得られた自信でもあって。そのことにより、現場をみんなで作っていくってことを楽しめるようになったのかなって思ってきています。これを変化と呼べるのかどうかは分からないんですけど」と語っている。
「半分、青い。」で演じた愛らしい“菜生ちゃん”から、それこそ見ているこちらが不安に陥りそうな、何かとんでもないものが見え隠れする「あなたの番です」の“尾野ちゃん”まで、幅広い役柄に挑戦してきた奈緒さんが、女優として大切にしているのは「興味を持つこと」。一見、当たり前のようにも思えることだが、時として自分とかけ離れたキャラクターにならざるを得ない職業でもあるため、決して容易ではないはずだ。
奈緒さん自身も「興味って持とうと思って持てるものではない」と自覚はしており、「普段、何気ないときに『(演じる役の子が)どういう育ち方をしたら、こういう人間みたいになるのか』と思ったら、絶対に自分の中でスルーはしたくはないんです」ときっぱり。「少しでも気になったことや、ちょっとでも自分の中で湧いた感情や疑問に対して、納得できるまで役に向き合おうと心がけてはいます」と話していた。
作品や経験をどんなに積み重ねても変わらないのが「役を演じることの楽しさ」。奈緒さんは「楽しいですね。変わらずに楽しくて。毎回出会う役も違うので、そういった意味でも新鮮でいられて。飽きることもなく、ずっと楽しいし、これからも楽しんだろうな」と笑顔で語る。
作品や役へと向かう原動力は「きつさ」で、「普通に生きてきた中で、これはめちゃくちゃきついなって、これは嫌だなって思うことはあまりなくて。でもお芝居にはそれがある。悔しいって気持ちにもつながりますし、それこそ不安も抱く。でも、そういうふうに思えるのは、今のところお芝居しかなくて。きついからこそ、ずっと続けたいと思ってしまうのかな」としみじみ。そして「だからこそ今回も新しい扉を開くきっかけにもなるんじゃないのかって思えるんです」と初舞台で生じる“きつさ”や“悔しさ”に期待していた。
最後に、ちょうど1年前に撮影していた「半分、青い。」を振り返ってもらった。「あれからもいろいろな役をやってきて、周りから『半分、青い。』の菜生ちゃんと全然違うって言われることも多くて。だからあの役は何か一つ自分の中で基盤になっているんだなってずごく感じますね。自分にとって一番、無理がない役と時間をいただけたっていう意味でも感謝していますし、自分と周りの環境を変えてくれたのかなって思っています」と思いを明かす。
また「あなたの番です」での怪演ぶりに対して、視聴者から「怖い」に加え、「気持ち悪い」との声も上がっているが、「今まで言われたことがない言葉。自分の知っている範囲では、怖がられることも気持ち悪がられることもなかったので。そういった反応はすごく面白い。最近、撮影帰りに歩いていると、髪形が役のままなので、気づかれることもあるんですけど、結構ビクッとされるんですよ、夜道とかだと。その方には申し訳ないんですけど、それがすごく面白いですし、奈緒ではなく“尾野ちゃん”と呼んでいただけることも多いので、こんなにうれしいことはないですね」と楽しそうに笑った。
脚本・演出:前川知大
出演:山田裕貴/安井順平/浜田信也/盛隆二/森下創/大窪人衛/奈緒/清水葉月/村岡希美/仲村トオル
日程:2019年10月29日~11月17日
会場:世田谷パブリックシアター
チケット一般発売:8月25日から