牛尾憲輔:劇伴の刺激 ポジティブスパイラルも ショートアニメ「そばへ」も話題

「そばへ」の音楽を手がけた牛尾憲輔さん(左)と石井俊匡監督
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「そばへ」の音楽を手がけた牛尾憲輔さん(左)と石井俊匡監督

 ショートアニメ「そばへ」がYouTubeのマルイノアニメ公式チャンネルで公開され、既にSNSで「美しい!」などと絶賛の声であふれている。劇場版アニメ「未来のミライ」(細田守監督)に助監督として参加した石井俊匡さんが監督を務め、agraph(アグラフ)名義で活動し、アニメ「ピンポン THE ANIMATION」「リズと青い鳥」などに参加してきた牛尾憲輔さんが音楽を担当したことも話題だ。牛尾さん、石井監督に音楽の魅力、制作の裏側を聞いた。アニメ、実写などさまざまな映像作品に参加してきた牛尾さんは、アーティストとしての活動、劇伴との関係を「二つの仕事を行き来するポジティブスパイラルがある」と明かした。

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 ◇たくさんの雨のしずくが垂れるように

 「そばへ」は、とある雨の日、帰路につこうとした統(おさむ)が、 紗友(さゆ)にプレゼントされた傘がなくなっていることに気付き、傘がやがて少女になる……という展開。丸井グループの企業理念の一つに掲げる「インクルージョン(包摂)」をテーマに、東宝、アニメ「宝石の国」などのアニメ制作会社のオレンジが制作。女優や声優として活躍する福原遥さんが声優として出演した。石井監督は、テレビアニメ「僕だけがいない街」「約束のネバーランド」などにも参加してきた気鋭の若手クリエーターで、これが初監督作品。

 アニメはインクルージョンがテーマとなっている。牛尾さんはオファーを受けた際のことを「ピンとくるテーマでした」と振り返る。

 「プロデューサー、監督と話をしていて、雨とインクルージョンというテーマから、その場で音楽の構造が導かれました。それが最後まで貫徹できた。過去に自分のソロの作品でも雨をテーマにしたこともあったのですが、それは、雨の軌跡をイメージしていて、もっとミクロな視点だった。今回は、街、人を内包した視点で、たくさんの雨のしずくが垂れるように、いろいろな楽器が鳴っているイメージがあった」

 牛尾さんは音楽について説明しながら図を描く。真ん中に「メロディー」と書かれた円があり、周囲にたくさんの雨のしずくがある図だ。

 「中央に内包するものがある。それがメロディー。(雨のしずくの)一つ一つがバイオリンだったり、シロフォンだったり、ピアノだったりする。コンセプトベースで音楽を作ることが多く、作品の芯を作るんです。それがすぐに浮かんできた」

 ◇福原遥の声の魅力

 今回の音楽には、福原さんの声が素材として使用されている。透明感があり、美しい声が印象的だ。

 「映像から叙情的な部分、音色の温かさのインスピレーションを受け、優しい印象にしたかった。無声音を使いたかったんです。リズムに対して遅くならず、ビートのある音にしたかった。ほかの音に埋もれてしまう可能性もありましたが、福原さんの声は優しさがあり、前に出てくる音でした。混ぜやすい声なんですね。素晴らしかった」

 石井監督は、牛尾さんが手がけた音楽を聴き「福原さんの声の使い方を聴いて、こうなるんだ!とドキッとしました。多幸感が増えてくるところだったり、音楽で感情が分かる。雨のシズル感が音にあったり、すごい!となりました」と刺激を受けたようだ。

 ◇普段の活動があるからできること

 牛尾さんは、agraph(アグラフ)名義で音楽を発表する一方、アニメ「ピンポン THE ANIMATION」「リズと青い鳥」のほか、映画「モリのいる場所」などの音楽も手がけてきた。普段の音楽活動といわゆる劇伴とは作り方が「違う」という。

 「音楽は時間に沿って展開する。劇伴の場合、映像が主になる。音楽的な時間の流れではなく、映像の流れに合わせる。自分が全てを決めるわけではありません。コラボレーションのような感覚で、刺激を受けます。普段の活動があるからできることでもあります。ソロは5、6年かかることもあります。映像の音楽は研究開発、実験をしている時間はあまりない。ソロで5年かけて研究して、そのシナジーを持ってくる。名前を出すのもおこがましいのですが、武満徹さんは映画音楽でオーケストラに邦楽器を取り入れたことがインスピレーションになって『ノヴェンバー・ステップス』を作りました。そういった、二つの仕事を行き来するポジティブスパイラルが昔からあったんですよね。すごく刺激的なんです」

 アニメ、実写によって音楽の作り方が大きく変わることはないといい、「劇伴の仕事をしていると、大変なのは曲名を決めること。30~40曲作ることになるので……。実写は日本語でアニメは英語にしようとか(笑い)」と明かす。

 石井監督は、牛尾さんが作り出す音楽の魅力を「ロジックがあって音楽を作られている。説明も分かりやすく、音楽を聴くと納得できる。単純にすごいな!となります。今回もイメージに乗っ取った上で超えてきた」と語る。すごい!音楽があったからこそ、「そばへ」もまた魅力的な映像作品になったのだろう。

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