日野晃博×伊藤智彦監督:異世界ブーム、劇場版アニメバブル… 「二ノ国」「HELLO WORLD」クリエーター対談

「HELLO WORLD」を手がけた伊藤智彦監督(左)と「二ノ国」の製作総指揮・原案・脚本を担当した日野晃博さん
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「HELLO WORLD」を手がけた伊藤智彦監督(左)と「二ノ国」の製作総指揮・原案・脚本を担当した日野晃博さん

 今夏、数々の劇場版アニメが公開された。「君の名は。」のヒット以降、劇場版アニメが急増し、バブルを迎えている。クリエーターは何を感じているのだろうか……ゲーム「妖怪ウォッチ」「レイトン教授」シリーズで知られるレベルファイブの人気ゲームの世界観を基にした劇場版アニメ「二ノ国」の製作総指揮・原案・脚本を担当した同社の日野晃博さん、オリジナル劇場版アニメ「HELLO WORLD」の伊藤智彦監督の対談がこのほど実現した。2人に制作の裏側を聞いた。

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 ◇ビジネス的、作家的の視点のどちらが強い?

 ――お互いの作品の印象は?

 日野さん 伊藤監督の作品はかなり見ていました。いい作品ばかりで、うらやましいなあ……と思っています。「僕だけがいない街」には衝撃を受けました。原作も素晴らしいけど、アニメは演出面で“こんなことができるんだ!”と驚きました。サスペンス、人間描写、若い人に合ったフィーリングがうまい人なのかな?という印象です。

 伊藤さん 自分にとって日野さんはほかに類を見ないスーパースターですね。アニメ、各種メディアをまたがってオーガナイズしている。どうやってコントロールしているんだろう?と気になりますね。自分の思惑をほかのスタッフに伝えるのか。

 日野さん そこは謎のままにしていた方がいいかもしれませんね(笑い)。

 伊藤監督 小中学生のリサーチをするようですが、僕とは規模が違う。

 日野さん 子供たちがどんなものをクールだと思っているか?を考えますが、研究するものでもないんですよね。その人が持っている本質的なものが自然に入ると思っています。

 ――作品を作る際、ビジネス的、作家的な視点のどちらが強いのでしょうか?

 伊藤監督 僕は一監督なので、ビジネス的なことはプロデューサーに任せています。もちろん全くお金にならない企画はやりませんが。作品と自分の個性の関係は考えていないんですけど、周りから見ると個性が見えるのかもしれません。

 日野さん 僕はプロデューサー目線でクリエーターをアサインすることはあるけど、商業的なことの優先度はあまり高くない。これまで子供向けの作品が多かったので、子供たちがこれを見たら、笑う、喜ぶなど顔を考えながら作っています。このギャグをどう感じるかな?と考えるのが幸せ。苦痛もありますが、その幸せのためにやっているところもあります。「妖怪ウォッチ」を作る前に、「ポケモン」の映画を見に行って感動したんです。大人が笑わないようなギャグで、子供が沸くんですね。それが勉強になりました。

 ◇異世界ブームに何を思う?

 ――アニメなどで異世界ものが流行していますが、なぜ流行していると考えていますか?

 日野さん 現実逃避したいんじゃないですか?

 伊藤監督 同意見です。現実でうまくいかないけど、死んで転生したら……と。逃避は悪いことではない。でも、そればかりだけでなく、違ったものを見せたいですね。

 日野さん 確かに悪いことではない。逃避で終わらず、勇気をもらって、殻を破ることもあります。僕たちも作品を作った後に「救われた」とお手紙をいただくことがありました。意味があると思います。

 ――ゲーム「二ノ国」はスタジオジブリが制作に協力したことも話題になりました。どんな影響がありましたか?

 日野さん ジブリさんと一緒に作っている時、印象的だったのが、ジブリが得意なのは、街が壊れるとかスペクタクルな演出ではなく、日常や生活の芝居ということ。例えば、ハンガーにかかっている上着をとって、手に通してちゃんと着るシーンを大事にしていると。なるほど!と勉強になりました。アニメのすごさは、自由に何でも表現できるところですが、人間をちゃんと描く。劇場版アニメ「二ノ国」でも主人公の動きで通常のアニメーションでは省くようなところをしっかり描くようにしました。

 ◇劇場版アニメのバブルはいつまで続く?

 ――「HELLO WORLD」の制作で意識したことは?

 伊藤監督 作品の勝負ポイントを決める。今回も三つのポイントを作りました。物語として現代の主人公と未来の主人公のドラマ、キャラクターはヒロインをとにかく可愛くする、世界観は仮想世界の表現を頑張る。この三つですね。

 日野さん 大事なところをやっていれば、印象が決まるということですね。うらやましい。そういうことをやらないといけないですね。

 伊藤監督 ゲームとアニメの違いを感じることはありますか?

 日野さん すごく違う。ゲームは自分のタイミングでプレーする。プレー時間が40時間になることもあります。映像であれば1分で説明するところを少しずつ謎が解明されるように見せることもあります。一つずつ丁寧に説明する癖があるんです。「ドラゴンクエスト」を作った時に堀井雄二さんに学ぶことがあって、それは分かりやすさを大切にすることでした。アニメは短く説明しないといけないし、説明し過ぎないこともあります。スピード感が違う。そこが鬼門ですね。

 ――「君の名は。」のヒット以降、劇場版アニメが増えています。どうなっていくと考えていますか?

 伊藤監督 このバブルはいつまで続くのか? ハイティーン向けの作品が多くなるとは思います。コアと一般向けの乖離(かいり)が激しくなるのかもしれません。子供向けのゾーンはどうなっていくのか? あまりやったことはありませんが、そこに日野さんの次の挑戦があると思われるので、楽しみにしています。

 日野さん 映画館で映画を見るというのは、作品を見る場というよりもアミューズメント施設のようになっている。配信でも映画はいくらでも見られるようになっている。でも、映画館にわざわざ行くのは特別な体験になっている。そこに行く価値のある作品を作らなければいけないと思っています。

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