アニメ質問状:「推しが武道館いってくれたら死ぬ」 EDで「桃色片想い」をカバーした理由 

「推しが武道館いってくれたら死ぬ」の一場面(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会
1 / 12
「推しが武道館いってくれたら死ぬ」の一場面(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 話題のアニメの魅力をクリエーターに聞く「アニメ質問状」。今回は、地下アイドルとファンがテーマのマンガが原作のテレビアニメ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」です。ポニーキャニオンの寺田悠輔プロデューサーに、作品の魅力などを語ってもらいました。

ウナギノボリ

 --作品の概要と魅力は?

 「推し武道」は岡山の地下アイドルグループChamJamを、全力で応援するオタクを主人公とした物語です。特に、ChamJamの中でも人気最下位のメンバー・舞菜を必死に応援する女オタク・えりぴよを中心に展開していきます。といった書き出しをすると、どうしても「地下アイドルあるあるを描いたニッチな作品なのでは」と思われがちなのですが、この作品の本質はそこではありません。この作品の本質は「地下アイドルとオタクのあるある」という部分ではなく、「自分以外の誰かを全力で好きになり、全力で応援する」という部分だと思っています。初めて平尾アウリさんの原作マンガを読んだとき、特にアイドルオタクでもない僕が、信じられないぐらい作品に引き込まれたのも、そうした描写に魅了されたからでした。

 もちろん、地下アイドルオタクのキャラクターたちが見せる面白い言動も、この作品の大きな魅力の一つなのですが、そんな彼らも決められたルールはしっかり守り、かつアイドルたちを必死に応援している姿を見せているので、登場キャラクターたちには品があります。そうしたコミカルさとドラマ的要素が絶妙なバランスで両立しているところが、この作品の一番の魅力だと思っています。

 「自分自身は何もなせないかもしれないけれど、誰かを全力で応援することならできる」。そんな生き方を見つけて、ひたむきに突き進む人たちを描いた「推し武道」は、すごく現代的な物語だと思います。

 --アニメにするときに心がけたことは?

 「推し武道」スタッフにはスタジオ、製作委員会含め、原作を好きなスタッフがとても多く、全員がこだわりを持って作品と向き合っています。ですので、この場で各セクションについて語り切るのは難しいのですが、僕自身は音楽プロデューサーの役職をお預かりしているので、今回は音楽のお話をさせていただこうと思います。

 「推し武道」のエンディングテーマは、松浦亜弥さんの「桃色片想い」をえりぴよでカバーさせていただいています。元々、この作品はオタク主人公の物語ということで、「エンディングテーマをえりぴよが歌うものにしたい」ということはかなり早い段階から考えていました。最初は「オタクの心の叫びロック」みたいな曲をやりたかったのですが、脚本打ち合わせを重ねるうちに、本編に直結するエンディングテーマとしては、もう少ししっとりした雰囲気の方が合うのかなと感じるようになりまして、そこが現在のアレンジに向けてのスタート地点となりました。

 それともう一つ、この作品を「ニッチジャンルのあるある作品」ではなく、「人を応援するというシンプルなドラマ」として見せるためにはどうしたらよいか、ということを試行錯誤していく中で、「既存の恋愛ソングをお借りして、そこに推しを想(おも)うオタクの感情を重ねてみるのはどうだろうか」というアイデアが、ある日浮かびました。その二つが重なれば「推しを想う」という行為が、オタク以外の人にとっても身近に感じられる行為に変わるのではと思ったんです。

 そうした流れで、「えりぴよによる歌唱+名曲カバー」というエンディングテーマのコンセプトが決まりました。その上で、えりぴよの想いがしっかり乗りそうで、かつ幅広い世代の方が知っている曲を探していたところ、松浦亜弥さんが歌われていた「桃色片想い」のイメージが浮かびました。「推しを想うオタクの感情」が、片想いの歌詞にうまく乗るのではないかと思ったんですね。

 また、松浦亜弥さんの曲のリリース時に僕は小学生だったのですが、同級生はもちろん、親世代、祖父母世代も当たり前のようにテレビなどで聴いたことがあるような、誰もが知っている名曲だったと思います。

 そうした二つの理由で、今回のエンディングテーマとして「桃色片想い」をカバーさせていただきました。魅力的な楽曲をお借りできたことで、作品のドキドキ感や切なさが、エンディングまで続いているのではないかと思っています。

 --作品を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったことは?

 原作マンガではコミカルさとエモさが絶妙なバランスで両立しているので、アニメでもそこを崩さないよう、シナリオ打ち合わせからアフレコ、ダビング、映像演出に至るまで、監督が中心になってかなり丁寧に進めています。監督もよくお話されているのですが、この作品の現場では「エモい」という言葉が一つのキーワードになっています。

 また、音楽に関して、ChamJamが劇中で歌う楽曲については、最初に平尾先生から「ローカル感は欲しい」という話をいただいたので、キャラクターソングプロデューサーを中心にそのバランスを探りながら曲を作らせていただきました。第1話放送後にはツイッターで「Chamっぽい」というつぶやきもいただき、うれしかったです。

 オープニングテーマ「Clover wish」も同じくChamJamが歌っているのですが、これは劇中歌とは違って「未来のChamJam」をイメージして制作した曲です。「今より力をつけていて、もしかしたら武道館にいけるぐらいになっているかもしれない」未来のChamの曲です。この先のエピソードでもこうした音楽的なこだわりを仕込んでいますので、主題歌と劇中歌、そして劇伴音楽にも最後まで注目していただきたいです。

 --今後の見どころを教えてください。

 この先も変わらず、オタク側、アイドル側両方のコミカルな様子と人間ドラマの部分を描いていきますが、彼らなり、彼女たちなりの成長もしっかり描かれていきますので、ぜひ自分と重なるキャラクターを見つけてご覧いただきたいです。

 「オタクを応援するアイドル」と「アイドルを応援するオタク」。互いに応援し合い、支え合う。それなのに、お互いを分ける明確な境界線が存在している、不思議な関係。ただ、そんな関係だからこそ生まれる清い心のつながりが、きっとあるんだと思います。

 「互いに応援し合う」というすてきなサイクルの先に何があるのか。きっとそれぞれに感じていただけることがあると思うので、ぜひえりぴよたちと一緒に、最終話までお付き合いいただけたらうれしいです。

 --ファンへ一言お願いします。

 「自分の人生を使って、自分以外の誰かの人生を応援する」。そんな、不器用ながらも一生懸命で、真摯(しんし)に生きる人たちの姿勢が、この作品のタイトルにもある「推す」という言葉には込められていると思います。

 また、この世界には「推しが武道館いってくれたら死ぬ」という人だけでなく、「推しが武道館いってくれたら明日もなんとか生きる」という人もきっといると思います。「推しが武道館いってくれたら次のテストを頑張る」というぐらいの人も、もちろんいると思います。

 その選択はそれぞれに違うと思いますが、どんな内容、どんな道であれ、「誰かから刺激を受け、誰かを応援し、そして自分自身も一生懸命に生きようと努力している」。そんな全ての皆さんの背中を後押しできるようなアニメになっていたらよいなと思っています。

ポニーキャニオン 「推し武道」プロデューサー・音楽プロデューサー 寺田悠輔

写真を見る全 12 枚

アニメ 最新記事