ライオンの隠れ家
最終話 僕たちの新しい始まり
12月20日(金)放送分
女優の戸田恵梨香さんと俳優の加瀬亮さんのダブル主演で、2010年にTBS系で放送された連続ドラマ「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」の一挙放送スペシャル(TBS、月~金曜午後11時56分)が6月11日にスタート。放送決定が報じられ、SNSでも大いに話題を呼んだ。昨今の“再放送ラッシュ”の中でもひときわ盛り上がっているように見えた。本放送から10年、どうしてそこまで人々の心をかき立てるのか。そこには「SPEC」シリーズだけが持つ“特別な力”があるように思える。
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まず「SPEC」とはどんな作品だったのか。ストーリー、設定を振り返っておきたい。警視庁公安部に新設された「未詳事件特別対策係(ミショウ)」のIQ201の変人女刑事・当麻紗綾(戸田さん)と現場たたき上げの堅物刑事・瀬文焚流(加瀬さん)の“キレキャラ”コンビが特殊能力(SPEC)を持つ犯罪者を相手に息詰まる攻防を繰り広げるというミステリーで、SPECが「未来予知」「読心術」「ヒーリング」「瞬間移動」といったいわゆる超能力にあたることから、SFドラマの要素も持っている。「ケイゾク」の西荻弓絵さんが脚本、「ケイゾク」「トリック」などを手がけた堤幸彦監督が演出を務めており、堤監督の代表作の一つともいえる。
2010年の本放送時の視聴率は10%前後と当時としてはまずまずだったが、公式ツイッターでの視聴者との密な交流も相まって評価は高く、放送終了直後から続編を望む声が盛り上がった。その後を描いた「~翔~」、前日譚となる「~零~」といったスペシャルドラマのほか、「劇場版 SPEC~天~」「~結~ 漸ノ篇」「~結~ 爻ノ篇」と映画も公開され、いずれも20億円を超える大ヒットを記録した。なお、「SPECサーガ完結篇」をうたった「SICK’S ~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~」も動画配信サービスの「Paravi」で配信されている。
放送から10年もたった作品にもかかわらず、どうして今回ここまでの人気になっているのか。そこには大きく分けて二つの要因が考えられる。
まずは、いっぷう変わった「刑事もの」として、そして超常現象を描いたSFサスペンスとしての面白さがあるだろう。毎話、巻き起こる異常で凄惨(せいさん)な事件に、さまざまな能力を持つ「SPECホルダー」とのバトル。加えて、三角巾でつるされた当麻の左腕の秘密に、登場人物が持つSPECの謎、事件の裏で暗躍する秘密組織の存在と、随所に潜んだ伏線や謎の数々は、物語に鋭い緊迫感を与えている。特に伏線には何度か見ないと見つからないようなものや、別の伏線につながるようなものも多く、見れば見るほどより謎が深まってくる。また、前作にあたる「ケイゾク」とのつながりもファンにとってはうれしい要素だった。
もう一つの魅力は、「トリック」などでも見られた堤監督の演出ならではの小ネタの数々だ。頭脳派の当麻と肉体派の瀬文というデコボココンビの会話や、他の登場人物とのコミカルなやりとりだけでなく、本放送当時の裏番組だった「金曜ロードショー(現:金曜ロードSHOW!)」(日本テレビ系)をいじったネタや、さまざまなパロディーの数々は、見つけるとクスリとしてしまうものばかり。これまたじっくり見ないと分からないような小ネタも多く、ついつい何度も見てしまうのだ。
こうした物語としての緊迫感あふれるハードな展開と、つい笑ってしまう小ネタとの絶妙なバランスは、いわゆるエンターテインメントの王道ともいえる「緊張と緩和」の構成を高いレベルで実現させたものだ。そして、スペシャルドラマや劇場版の公開に合わせて、再放送を重ねるたびに、視聴者に色あせた印象を与えることなく、質の高い作品として、ファンを増やしていった。
そこにはもちろん、戸田さんと加瀬さんをはじめとした実力派俳優陣の力も大きい。2人を温かく見守る野々村係長役の竜雷太さん、当麻の宿敵、一十一(にのまえ・じゅういち)役の神木隆之介さんといったメインキャスト以外にも、有村架純さん、福田沙紀さん、城田優さん、安田顕さん、田中哲司さん、真野恵里菜さん、椎名桔平さんと現在も活躍する人気俳優が多数出演している。こうした素晴らしいキャストたちの実力が、ともすれば視聴者が置いてけぼりにされる可能性もあった謎だらけの本作を見事にヒット作に押し上げたのだ。
さらに、今回ならではの特徴としては、視聴者がSNSで盛り上がれる作品を求めている傾向が強いことも挙げられる。今回が初見の視聴者にとっては、昨年「あなたの番です」(日本テレビ系)などで盛り上がった「考察」が楽しめる(一応解答は出ているが)作品だ。もちろん当時を知るファンにとっても、単純な懐かしさだけでなく当時見つけられなかった伏線や小ネタを発見したり、それをSNSで共有して盛り上がるという新たな楽しみもできる状況になっている。
10年前の作品ということで、今なお活躍する俳優たちの若かりし姿が見られるのもポイントで、中でも野々村係長の愛人、正汽雅を演じた当時17歳の有村さんのフレッシュな姿は、SNSでも話題を集めていた。もちろん、こうしたSNSでの盛り上がりは、本放送当時からすさまじい頻度で公式ツイッターを更新し、ファンと交流を図ってきたからこそ生まれた“下地”があってのことだろう。
改めて今回見てみると、「SPEC」には、10年の時を超えてなお色あせない作品としてのパワーや魅力が感じられる。「THE RiCECOOKERS」による主題歌「NAMInoYUKUSAKI」が流れると、あっという間に「SPEC」ワールドに戻ってくることができたのだ。地上波で再び楽しめることに感謝し、SNSで盛り上がりながら、新作への“継続”を待ちたい。
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