はめふら:パッケージ不況でも好調 人気の理由 ヒットの裏側

「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」の一場面(C)山口悟・一迅社/はめふら製作委員会
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「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」の一場面(C)山口悟・一迅社/はめふら製作委員会

 一迅社文庫アイリス(一迅社)のライトノベルが原作のテレビアニメ「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…(はめふら)」の最終話となる第12話「最終イベントが来てしまった…」が、6月20日深夜から順次、放送される。深夜アニメのビジネスモデルは、製作委員会方式で制作し、ブルーレイディスク(BD)やDVDを販売するパッケージビジネスが一般的だったが、近年はパッケージが以前のように売れない作品も増え、配信を中心としたビジネスモデルに移行しつつあるという声もある。そんな中、「はめふら」はBD第1巻の出荷数が6000枚を突破。関係者によると、想定以上の売り上げといい、パッケージ不況の中、気を吐いた。そもそも「はめふら」の原作は、女性を中心に人気だったが、アニメ化によって男性ファンも急増した。「はめふら」は、なぜ多くのファンを魅了したのか? MBSの青井宏之プロデューサーに人気の理由、ヒットの裏側を聞いた。

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 ◇人気の「悪役令嬢」 「はめふら」ならではの魅力は?

 「はめふら」は、山口悟さん作、ひだかなみさんイラストのライトノベル。主人公が、乙女ゲームの悪役令嬢カタリナに転生してしまい、“破滅エンド”を回避するために奔走する姿を描いている。MBS、TOKYO MX、BS11ほかで4月に放送がスタートした。

 「はめふら」は「悪役令嬢」と呼ばれるジャンルの作品だ。「悪役令嬢」とは、主人公が乙女ゲームやマンガの世界に、ヒロインではなく悪役キャラとして転生する……というストーリーの作品が多く、女性を中心に人気を集めている。数ある「悪役令嬢」の中で「はめふら」は何が魅力なのだろうか?

 「悪役令嬢ものと呼ばれるジャンルは、本当に数多くありますし、私ももちろんすべての作品に目を通せていないので、一概には言えませんが、まず、本作において出てくる主要な登場人物にイヤな人がいないんですよね。作品によっては、乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢ものでは、元々のゲームの主人公、本作で言えばマリアにあたる人物が実はイヤなヤツであることがたまにあるのですが、この作品においては、全くありません。だから、見ていて嫌みがないんですよね。みんな、いいひと、優しい人。これも、大きな要因かと思っています」

 主人公・カタリナは、特殊能力もなく、少しバカでもあるが、行動力があり、周囲の人を幸せにする。カタリナに魅了されるファンも多い。

 「主人公の、カタリナ=クラエスが、無自覚の人たらしで、彼女の何気ない発言が多くのキャラクターの心のわだかまりを解かしていくこと、ここはやはり魅力の大きな部分だと思います。カタリナ自身は、そんなつもりは全くないのですが、キャラクターのコンプレックスを解消しそのドラマが感動にもつながり、彼女の最大の目的である破滅フラグ回避へと着実に近づいている。誰に対しても、常識に縛られず、偏見なく接するって、中々できないことだと思います。だからこそ、そんな優しい主人公が、多くの人に愛されて、この作品に触れた人が、自然とカタリナ=クラエスにたらしこまれている。そこが『はめふら』の魅力なのではと思っています」

 ◇男性ファンにも受け入れられた理由

 「悪役令嬢」は女性ファンが中心ではあるが、「はめふら」は男性ファンも多い。なぜ、男性にも受け入れられているのだろうか?

 「原作を手に取った時、男性も楽しめる作品だなと思いました。小説は、読む人もハードルが時間的な面も含めて上がりますが、コミックはそれほど時間もとらないので、多くの人が手に取って作品に触れやすい傾向にあります。その上で、本作のコミカライズは、作品的に非常にコミカルに描かれているのが、男女問わず世界観を楽しめるのが大きいと思っています。また、乙女ゲームや少女マンガで連想される主人公の恋愛がないということも、要因の一つだと思います。これが、恋愛的な要素が強めだと、どうしても男性の方は、自身が見るものではないという認識が出てくるかもしれません。恋愛要素は、全てカタリナからではなく、カタリナの周りのキャラクターから彼女へ、男性、女性限らずベクトルが向いているのも、いろいろな要素が合わさってコメディーとして楽しめている要因だと思います」

 アニメ化にあたり、女性向けに特化しなかったことも大きかったという。

 「アニメ化する際には、女性向けに特化するのではなく、多くの人に楽しんでもらえるようにしたいと考えて、監督らも映像化しているので、小説の感動要素、コミカライズのコミカルな部分、その中間あたり、キャラデザ含めて絶妙なバランスでやっていただいているので、それも楽しんでいただいている結果かなと思っています」


 ◇カタリナ脳内会議の裏側

 ボイスドラマを積極的に配信するなどさまざまな施策で、ファンがより深く作品を楽しめるようにもした。

 「原作を大事にし、男女分け隔てなく多くの人に楽しんでもらうことですね。井上圭介監督が、以前、MANTANWEBさんのインタビューの中で答えられていたように『なるべくモノローグを入れない形で』と話されていましたが、原作のモノローグも、大事な部分ではあったので、ボイスドラマをやりたいという形で、原作サイドに提案しました。原作の小説を読んでいる方は、各キャラのモノローグも好きな方が大勢いらっしゃると思いました。私自身がそうだったので、アニメ本編で、語られないところは宣伝で補完できるように、序盤3話でジオルド、キース、メアリ、アラン、ソフィア、ニコルは、アフレコ収録時に収録しました。好評をいただいて、アニメからの人、すでに原作、コミカライズを読まれている方にも楽しんでいただけました

 音楽など細部にもこだわり抜いた。

 「男女みな楽しんでいただく中で、コンセプトとして“たらしこむ”というものがありました。原作、コミカライズはもちろんですが、アニメにおいて、そして主題歌の音楽など。angelaさんには、直接お話しさせていただく機会がいただけましたので、音楽でもたらしこんで中毒性のあるものでお願いしたいとも話させていただきました。結果、井上監督のアニメーションともあいまって、何度も視聴したくなるようなアニメーションが生まれましたね」

 「はめふら」の見どころの一つが、カタリナ脳内会議だ。5人の人格のカタリナが会議を繰り広げる……というシーンで、カタリナ役の内田真礼さんが一人五役に挑戦した。

 「コミカライズでは、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、カタリナの成長と共に、脳内会議のビジュアルも成長しているんですよね。井上監督のこだわりもあって、脳内会議のキャラクターは、成長後、魔法学園入学後もママでいっています。内田さんも脳内会議のキャラを変更せずに、演じていただいているので、魔法学園入学後も、可愛い脳内会議のキャラが出ていくのは、本編のビジュアル的にも、キャラ全体のトーンに関してもいい緩急がついている形になっているかなという印象です」

 ◇パッケージビジネスは「有効」

 アニメ業界では、BDをはじめとしたパッケージが「以前より売れない」という声をよく聞く。配信を中心としたビジネスモデルがメインになりつつあるという声もある。そんな中でも「はめふら」はパッケージが好調だという。青井プロデューサーは、作品によっては、パッケージビジネスは「有効です」と語る。

 「本作も、受注を締めた際は、出荷数量は4000枚でした。その後、作品の評価もあって、あまりケースとしてはないのですが、発売日には追加受注もさらにいただき、6000枚でした。放送中に発売することで、受注期間が他作品より短めでしたが、ありがたいことに発売後の今も数字は着実に伸びています。委員会の収益モデルは、ビデオグラム依存からの脱却はすでに始まっていますが、それでも数字として、ビデオグラムが売れると利益として大きく、ビジネス的な面では大きなプラスになります」

 アニメの楽しみ方が多様化する中でもパッケージは「大事な要素」と考えているという。

 「関わっているスタッフの方を含めて、大勢の方にとってこれが売れたんだと、喜びと共に大きな財産になります。数字のことは、直接監督にはお伝えしましたが、喜んでいただけましたね。アニメスタッフの作り上げた作品あってこそですが、キングレコードさんを中心として、原作の一迅社さんの協力を元に、本当に頑張っていただきました。当初から相談しておりました、自身がやってみたかった(劇中に登場するゲーム)『FORTUNE LOVER 体験版』も実現できて、楽しんでいただけたら何よりです。多くの人の視聴習慣も、テレビだけでなく、配信プラットフォームで見るなど、多様化しておりますが、それでもビデオグラム、円盤は大事な要素ですし、大切にしていきたいです」

 大好きだったり、大切だったりする作品はパッケージもほしい……となるのがファン心理なのだろう。アニメは最終回を迎えるが、まだまだ続きが見たい!というファンも多いはず。今後の展開にも期待したい。

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