とんかつDJアゲ太郎:異色のマンガ制作秘話 「とんかつとDJって同じなのか!?」誕生の背景 実写化に「希望」も

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「とんかつDJアゲ太郎」のビジュアル(C)2020イーピャオ・小山ゆうじろう/集英社・映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会

 俳優の北村匠海さん主演の映画「とんかつDJアゲ太郎」(二宮健監督)が公開中だ。原作は“とんかつ”と“クラブDJ”をテーマにした、イーピャオさん原案、小山ゆうじろうさん作画の異色マンガ。老舗とんかつ屋の三代目・勝又揚太郎(アゲ太郎)が、とんかつとフロアを“アゲられる”男“とんかつDJ”を目指すという青春コメディーだ。実写化は「連載当時は考えてもみなかった」と口をそろえて驚きを明かすイーピャオさんと小山さんに、原作の制作秘話、映画について聞いた。

 ◇ターニングポイントとなった一言は…

 原作は、集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で2014年9月~2017年3月に連載。テレビアニメが2016年4~6月に放送された。東京・渋谷の老舗とんかつ屋・しぶかつの三代目のアゲ太郎は、初めて入ったクラブで音楽に合わせ盛り上がるフロアにこれまでにない高揚感を得る。そして、アゲ太郎はとんかつとフロアを“アゲられる”男を目指す……というストーリー。北村さんが主人公のアゲ太郎を演じている。

 元々、大学の先輩と後輩の間柄だったイーピャオさんと小山さん。同マンガが誕生したのは、新人マンガ家時代、小山さんがネタに詰まったとき、イーピャオさんと見に行った映画「喜劇 とんかつ一代」(1963年、川島雄三監督)を思い出したことがきっかけだったという。

 「とんかつが出てきて、キャラがいっぱいいてドタバタする映画で、見終わってから、その現代版みたいな作品が見たいね、と妄想していたんです。そのことをふと思い出して『マンガにしてみるか』と……」と小山さん。同時期、それ以前に描いたギャグマンガにヒップホップMCを出して好感触だったことなど、後にネタとなる要素はいくつかあった。

 方向を決定づけたのは、イーピャオさんがひらめいたダジャレ。「『昼は豚肉をアゲて、夜はフロアをアゲる』……(言葉の)“かかり”ができるんじゃないか、と(小山さんに)連絡しました」とイーピャオさん。小山さんは「バチーン!と見えたターニングポイントでしたね。それから面白半分、マジ半分で、二人でいろいろアイデアを出して、とりあえず描いてみようと。ちょうど『ジャンプ+』の創刊のタイミングだったので、連載会議に3話分を作って出したら、連載になったんです」と説明する。同席した集英社の担当編集の村越周さんによると、連載会議ではネタの突拍子のなさに面食らう人も多かったが、一部の強い支持と、創刊時のチャレンジを推奨する雰囲気で、連載がスタートしたという。

 ◇原作は言葉の“かかり”を大事に

 作中には、くすりと笑える名ぜりふが多数登場する。中でも代表的なのが「とんかつとDJって同じなのか!?」と第1話でアゲ太郎が叫ぶせりふ。小山さんは「『ここにフライヤー(の絵)を置いて、アゲ太郎に『同じなのか!?』と言わせる……イーピャオと話したイメージを絵にしたら、意外とハマって」と笑う。また、「フロアもとんかつもアゲる」などの言葉の“かかり”は連載を通して大切にしていたといい、小山さんは「“かかり”がうまくなきゃ、と。そこは大事にしていました」と明かす。

 マンガの主な舞台はクラブととんかつ屋。だが、二人は元々、クラブに行ったことはなかったという。「行ってみようか、という日があって、二人の友達を連れて四人で行った時に、ほかの二人はピンときていなかったけど、僕らは楽しいなと思ったんです。ミニマルテクノのイベントだったんですけど、みんな音楽を楽しみにきているなと感じました。それで、(クラブのマンガを)すんなりポジティブに描けたのかなと思います」と小山さん。なお、偶然にも、そのとき初めて行ったクラブが今作の撮影場所だったそうで、イーピャオさんは「初めて行ったクラブがまさか撮影場所になるとは思わなかった」と笑う。

 連載中はクラブの取材はもちろん、名古屋や大阪へ、味噌カツや串カツを食べに遠征した。「“揚げ物取材”と称して(笑い)。あと、地元のクラブなどにも二人で行って気分転換になっていました」とイーピャオさん。小山さんも「取材すべき対象は食べておいしいものだし、クラブでも、聞いて、踊って、と楽しくて。二人ともいろいろな街を歩くのが好きだし、すべての行動がネタになるので、取材で苦しいことはなかったですね。取材でフジロックに行けたのも最高でした」と楽し気に語る。

 ◇実写化に「世の中捨てたもんじゃない」

 実写映画化には「連載当時考えてもみませんでした」と笑うイーピャオさんと小山さん。小山さんは「世の中、捨てたもんじゃないなと思いました。この作品に大人が動いてくれるんだと希望を感じましたね」と口にする。

 実写化で魅力的に感じたのは、マンガでは表現し切れない“音”の要素だという。「マンガで限界を感じていた音の部分が、映画で出ていて。そこが一番ですね」と小山さん。イーピャオさんは、家族劇の要素が好きだったといい、「アゲ太郎と親父が対話するシーンなどのしっとり感、家族同士のやり取りは、隠れた見どころだと思っています。『しぶかつ』閉店後の家族の展開は好きですね」と語る。

 実写では、加藤諒さん、浅香航大さん、栗原類さん、前原滉さんが演じているアゲ太郎の友人四人組の存在がマンガより大きいことも見どころの一つ。小山さんは「マンガではあまりそれぞれを掘り下げていなかったんですが、『現実であいつらがいたらこういう感じだよな』と思えて、すごくうれしかったですね」とほほ笑み、イーピャオさんも「マンガでは渋谷の商店街にいそうな職業を選んでいて、こだわりのある四人だったんです。映画でもそれぞれの個性にあてはめられる、ベストな役者さんをキャスティングしてくださって。それがフィーチャーされたのは内心うれしかったですね」と喜ぶ。

 舞台となる渋谷の街が、実写化でもしっかりと映し出されていることも注目のポイントと小山さん。「原作も実際の渋谷の街を背景にして話が展開するんですが、僕の絵には限界があって渋谷を表現できていなかったので、映画ではそこがすごく雰囲気を感じ取れると思います」と語る。

 最後に、改めて2人に映画の感想を聞くと、イーピャオさんは「踊りだしそうになっちゃうぐらいのナンバー(曲)の熱さ。俳優の皆さんも、それぞれのキャラクターに近くて、渋谷から出てきそうなリアリティーをまとっていて。そのバランスが絶妙で、あっという間の上映時間でした」と太鼓判を押す。小山さんも「最高でした」と絶賛し、「マンガの実写化って、マンガの絵やストーリーを忠実に『再現する』ことに注力するよりも、映画が単体としてちゃんと面白くないとだめだと個人的には思っていました。(今作は)原作のマンガならではの表現と実写映像ならではの表現が、絶妙なミキシングで融合していて、すごくいい実写化なんじゃないかなと思いました」と熱く思いを語った。

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