若手実力派俳優として、映画・ドラマへの出演が続く俳優の前原滉さん。6月18日から劇場公開される主演映画「彼女来来」では、ある日突然、最愛の彼女が失踪し、見知らぬ女性が自宅にやってきてしまう……という奇想天外なストーリーの中で、絶妙なリアリティーで主人公の紀夫を演じた。「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」に続き、長編映画で主演を務めた前原さんの魅力とは……。「彼女来来」のメガホンをとった山西竜矢監督、そして前原さんに話を聞いた。
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映画は、茉莉(奈緒さん)と仲睦まじい日々を過ごしていた、キャスティング会社に勤務する会社員・佐田紀夫(前原さん)が主人公。しかしある日、紀夫が自宅に帰ると、茉莉の姿はなく、代わりに「この家に住む」という見ず知らずの女性(天野はな)が立っていた。まったく状況が分からない紀夫は、マリと名乗るその女性を拒み続けるが、行方が分からなくなってしまった茉莉もまったく見つからず、徐々に気持ちに変化が訪れる……。
山西監督は本作の企画意図について「自分の恋人に『君だけだよ』と言いながら、時を経て相手と別れると次に付き合う人にも同じことを言う。僕もそういうことをしてしまうし、よくあることだと思うのですが、あるときそれって気持ち悪いなと思ったんです。でも人間って、そういうことを平気でやる。そこを切り取ってみたいなと思ったんです」と語る。
劇中、なぜ茉莉がいなくなってしまったのか……などの詳細は一切描かれていない。ある意味で、淡々と紀夫という男の苦悩と戸惑い、そして少しずつ変化していく気持ちがつづられている。
紀夫役に前原さんを起用した理由について、山西監督は「今回のキャスティングについては、ほぼ僕の独断です」と語ると、「僕は役者もやっているのですが、以前俳優として参加した現場で前原さんとご一緒し、繊細で巧みな演技をされる俳優さんだなと感じていたんです」と同じ俳優仲間として評価が高かったことを明かす。
さらに前原さんの人間性にも魅力を感じたという。「結構前ですが、飲み会の打ち上げみたいな席があって、そのとき前原さんが場をものすごく盛り上げていたんです。そのあと別室でしんどそうな顔をしているのを見て、なんとなく『この人となら仲良くなれるかも』と思ったんです」と山西監督は話す。
しっかり社交性もありつつ、人間臭くもある前原さんの人柄を垣間見て、本作の紀夫という人物が「前原さんに合う」と思ったという。
そんな山西監督のオファーを受けた前原さんは、「すごく安心感がある現場でした」と撮影を振り返る。続けて前原さんは「お互い何かを主張することもない。何も言われなくても監督がどんなものを作ろうとしているのか、本を通して分かったし、信頼してくれているのも感じました」と豊かな時間を過ごせたと笑顔を見せる。
前原さんの言葉を受けた山西監督は、「僕は、いま自分の能力で一番信用できるのは、キャスティングだと思っています」と語る。良いスタッフ、キャストを集めることができれば、現場で余計なことを言う必要が少なくなるというのだ。
前原さんは今回「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」に続き、2作連続で映画の主演を務めた。山西監督が語ったように、前原さんの人間性も座長向きなのかもしれない。
「飲み会の席での話は、ある意味で自分の癖というか……。僕は集団の中で、空いている席を見つけるのが好きなんです」と前原さんは笑うと、「たまたまそのときの飲み会は、盛り上げる人がいなかったからやっただけで……。この映画の撮影では、自分自身がいっぱいいっぱいだったこともあるのですが、あまり座長として……みたいなことをする必要のない現場だったので、みんなでいいものを作ろうという思いだけでした」と振り返っていた。
現在、前原さんは28歳、山西監督は31歳。どんな未来を描いているのだろうか。舞台にも力を入れている山西監督は、「映像と演劇どちらをやりたいのか?」と聞かれることが多いというが、「自分の中では、違うんだけど、同じなんです」と語ると、「今後は、今とは別方向の制約のある中で、どんな表現ができるか……例えば原作ものや、キャスト・スタッフも自分だけでは決められない環境で、自分がどんなものを作れるのか、どう調和させていくのか。そういうことも考えていきたい」と思いをはせる。
一方の前原さんは、作品が途切れることがない売れっ子の道をまい進しているように感じられるが「僕自身はあまり実感がないんです」と笑う。それでも「仕事をしていないときよりも、仕事をしているときの方が楽しかったりするので、何か仕事があるという状態をしばらく保ち続けたいです」と控え目に語る。
知名度も大きく上がったと思われるが、「ドラマなどが放送中は、役名で声を掛けていただけることもありますが、まだまだ自分なんて」と謙虚な前原さん。しかし、役名で覚えてもらえるということは、それだけしっかりと役を全うしているからと言える。前原さんも「役名で呼ばれるのはうれしいんです。でも、40歳ぐらいまでには個人の名前で呼ばれるようになりたいな……なんて思いもあります」とささやかな野望も明かしてくれた。(取材・文・撮影:磯部正和)
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