バリバラ:「感動の呪縛」に一石投じたバラエティー番組 タブーに挑戦し続けた10年、制作陣が振り返る

6月24日放送の「バリバラ」の一場面(C)NHK
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6月24日放送の「バリバラ」の一場面(C)NHK

 2012年に「障害者のための情報バラエティー」として誕生した「バリバラ」(NHK Eテレ、木曜午後8時)。近年では、「みんなのためのバリアフリー・バラエティー」として、障害者のみならずLGBTQや外国にルーツのある人、被差別部落出身者など、さまざまなマイノリティーの声を取り上げるようになり、10年目を迎えた。2015年から制作に関わっている森下光泰チーフプロデューサー(CP)や制作陣に、タブーに挑戦し続けた「バリバラ」の10年間の歩みや、これからについて聞いた。

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 ◇「障害者、光っている人ばかりではない」

 「バリバラ」は、「障害者のための情報バラエティー」として始まったNHK大阪拠点放送局制作の福祉番組。2016年には、生きづらさを抱えるすべてのマイノリティーのバリア(社会的障壁、偏見、差別)をなくすことを目指す「みんなのためのバリアフリー・バラエティー」へと進化。視聴者を含めた“みんな”が、バリアをなくすことを考える機会を、ユーモアとともに提供している。

 関西は昔から、人権運動や福祉事業の取り組みが盛んな地として知られる。NHK大阪でもこれまで、人権番組や福祉の問題を取り上げた番組を多く制作してきた。しかし、森下CPによると「障害者が登場する番組では、どうしても『障害のある人が努力をして、壁を乗り越え、キラキラ生きている』というような“物語”になりがち。それが、ある種のステレオタイプを作り上げがちだったのではないかと思います」と語る。

 番組の立ち上げにも参画し、自身も車椅子生活を送る空門勇魚ディレクターは「当時、特定の障害のある方を扱ったドキュメンタリーに関わっていましたが、“感動の呪縛”のような感覚があり、作り手としても悶々(もんもん)としていました。また、障害のある視聴者からは、『キラキラ光っている人ばかりではなく、障害のある人にもいろいろな方がいる。障害が生きづらい、暮らしづらい、なにかと不便だというのは、実は社会の側の問題なのに、なぜか障害者本人にだけ、頑張ることを押しつけているのでは?』と怒りに近い反応もいただいていました」と振り返る。

 「取材する中で、ドキュメンタリーでは使わないが、障害者も恋愛を普通にしていて、そういった話題を番組としてアウトプットしたら楽しいだろうね、出演者やスタッフと雑談を交わしていた」ことなどをきっかけに、障害者自身がやりたいことをやって、伝えていける番組を制作しようと決意。2012年、前身番組「きらっといきる」をバラエティー色の強い「バリバラ」にリニューアルした。

 ◇放送から10年、社会環境も変化

 人気を集めるのは、障害者が自身の障害特性をネタにするお笑いコーナー「SHOW-1グランプリ」だ。初期には「障害者を見せ物にしている」といった批判もあったが、そういった声が少なくなってきたのは「制作陣の演出でお笑いをやるのではなく、当事者が前面に出て、当事者の要望に応じてやることを貫いてきたから」(森下CP)と分析。2016年夏の生放送では「“感動ポルノ”という言葉が一夜にして定着」するほどの大反響を呼んだ。

 放送開始から10年がたち、マイノリティーたちを取り巻く社会環境も大きく変化した。「セクシャルマイノリティーの方たちへの理解が広がったことや、(障害を理由とする差別の解消を推進する)『障害者差別解消法』もできた一方、マイノリティー当事者が自らの権利や被差別体験を伝えようとするとバッシングに遭うなど、違いを認め合ってともに生きる社会には、ほど遠いとも思います」と指摘。

 「『バリバラ』がどれだけ世の中を変えたかは分かりませんが、2016年夏を過ぎて、マイノリティーの描き方、描かれ方を気にする人が増えてきたのかなと思います。いろいろな意味で、世の中に影響を与えることができたのではないでしょうか」と話す。

 ◇ファッションの悩み、車椅子ユーザー&健常者の共通項も

 今年度から「バリバラ」では、「障害者がいないのが当たり前」となっているさまざまな場所に自ら出向き、「現場の人たち」とともに改善策を考える社会実験企画「#ふつうアップデート」をスタートした。第1回で取り上げたテーマは「ファッション」。車椅子の利用者たちがファッションコーディネート写真には、座り姿の状態のカットがないことや、マネキンのほとんどが立ち姿であることなどを指摘。「すわりコーデ」をはやらせようと呼びかけた。

 6月24日の放送回では、出演者たちはアパレル企業を訪問。ファッション業界の現場で働く人たちと一緒に、ファッションサイトに掲載する「すわり姿」写真を撮影する様子などが放送される。

 今回の企画を担当した品川明由実ディレクターは、「そんなこと言ってなかった、という話題もどんどん出てきて、想像していた以上に、現場で発見できるものが多かった」と取材を振り返る。

 車椅子の利用者が裾の広がったスカートをはくと、タイヤに巻き込んでしまいがちといった悩みを吐露すると、健常者でも自転車に乗ると同じように巻き込んで汚れてしまうといった、両者が話し合うことで初めて気付く共通項もあった。「今回の企画は、車椅子の方のファッションが広がるというのではなく、車椅子の方をきっかけに考えると、みんなが便利になる。みんなにとってのアップデートになることが大切だと思っていたので、狙い通りです」と笑顔を見せていた。

 最後に、「今後『バリバラ』で目指すべきものは?」と聞くと、森下CPは「あらゆるマイノリティーのバリアをなくそうということを言ってきましたが、実はあらゆる点でマジョリティーの人など誰もいないと思います。きっと誰もが“生きづらさ”を感じていて、だからこそ他人の、マイノリティーの生きづらさを理解することもできるはずです。みんながみんなのことを考えることができる、連帯できる社会になるための力になりたいです」と力強く答えていた。

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