小野憲史のゲーム時評:話題の“伝染病ゲーム”に追加された「キュア」モード

「Plague Inc - 伝染病株式会社 -」(iPad版)キュアモードの画面写真
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「Plague Inc - 伝染病株式会社 -」(iPad版)キュアモードの画面写真

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、コロナ禍で話題の“伝染病ゲーム”に追加された新要素について語ります。

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 東京五輪が開会し、メダルラッシュに沸く一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。ワクチンの摂取率も上昇しているが、都心には人手が戻りつつあり、人々は緊急事態宣言に慣れしてしまったかのようだ。こうした中、改めてパンデミックとその対策について、学び直すことも重要だろう。そこで参考になるのが「Plague Inc. - 伝染病株式会社 -」だ。Plagueとは英語でペストの意味。その名の通り、神の視点となって新種の伝染病を創り出し、人類を絶滅させるゲームとなる。

 ゲームをスタートすると、世界地図が表示され、じわじわと伝染病が拡大していく様が映し出される。プレーヤーができることは、感染拡大によって得られるDNAポイントを消費し、病原体を進化させていくことだ。コンピュータが操る人類側が危険を察知してワクチンを開発すればゲームオーバー。首尾良く人類を絶滅させれば勝利となる。2012年にスマートフォン版、2016年にPC版がリリースされると、リアルな伝染病の感染モデルが評価され、世界中で大ヒットを続けてきた。

 もっとも、本作には賛否両論が寄せられている。2014年のエボラ出血熱、そして2019年末から感染が始まった新型コロナウイルスなど、現実の疫病流行がヒットを下支えしてきた側面が否定できないからだ。その結果、2020年には中国のアプリストアから本作が削除される事態も発生した。これに対して開発元のNdemic Creationsは、公式サイトで「ゲームのリアリティーや教育性を追求する一方、本作はあくまでゲームであり、現実社会を扇動するつもりはない」という異例の声明を出している。

 その一方でNdemic Creationsはゲーム会社ならではの対応を進めた。まず、ゲームの収益から感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)と世界保健機関(WHO)に計25万ドル(約2800万円)の寄付を実施した。続いてWHOの専門家から監修を受けつつ、ゲーム内でワクチンを開発し、パンデミックを終息させる「キュア」モードを開発。2020年11月のアップデートで実装した。これにより、全世界の医療機関が進めている感染対策とその有効性について、遊びながら学べるようになったのだ。

 キュアモードでプレーヤーが担当するのは、国際的な疫病対策チームのリーダーだ。感染の兆候を発見し、ロックダウンや国境封鎖などで感染拡大を防ぐとともに、地域経済の支援を進めて不満を吸収。その合間を縫ってワクチンの開発を進めていく。中でも重要なのが、感染対策の意識向上だ。検疫措置に不満を持つ人々が一定数を超えると、国の検疫措置が機能しなくなり、医療崩壊につながる。その一方で行動制限を解除し、パンデミックの進行が進むと、権限力が低下してしまう。権限力がゼロになると、リーダーを解任されてゲームオーバーだ。

 このように本作では、パンデミックには初動対策が有効だが、経済活動を抑え込みすぎると、民意が離れるという構造がデザインされている。ゲームなので抽象化・誇張化されているものの、これは現実のコロナ対策でも同様だ。実際に本ゲームを遊んで感染対策に対する理解が深まり、ステイホームやリモートワークといった実際の行動につながれば、開発者の意図は達成されたことになる。東京五輪と感染対策のバランスをどのようにとるべきか、本作をプレーして、改めて考えるきっかけにしてほしい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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