名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
「true tears」「SHIROBAKO」などのアニメ制作会社「P.A.WORKS」が手がけるテレビアニメ「白い砂のアクアトープ」。「凪のあすから」「色づく世界の明日から」などの篠原俊哉監督が手がける連続2クールのオリジナルアニメで、1クール目は、高校生の海咲野くくるが沖縄県南城市の小さながまがま水族館を存続させるために奮闘する姿が描かれた。1クール目の最後には、がまがま水族館が閉館してしまい、2クール目はアクアリウム・ティンガーラに舞台を移した。夢と現実、挫折と成長を丁寧に描いてはいるが、がまがま水族館の閉館などまさかの展開に、驚かされた人も多いはず。篠原監督に制作の裏側を聞いた。
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「白い砂のアクアトープ」は、挫折をしっかりと描いている。主人公の一人の宮沢風花は、東京でアイドルの夢を諦め、行き場を失っていたところから物語がスタートする。くくるは、がまがま水族館を存続させることができない。挫折があるから成長できる。一筋縄でいかないのが作品の魅力の一つになっている。
「夢をテーマとして前面に出していますが、自分自身は夢に対して楽天的な考えは持っていません。信じていれば、夢がかなうなんてまれだと思っている。挫折することの方がリアル。そこからどう気持ちを整理し立ち直っていくのか?を描きたいと思っていました」
くくるががまがま水族館を再生させると思いきや、1クール目の最後に、がまがま水族館は閉館してしまう。先が読めないオリジナルアニメということもあり、驚かされた人も多いはず。
「業績が悪化した水族館の再生は実際にも存在しますが、アニメでやると、予定調和的で嘘くさくなるかもしれない。初期の段階から、がまがまの閉館は決めていました。私は、自分の力だけではどうにもならないことに、分かっていてもあらがおうとする人の姿が好きで、自分がやるならそっちだろう、というのもありました。1クール目は意識的にくくるの子供っぽさを強めに描写していますが、これは親離れを描こうとしたからです。同時にそれを見守る大人たちの姿も大切にしたいと考えていました。大人たちが、若者の成長をどう見守るのかは、2クール目でも大切にしている部分です」
2クール目で、くくるは新たな水族館アクアリウム・ティンガーラに就職。飼育員を志望していたが、営業部に配属される。設備も古く、ゆったりとしたがまがま水族館と、オープンしたてのティンガーラは対照的にも見える。
「1クール目と2クール目では意図的にあらゆることを対比させています。高校生と社会人。家族暮らしと一人暮らし。伝統的な沖縄と都市化する沖縄。小さな古い水族館と巨大な最新設備の水族館。家族的な共同体と大きな組織としての共同体などなど。その中で飼育員の仕事と生き物だけは変わらないわけです」
ティンガーラで働く飼育員の南風原知夢(はえばる・ちゆ)は、周囲に子供がいることを隠しているなどそれぞれが事情を抱えている。くくるは、対立していた知夢とも打ち解けるなど周囲を巻き込みながら成長していく。
「水族館には、いろいろな生き物がいて、姿も形も生息している場所も違います。同じように社会にはいろいろな人がいます。水族館自体が生命の多様性を許容する場所である以上、同じように人の多様性も許容できる場所として描きたかった。それは、社会全体にもつながることであってほしい。もちろん相いれない他者も存在するでしょうが、想像力だけは失わないようにしたい。知夢とくくるの関係値の変化は想像力がもたらす成果ではないでしょうか」
営業部のくくるの上司で副館長の諏訪哲司も存在感がある。くくるに対して厳しい言葉をぶつけるが、社会人として言っていることは正論だ。リアルではあるが、視聴者には嫌われてしまいそうだ。
「副館長は、高校を出たばかりのくくるにとってどう見えているかを描いているので、必要以上にきつく映る部分があるのは仕方がないと思っています。『プランクトン呼び』は問題ですが、仕事に関して間違ったことは言っていないし、部下の手柄を横取りするような上司ではありません。くくるの仕事をちゃんと認めた上で一段階上の負荷をかける。仕事に対する考え方は人によりまちまちで一様ではありませんが、くくるには常に水族館の未来を考えていてほしい。きっと試練を乗り越えることでしか見えない風景が、きっとあるはずです」
P.A.WORKSはこれまで、老舗の旅館で働く女子高生の成長を描いた「花咲くいろは」、アニメ制作に奮闘する女性にスポットを当てた「SHIROBAKO」など“お仕事シリーズ”と呼ばれるアニメを制作してきた。「白い砂のアクアトープ」も“働くこと”をテーマの一つにしている。
「最初は、お仕事ものとしてスタートしましたが、生き物が扱う仕事なので、命に関わります。頻繁に失敗すると『この水族館ヤバい』って話になりますので、それよりはくくるたちの青春ものとして描いていこうと。ティンガーラに舞台を移してから仕事の比重が増しましたが、これも仕事そのものというより、職場の対人関係の軋轢(あつれき)だったり個人の葛藤がメインです」
キャラクターの感情表現も繊細だ。心の機微を丁寧に描いている。
「丁寧かどうか分かりませんが、感情の積み重ねに齟齬(そご)がないようにしようとすると、どうしても段階を踏むことになりますから。アニメは、キャラクターがストレートに叫んだり、全力でぶつかり合ったりするような分かりやすい表現が好まれますが、自分はそういうものにあまり興味がありません。表層として見えるものだけではなく、その下層にあるものを拾い出していきたい。静かに感情と向き合うような作品作りを目指しています。すごく地味ですけどね(笑い)」
篠原監督は「あまりアニメ向きではない」とも話すが、あえて挑戦してきた。
「感情表現には、直接表現と間接表現がありますが、間接表現を多用することで、見ている人がより積極的に参加できるのではないかと考えています。直接表現は受け取りやすいですが、間接表現は映像にちりばめられた記号を受け止めないと分からなくなる。見ている人がいろいろな感性を働かせ、考え、自分なりの感情を重ねることで共感度が高まる。全てを説明するのではなく、60、70%しか言わなかったり、ほかの描写で代用したりするのは、意識的にやっているところでもあります。アニメではそういう表現が受け入れられにくいと思っていたのですが、『凪のあすから』を作った時に多くの反響をいただき、そこからは明確にやっていくようになりました」
くくるは仕事に疲れ切って、無断欠勤をしてしまったこともあったが、自身と向き合うことで、前を向いて歩き出す。ラストに向けて風花の成長も楽しみである。篠原監督は「ありのままを楽しんでいただければ」と話しており、くくるや風花が“ありのまま”にどんな成長を遂げるかが期待される。
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