サンダーバード:樋口真嗣監督が選ぶベスト3 熱く解説

「サンダーバード」の一場面
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「サンダーバード」の一場面

 人気SF特撮人形劇「サンダーバード」の完全新作「日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』」が公開されることを記念して、映画「シン・ゴジラ」などで知られる樋口真嗣監督がベストエピソードを厳選した「樋口真嗣監督が選ぶ!サンダーバード エピソードBEST3」が、BS10 スターチャンネルで12月25日午後3時半に放送される。樋口監督が選んだのは、定番ピンチ編の第4話「ニューヨークの恐怖」、変化球的なキャラエピソード編の第17話「情報員MI.5」、これがおすすめ“クソガキ”エピソード編の第32話「すばらしいクリスマスプレゼント」。放送に向けて、樋口監督が熱く解説した。

ウナギノボリ

 新作は、「サンダーバード」の日本放送開始55周年を記念した「サンダーバード55周年プロジェクト」の一環として公開される。英国のクラウドファンディング企画で2015年に制作され、参加者向けに公開された計3話のエピソードを、樋口監督の構成の下、一本の映画として日本公開用に再編集する。2022年1月7日から劇場上映されるほか、同8日からオンライン上映される。

 ◇第4話「ニューヨークの恐怖」

 ベストエピソード3本を選ばせていただきました。その一本は「第4話 ニューヨークの恐怖」。「サンダーバード」といえば、いろいろなところでピンチ、スリル、そして危機の連続っていう、そういうエピソードが多いんでけれども、その中でもかなり最初の段階からもう、てんこ盛りのエピソードになっています。一番「サンダーバード」らしいというか、「サンダーバード」って、とんでもないことを誰かがやって「いやそれ絶対うまくいかないだろ!」っていうことが……ほんと「押すな押すな」じゃないけど……「それ見たことか」っていう感じで失敗するみたいな、で、それを助けに行くというのがだいたい基本フォーマットなわけです。

 ほかのエピソードもだいたい、新しい飛行機だったり、森林伐採用の何かだったり、「そんなものうまくいくわけがないじゃん」という声を無視して無理やり強行させてしまうとそれが事故を起こす……というような話が非常に多いわけですけれども、その中で多分スケール感として、まあ宇宙に行ったりとかは別にして、一番「そんなまさか!」というのがこの「ニューヨークの恐怖」なんです。エンパイアステートビルをですね、そのビルの形そのまんまで動かすっていう!とんでもないスケール感のことをやってくれる。「え、それうまくいくわけないじゃん」と言ったら案の定うまく行かないという、そういうエピソードですよね。

 でも、それ以外にも最初にサンダーバード2号が被弾しちゃって、飛行不能というかコントロール不能のままトレーシーアイランドまで戻ってきて、そこで何か消火活動みたいな。冒頭にあるんだけど、「それだけで一話分」みたいな「フライ盛り合わせ」みたいな感じのコッテリしたエピソードなので、これを選んでみました。あれって実は、後でいろいろ本を読んでいたら、日本家屋で曳家(ひきや)ってあるじゃないですか。昔の建物を。あれがヒントになっているらしいんですよね。ばかばかしいことを考えたんじゃなくて、まさか日本人の思いついたことを……っていうのがまた面白いところでもありますね。

 また、あのサンダーバード4号の活躍というのは、子供ながらに謎だったんですね。1号、2号、3号、5号と、全部スタンド・アローンで独立しているものなのに、4号だけコンテナ・メカなわけです。格下な感じがするのになぜこいつだけ「4号」という名前が付いているんだろうと思うと、あのエピソードを見て「スターだったんだ!」っていう。ほかのコンテナ・メカの扱いの低い感じとちょっと違う感じなのは、やっぱり「スター」として、色付きのメカっていうかね、ちゃんと色分けされているキャラクターだなっていうね。「これぞサンダーバード!」という話なので、その辺も含めて楽しめるというか、「サンダーバード」入門編としてぜひ見ていただけたらなと思います。

 ◇第17話「情報員МI.5」

 これもかなり番外編的なエピソードではあるんですけれど、非常に面白いエピソードになっております。やっぱり20何本もあるし、エピソードの中で時々その変化球というかまあその王道とは別の、なんかちょっとひねった球みたいなエピソードがいくつかあって、その中でもやっぱりこれはタイトルの通りまさにイギリスの諜報員ものなんです。

 「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」公開記念ということで、今回「サンダーバード」の中にもちゃんとスパイアクションがあるという、しかも人形とかどう見ても……!みたいな、すごいやっぱり寄せてる感じに作っていたりとか。「サンダーバード」の面白いところって、当時のスターとかをちょっと似せて作ってたり、そういう「ゲスト人形」の面白さみたいなものも含めて楽しんでいただけたらと思います。

 これがちょっと本当、あまり「サンダーバード」らしくはないんですけど、むしろペネロープがちょっとボンドガールっぽい感じで出てきたり、舞台となるのがこれモナコなのね。モナコの夜景や普段レギュラーで出てくるような所ではない、ちょっとすてきな感じのリゾート感あふれる背景のセットとかも見どころの一つなんかじゃないかなと思います。

 その辺も含めて、あの当時ちょうどまだ「サンダーボール作戦」と同じくらいの時期だと思うんだけど、まだ「007」が人気を博し始めたぐらいの時に、多分当て込んで作られたものなんじゃないかと。そういった意味で、ある意味遊び心というか、楽しく作っている感じも含めて、僕も大好きなエピソードですね。

 自分の中で結構このペネロープはカッコいいし、可愛いし、なんかいいなって感じがしますよね。大人の女性ですね。信用できる峰不二子みたいな。最高じゃないですか、そうだったら。しかもお金持ちですからね……。乗っている車はカスタム・カーだし、もう。すごいなと思いますよね。パーカーとか、すごいですよね。パーカーとのコンビっぷりというか。なんかちょっと邪悪なものを抱えて、でも「はい、お嬢様」と言う……。カッコいいと思いますね。「サンダーバード」にもこんな「007」っぽいエピソードがあったというトリビア的なものでもありますけど、今までとはちょっと一風変わった「こんなサンダーバードもあるんだよ」というエピソードになっているので、ぜひお楽しみください。

 ◇第32話「素晴らしいクリスマスプレゼント」

 これまた全く「サンダーバード」の本筋から外れたエピソードなんでございますけれども、たぶんほかの話数はベストエピソードとしてよいのが選ばれていると思いますので、私はあえてそこには出てこないこの季節もの、クリスマスものでございます。やっぱり子供向けの番組として作られているので、結構子供の目線というのを意識したエピソードというのはいくつか作られていて、さっきのペネロープとはまるで逆です。だいたいこういう時に子供ながらに思うのは、大人が考えた子供ってちょっとムカつくんです。

 “クソガキ”が出てきて、“クソガキ”が大人の事情を無視してやりたい放題やって、大人がちょっと迷惑するみたいな話。自分も“クソガキ”のくせに「このガキ出てけ! トレーシーアイランドから出てけ!」みたいな気持ちになるんですけど、そういうエピソードが3本ぐらいある。その3本ぐらいの中で、実はこれ本当は最初のオンエアの時は最終回だったりとか。

 米国のドラマってそうだと思うんですけど、最終回がない。なんとなく続きもあるだろうというところで放送が終わるだけで。結局、「サンダーバード」が人気が出すぎてこの後、劇場版になった。それが2本ぐらい続いてそこの後はもう「サンダーバード」というか「スーパーマリオネーション」がどんどん進化していって、違う世界観のものを作っていくということになった中で、一番最後のエピソードがなぜか「クリスマス」。

 見ると分かるんですけど、そんなにピンチもないわけですよ。最初まずジェフが“クソガキ”を招待して、“クソガキ”のわがままを聞き放題なんですけど、なぜあの“クソガキ”がトレーシー島に、国際救助隊のメンバーとあんなに親しげに……・「そんな何かしたか?」ていうぐらい理由がわからないまま最後まで行くんですけど、そういうのも含めてかなり異色作というか。

 しかも、その舞台となる子供病院の子供は誰一人出てこない。子供病院の大人しか出てこない。要はクリスマスの時に、サンタのお土産みたいな感じで、余ったロケットで打ち上げてそれで子供にあげる……みたいな話なんだけど、子供が一回も映らないんですよね。子供どこ行ったんだよ!と。もしかしたらこの人たち子供が見えてないか、いない子供に向かって何かやってんのかと思うと、ホラーみたいにも見えるわけです。

 それを代表する“クソガキ”がいるんですけどこれがまた、我々日本という島国に生まれ育った貧相な“クソガキ”から見ると、ちょっとムカつくんですよ。本当、あの頃は「ウルトラマン」とかでもホシノ少年という“クソガキ”が出てきて、その“クソガキ”が一人、隊員と同じ服着て、子供ながらに嫉妬するんですね。「ズルい! ホシノ君だけ科学特捜隊の服を着て、隊員とならんで隊員と同じようなでかい顔をしやがってズルい!」と思うんですけど。

 それと同じようにこれに出てくる少年もやはり、なんだか分かんないけどサンダーバードというか国際救助隊の格好をして、「なんで一人だけ? 子供なのに……」みたいな、そういう嫉妬の感情が子供心に渦巻いて、そして終わりという。「えー!」と。ほとんど活躍しないまま終わるという、こういうのもまた「サンダーバード」の一つの魅力ではないかと思って選ばせていただきました。

 ちょうど季節的にもそろそろ年末ということで、クリスマス気分なのではないかと思います。街にはクリスマスソングが流れてるなか、「サンダーバード」のこれまた異色中の異色作になりますけど、「素晴らしいクリスマスプレゼント」、ぜひご覧ください。

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