樋口真嗣監督:「サンダーバード」の衝撃と影響 新作に参加する意義

「サンダーバード55/GOGO」日本語劇場版を手がけた樋口真嗣監督
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「サンダーバード55/GOGO」日本語劇場版を手がけた樋口真嗣監督

 SF特撮人形劇「サンダーバード」の完全新作「サンダーバード55/GOGO」が、1月7日に劇場上映、1月8日にオンライン上映される。英国のクラウドファンディング企画で2015年に制作され、参加者向けに公開された計3話のエピソードを、映画「シン・ゴジラ」などで知られる樋口真嗣監督が、一本の映画として日本公開用に構成した。「サンダーバード」は多くのクリエーターに影響を与えた名作で、樋口監督もその一人だ。樋口監督に「サンダーバード」の衝撃や影響、新作について聞いた。

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 ◇玩具業界に与えた大きな影響

 「サンダーバード」は1965年に英国で放送をスタートし、1966年から日本でも放送された。1965年生まれの樋口監督は子供の頃、「サンダーバード」と出会った。

 「最初のNHKの放送は見ていないのですが、リピート放送をよくしていましたし、テレビをつけると、やっていた記憶があります。やっぱり格好いいじゃないですか。メカのことを格好いい!と思ったのは『サンダーバード』が最初でした。すごく洗練されているんですよね。当時の日本の特撮のメカは、いろいろあったけど……1963年の『海底軍艦』などもありましたが、(第二次大戦中に作られた)設定のせいもあるけど大時代的な印象があり、サンダーバードとは洗練のされ方がまるで違ったんです」

 「サンダーバード」は樋口監督をはじめ多くのクリエーターに影響を与えた。それだけではなく「ビジネス面の影響も大きい」と分析する。

 「『サンダーバード』の玩具の中心にはメカがあります。主従で言うと、キャラクターよりもメカが主であるというのが画期的だったのかもしれません。『サンダーバード』が人気になり、プラモデルが売れて、『ウルトラマン』シリーズも『ウルトラセブン』からメカが格好よくなった。メカにも予算を掛けるようになったんでしょうね。それがずっと続いている。実は歴史的に大きなことなんです。『サンダーバード』の前にも『海底大戦争 スティングレイ』とかがありましたが、メカへの取り組み方、力の入れ方が大きく変わった。永大、イマイ(今井科学)が『サンダーバード』の玩具やプラモデルで商売をやっていて、マルサン、ブルマァクが東宝の特撮のプラモデルを作るようになったり。『怪獣総進撃』のムーンライトSY-3も影響が大きいですよね。イマイが潰れ、バンダイがそれを拾ってバンダイ模型になった。『サンダーバード』をきっかけに始まったことがたくさんあるんです。クリエーターに影響を与えたというレベルではなく、ビジネスを変えたんです」

 もちろんクリエーターにも大きな影響を与えた。樋口監督もその一人だ。

 「普通とは違うんです。メカの発進にしても、発進シーンで物語が止まる。救助に向かうので急がないといけないけど、優雅なんです。一つ一つの段取りが楽しい。そこがイギリスっぽいのかもしれません。音楽も壮大で『格好いいから、いいか!』となる。音楽も込みで立派なものを見ている気持ちになります。押井守さんの演出もそういうところがあります。ただ運河で船が流れていて、川井憲次さんの素晴らしい音楽が流れる。話は進んでいないけど、いいものを見たと感じる。情報量を詰め込むわけではなく、いい時間が流れるんです。自分も影響がいたるところにありますよ。『ここは音楽で見せよう!』とか」

 ◇何がすごいのか?を説明する

 新作は、英国のクラウドファンディング企画で2015年に制作され、参加者向けに公開された。昔の「サンダーバード」を忠実に再現しつつ、新たなエピソードが誕生したことが話題になった。樋口監督は発表当時、新作を見て、驚いたという。

 「飲み屋のカウンターで見て『え、この話、知らない!?』となって(笑い)。周りにいるマニアの前で『これ、何話?』とは恥ずかしいので聞けない。欠番があったのか? でも、そんな話を聞いたことがない……。新作と聞いて『新しく作って、この完成度なのか!?』とびっくりしました。よくできているんです。ちょっとしたところもオリジナルっぽい。今の技術で格好よくできることも、あえて昔のままやっている」

 樋口監督は、新作の計3話のエピソードを一本の映画として日本公開用に構成した。ただ、つなげたわけではなく、メーキングやメカの解説などを追加した。樋口監督は新作を「より楽しめるようにしたい」という思いで構成した。

 「『どうしてこの作品が作られたのか?』『何がすごいのか?』という説明が必要だと思った。新作は、旧作への愛、リスペクトにあふれています。かつての素晴らしい作品を、素晴らしい人が再現した。本物そっくりな完コピだけど、今までにないものができた。好きな人は分かるけど、事情を知らない人にそれをどう伝えるのか? そこに参加する意義があると思いました。そもそもスーパーマリオネーション(特撮人形劇の撮影手法)がどういう成り立ちなのか? 歴史を考えると『ピノキオ』と同じなんです。人間になりたいから、人間に近づこうとして、唇の切れ目をなくして、目を細かく動かすようになり、頭身を人間に近づけようとした。最後に人間になると、人形はお払い箱になってしまう。でも、やっぱり人形が魅力的なんです。その歴史があり、一番いい時期のスーパーマリオネーションを再現しようとした人たちがいた結果、新しい『サンダーバード』が生まれた。そこには物語があり、それをよどみなく伝えたい。歴史を知ることで、より楽しめるようになるはずです」

 ◇「シン・コンプリート・サンダーバード」への思い

 新作の日本語劇場版は、日本語版の主題歌も流れる。樋口監督は「新作が1960年代に放送されていたら、こういう風になっていないんじゃないか?と忠実に復元しようとした。だから、あえて日本語版の主題歌なんです」と愛を込めた。

 日本語キャストとして満島ひかりさんがペネロープ役で出演することも話題になっている。ペネロープは、黒柳徹子さんが吹き替えを務めたことでも知られるキャラクターで、ドラマ「トットてれび」で黒柳さんを演じた満島さんが引き継ぐことになった。

 「これまでのペネロープ像は、すごく大人で、どう捉えていいのか分からないような存在、手が届かないような存在にも感じていました。ジェフとの関係も勘ぐっちゃいけないような(笑い)。そのイメージを後押しするのが黒柳さんの成熟した演技によるところも大きいのですが。今回、満島さんの声が可愛いんですよね。ペネロープが史上一番可愛いです。すごくいいキャスティングです。フッドの立木文彦さんもいいですよね。どこかで聞いたことがある!?となる(笑い)」

 人気アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズなどで知られる庵野秀明監督が1985年に編集に関わったダイジェスト編「ザ・コンプリート・サンダーバード」が、「シン・コンプリート・サンダーバード」として“復活”することも大きなトピックだ。「ザ・コンプリート・サンダーバード」は、当時25歳の庵野監督がプロとして初めて編集に関わったダイジェスト編で、東北新社の倉庫に眠っていた当時の映像が発見され、再び庵野監督の監修の下、修復とHDリマスターを施し、新たに生まれ変わることになった。2022年にBS10 スターチャンネルで独占放送予定。動画サービス「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」でも配信される。

 「シン・コンプリート・サンダーバード」の復活には「(庵野監督を特集した2014年の)東京国際映画祭の時にも見つからなかった映像です。『何とか探してもらえないか?』とお願いしました。当時、ガイナックスで、隣で作業していたので、見ていて、面白かった記憶があります。個人的にもまた見てみたかった」と語るように樋口監督の願いでもあった。

 「サンダーバード55/GOGO」は、クリエーター、関係者の愛、熱量があったからこそ、生まれた作品だ。その愛、熱量を感じてほしい。

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