葬送のフリーレン:マンガ大賞の話題作 “時間感覚”の違いを丁寧に描く

「葬送のフリーレン」のコミックス第1巻
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「葬送のフリーレン」のコミックス第1巻

 「マンガ大賞2021」で大賞に選ばれたことも話題のマンガ「葬送のフリーレン」。「このマンガがすごい!2021」「2022」オトコ編上位に2年連続で選出され、「次にくるマンガ大賞2021」で3位に選ばれるなど最も注目されるマンガの一作だ。なぜ、同作は多くの人を魅了しているのだろうか? 主人公・フリーレンの“時間感覚”に注目し、その魅力に迫る。(桜見諒一)

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 ◇エルフと人間の時間感覚の違い

 同作は、山田鐘人さん原作、アベツカサさん作画のマンガで、「週刊少年サンデー」(小学館)で2020年4月に連載をスタートした。魔王を倒した勇者一行の一人で、魔法使いのフリーレンが旅をする姿を描いている。エルフであるフリーレンの時間感覚は、ほかのキャラクターとは違う。長生きしても100年ほどの人間と、1000年以上生きても見た目が少女のままのエルフとでは“1年”の捉え方が異なる。そのため、導入部分は特に50年、20年と“エルフならでは”のスピード感で一気に物語が展開する。

 コミックス第4巻終盤から長編パートに入っているが、基本的には各エピソードが1、2話程度で描かれる。エピソードをまたいで、年単位で劇中の時間がたつことも珍しくない。このテンポ感こそ、エルフのフリーレンの時間感覚で、“人間”である読者がその感覚を感じつつ読み進めることになる。

 同作では、そのフリーレンとほかの種族の時間感覚の違いが丁寧に描かれている。フリーレンは、魔王討伐の旅をした10年を「短い間だった」と語るが、当然ながら人間にとっての10年は長い。フリーレンは、共に旅をした勇者ヒンメルの死を受けて「人間の寿命は短いって分かっていたのに……なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう……」と後悔の涙を流す。ヒンメルの死が、フリーレンの人間をもっと知るための旅に出るきっかけになるのだ。

 しかし、同じく勇者一行の仲間であり、老い先短いことも分かっている僧侶ハイターに再び会いに行くのは、それから20年後だ。“人間”(フリーレンはエルフだが)は、すぐには変われないし、そもそも“すぐ”の尺度もエルフと人間では異なる。ほかのエピソードでも、フリーレンが50年という時間について「たった50年」と語る場面もある。「20年」はフリーレンにとっては“すぐ”なのだ。こういった描写から、エルフと人間の時間感覚の違いがはっきりと分かる構成になっている。

 ◇「人生の100分の1」の出来事が大きな存在に

 本作では物事に費やす時間もキーとなる。魔法で言えば、その鍛錬にかけた時間が、魔法使いの強さの大きな指針の一つだ。物語の中では、エルフほどではないが長命であることを生かし、一生をかけて魔法を磨く“魔族”も登場する。しかし、フリーレンは、過去に自分よりも魔力の低い魔法使いに11回負け、そのうち6人は人間だったことを明かしている。フリーレンですらこれまでに何度も自分より短命な人間に負けていることから、「時間が絶対的なもの」というわけではないことが分かる。

 だからこそ、フリーレンが、自分より短命で時間感覚が異なる人間に興味を持つことに説得力が生まれる。魔王討伐の旅を終えた際にフリーレンは、10年の旅を「私の人生の100分の1にも満たない」と語るが、後に再会する仲間の戦士アイゼンに「その100分の1がお前を変えたんだ」と言われる。また、フリーレンがことあるごとに思い出すのは、共に旅をした時のヒンメルの言葉だ。「人生の100分の1」の出来事であっても、言葉はフリーレンの胸に刻まれ、大きな存在になっている。

 ◇“人間”を丁寧に描く

 「葬送のフリーレン」は「魔王を討伐した勇者一行の後日譚(たん)」であり、フリーレンが「勇者一行がどんな旅をしたのか」を再認識する物語でもある。フリーレンは「今」の旅の中で、「過去」の魔王討伐の旅での仲間とのできことを思い出す。当時は理解できなくても、「今」のフリーレンの視点で回想することで理解できることもある。

 勇者一行はみな個性的だ。フリーレンはトラップの可能性があると分かっていても宝箱に目がないし、ヒンメルは普段は高潔な勇者だが、子供っぽいところがあり、ナルシシストでもある。ハイターは酒ばかり飲んでいて、アイゼンは恐怖から仲間を見捨てた過去がある。伝説の勇者たちであっても聖人君子ではなくそれぞれに欠点があり、“人間味”のあるキャラクターたちだ。物語が進行する中で、そんな勇者一行の素顔が少しずつ見えてくる。

 “人間”を丁寧に描いている点も同作の大きな魅力になっている。担当編集の小倉功雅さんはMANTANWEBのインタビューで「個人的に、裏にあるテーマは『人への興味』だと解釈しています。せりふに呼び名が多いです。例えば『じゃあまたね』で終わるところを『じゃあまたね。アイゼン』としています。読んでいて気付きにくい、山田先生のこだわりです。目の前にいる人に対する、興味、敬意、思いやりを直接的ではないけれど丁寧に描いていて、そこがにじみ出ている気がします」と語ったことがあった。物語がテンポよく進み、キャラクターたちの素顔や人間性がゆっくりとひもとかれていく。その描写が丁寧で、バランスも絶妙だ。

 「葬送のフリーレン」は、2020年4月の連載開始からまだ1年半ほどしかたっていない。フリーレンの物語は「僕たちには想像もできないほど、長いものになる」かもしれない。旅路の果てにフリーレンは何を感じるのだろうか? 今後の展開にも期待したい。

 <プロフィール>

 桜見諒一 パブリシストとして国内外の実写映画、劇場版アニメを中心に幅広い作品の宣伝業務を行う傍ら、ライターとして活動している。ツイッター:@Ohmi_Ryoichi

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