超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、2021年のゲーム業界を振り返ってもらいました。
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2021年のゲーム業界を振り返ると、ソーシャルゲーム、インディー(独立系)ゲーム、AAA(大作)タイトルのそれぞれで、突出した成果がみられた。
ソーシャルゲームでは2月にスマートフォン、3月にPC向けにリリースされた「ウマ娘 プリティダービー」(Cygames)があげられる。競走馬を擬人化した「ウマ娘」を育成し、レースでの勝利をめざす内容で、リリースされるや否や大ヒットを記録した。調査会社のSensor Towerによると、国内市場だけで9億6500万ドル(約1096億円)の売上を記録したという。「フォートナイト」(Epic Games)、「原神」(miHoYo)など過去数年間、海外勢の躍進が続いた中で、久々に国産の新作タイトルが気を吐いた形だ。
インディーゲームでは2020年11月にリリースされた「天穂のサクナヒメ」(マーベラス)の勢いが衰えず、2021年6月にワールドワイドで100万本を達成する偉業を成し遂げた。稲作をテーマにしたアクションRPGで、インディーゲーム開発者集団のえーでるわいすが5年越しで完成させたタイトル。ゲームメディアだけでなく、日本農業新聞で取り上げられるなど、業界内外で注目を集めた。また、本作のヒットと前後してインディーゲームの開発支援が始まるなど、業界の活性化に貢献したタイトルになった。
AAAタイトルでは映画「マトリックス」の世界を舞台にした「The Matrix Awakens:An Unreal Engine 5 Experience」(Epic Games)が、プレイステーション(PS)5とXbox SeriesX|S向けに、12月に無料配布された点を挙げたい。最新ゲームエンジン「Unreal Engine 5」の機能を活かした技術デモで、文字通り「実写映画の中に入り込んで遊ぶ」体験が味わえる。現世代向けゲームで使用される技術のショウケースとしての意味合いもあり、AAAゲームのあり方を指し示す内容として、ゲーム開発者の注目を集めている。
一方でゲーム開発者の第一世代で訃報が相次いだ。元任天堂のエンジニアでファミコンの開発などを主導した上村雅之氏。元ナムコで「ゼビウス」などのドット絵を担当した小野浩氏。同じく「マッピー」などでゲームサウンドを手がけた大野木宜幸氏などだ。「ドラゴンクエスト」シリーズで作曲を手がけたすぎやまこういち氏も含まれるだろう。オーラル・ヒストリー(口述歴史)の収集や、故人に対する業績評価や顕彰のあり方について、改めて考えさせられる機会が多かった。
こうした議論を踏まえた上で、2022年はどのような一年になるだろうか。キーワードの一つがメタバースだ。3Dの仮想空間やサービスの総称で、VR(仮想現実)デバイスの普及、暗号通貨、コロナ禍によるリモートワークの進展などを背景に、新たな経済圏や生活圏の創造が議論されている。米フェイスブックが社名を「メタ」に変更したことも記憶に新しい。メタバースを実態のない「はやり言葉」だとして批判する声もあるが、ICT技術の進展によるコミュニケーションの拡大は世界的な潮流であり、今後も試行錯誤が続けられていくだろう。
ここで思い出されるのがスマートフォンの登場で、ゲームの開発技術がウェブ業界で注目を集めたことだ。快適なタッチ操作を可能にするアプリを開発する上で、ゲーム業界とウェブ業界が刺激を受け合い、ソーシャルゲームの市場拡大と相まって、人材や技術の融合が進んだ。同じように今、「フォートナイト」や「あつまれ どうぶつの森」などのゲームが、メタバース的な視点で注目を集めている。オミクロン株の流行をはじめ、コロナ禍の先行きが不透明な中、社会そしてゲーム業界がどのように対峙していくか、引き続き問われる一年になりそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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