横浜流星:空手経験者ゆえの苦悩、破りたかった殻 映画「流浪の月」撮影中、待ち受けを「広瀬すず」にしたワケ

映画「流浪の月」に中瀬亮役で出演している横浜流星さん
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映画「流浪の月」に中瀬亮役で出演している横浜流星さん

 ドラマや映画で数々の話題作に出演し、順調にキャリアを積み重ねている俳優の横浜流星さん。広瀬すずさんと松坂桃李さんがダブル主演を務める映画「流浪の月」(5月13日公開)では、広瀬さん演じる家内更紗(かない・さらさ)の婚約者・中瀬亮を演じている。愛情に飢え、ときにもろさも見せる亮は、これまでにあまり経験したことのないタイプの役であり、相手に甘えることに抵抗があった横浜さんは「現場でもずっと悩んでいた」というが、撮影を終えた今は「少なからず自分の中の殻は破れたのかな」と笑顔も見せる。横浜さんに亮役へ挑戦する過程で生じた苦悩や手応え、今後のビジョンなどを聞いた。

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 ◇李相日監督に「喝を入れられた」

 「流浪の月」は、2020年の「本屋大賞」を受賞した凪良ゆうさんの同名小説(東京創元社)が原作。10歳のときに誘拐事件の“被害女児”とされた更紗と、当時19歳で事件の“加害者”とされた佐伯文(さえき・ふみ、松坂さん)が、“被害女児”と“加害者”という烙印(らくいん)を背負ったまま15年ぶりに再会する。更紗のそばには、婚約者の亮がいて……という展開。広瀬さんが出演した映画「怒り」(2016年)の李相日(リ・サンイル)監督がメガホンをとる。

 もともとタイトルに惹(ひ)かれ、原作を読んでいたという横浜さん。「やっぱり更紗と文の関係性が魅力的。自分の考えの幅が広がったというか、新しい関係性を2人が提示してくれたと思いました」と感想を明かす。演じる亮については、「主人公の更紗と文の目線で読んでいたので、『なんだこいつ』と思っていました(笑い)」と率直な思いを吐露。その後、オファーが来たときも「最初はやっぱり、亮への思いは『憎い』しかなかったです」というが、目線を亮に合わせてみると、見方が変わった。「すごく人間らしいし、共感する部分もありました。やっぱり目線によって全然変わるんだ、と思いました」と理解を示す。

 今作のメガホンをとるのは李相日監督。厳しい演技指導で知られるが、横浜さんは「周りからはそう聞くし、確かに厳しいんですけど、その中でも愛があるので僕は『つらいな』と思うことはなかったです。むしろ、感謝することがたくさんありました」と事もなげに語る。「自分の経験不足、実力不足ということもすごく痛感したんですけど、李監督と一緒にやることで、もっと役と向き合って作品作りをしていかないといけないな、と喝を入れられましたし、監督自身、すごく役者の思いを汲(く)んで撮影が進んでいくので、僕は『本当に幸せな現場だな』という印象しかなかったです」と振り返る。

 喝を入れられた、というのは広瀬さん演じる更紗との距離感の部分だった。「最初のシーンのリハーサルでは『形はできているけど、そこに中身はないよね』と言われたんです。それは更紗と亮の関係性のところで、もう2年ぐらい同棲(どうせい)しているカップルなのに、その距離感がない、と。でも、確かにそうなんです。リハで『はじめまして』だったから。『まず最初に広瀬すず、横浜流星として、距離感を縮めた方がいいんじゃないの?』と言われて……。そこからいろいろ話したりしました。更紗として、亮として以前の問題だったので、まず距離を縮めていった感じです」と語る。

 ◇「更紗のことしか考えないようにしよう」と

 自身が愛に飢えている亮は、更紗にも愛を求め、それゆえ過剰な振る舞いが目立つようになる。「今まで受け身の芝居が多かったので、発信する芝居は一つの挑戦でした」と横浜さん。撮影にのぞむ前には「李組に全力でぶつかって、僕の中にまだある殻を破ることができたらなと思っています」と語っていたが、空手の経験によって感情を抑え込むことが習慣として身についている横浜さんにとって、「相手に甘える」など感情を解放することに対しては抵抗があり、それが役者としての足かせにもなっていたという。

 「空手では、自分の芯を強く持って『人に弱みを見せるな』『男として強くあれ』と教わってきたんです。小学生のころ、よく試合に負けて泣いてしまっていたんですけど、『人に涙を見せるな』と言われて。『男は強くいなければいけない』と感情を抑えこんでいました。でも、それは役者をするうえで一番邪魔なところ。空手のおかげで忍耐力や精神力をつけることができたし、どんなにつらいことがあったとしてもすべて乗り越えられる、という良い面もあるけど、一方で役者としては、感情を解放しなければいけないところでそれができない。だから『甘える』ことも、『甘えるって、どうやって甘えればいいんだ?』と……。監督が『こうやって甘えるんだ』とやってくださるんですけど、抵抗があったんです。でも、今回はそういう部分を一回捨てなければいけない。それで『自分の殻を破りたい』と言っていたんです」

 そんな横浜さんが、役者として殻を破るため、役作りでしていたのは、婚約者・更紗のことだけを考える、というものだったという。「もう本当に、そのことだけしか考えていなかったですね。撮影期間は(携帯電話の)待ち受けを、すずちゃんにしていましたから。それぐらい『更紗のことしか考えないようにしよう』と思っていました」と打ち明ける。

 「亮は愛に飢えているから、相手の愛を求めている。『自分も愛をあげるから、愛がほしい』と。だからこそ、更紗を愛することだけに徹しよう、と思いました。『更紗を守りたい』という一心だけを大事にすればいい、と思っていたんです」と横浜さん。では、撮影を終えた今、“殻”は破った手ごたえは? 「『破った』という確信はないんですけど……現場でもずっと悩んでいたので」としつつ、「でも監督のオーケーをもらえた、ということは、少なからず自分の中の殻は破れたのかな。そう今になって思っています」と笑顔を見せた。

 ◇「代わりなんていくらでもいる」から「唯一無二」に

 今作で殻を破ることに挑み、進化を続ける横浜さん。今後ますますの活躍が期待されるが、俳優としての“これから”にどのようなビジョンを描いているのか。

 「ずっと役者は続けていきたい。まだまだ自分はこの歳(25歳)だし、自分の代わりなんていくらでもいるんですけど、『代わりはいないよね』と言ってもらえるような、唯一無二の存在になれたらいいなと思っています。そうなるために、目の前にあることを一つひとつ頑張って、役者としてさらに大きくなっていけたらいいなと思います」

 コロナ禍で、改めて強く思うこともあった。「絶対、自分の芯を腐らせないことは大事だな、と。自分のやるべきことは絶対にやる、その芯だけはブレないこと。人が感情を保つために、エンタメは絶対に欠かせないもの、必要なものだと思う。やっぱり作品から感じる、すごく大きなものはあると思うんです。いろいろな作品に出演して、皆さんに見てもらって、いろいろな思いを感じてほしい。だからこそ自分自身は絶対にブレないように、振り回されないようにして、作品と役だけを考えて生きていきたい。そう、この2年で強く思いました」と俳優としての覚悟を語ってくれた。

 ※クレジット(敬称略)

 ヘアメーク:永瀬多壱(VANITES)/スタイリスト:伊藤省吾(sitor)

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