押井守監督:新潟国際アニメーション映画祭で「映画祭のイメージを変えてしまえばいい」 アニメ業界の課題に向き合う

「第1回新潟国際アニメーション映画祭」の審査委員長を務める押井守監督
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「第1回新潟国際アニメーション映画祭」の審査委員長を務める押井守監督

 長編商業アニメの映画祭「第1回新潟国際アニメーション映画祭」が、2023年3月に新潟で開催される。長編アニメのコンペティション部門を設けたアジア最大の祭典を目指し、新潟から世界にアニメという文化を発信していくのが狙い。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「機動警察パトレイバー」などで知られる押井守監督が審査委員長を務めることも話題になっている。数々の海外の映画祭に参加してきた押井監督は、新たな映画祭に何を期待するのか?

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 ◇アートアニメ、商業アニメは真っ二つに分かれている

 なぜ新潟なのか? 新潟は、著名なマンガ家、アニメクリエーターを輩出してきた。にいがたアニメ・マンガフェスティバル、にいがたマンガ大賞を実施してきたほか、新潟市マンガ・アニメ情報館、新潟市マンガの家を運営し、「マンガとアニメを活用した街づくり構想」を進めてきたこともあり、新潟で映画祭が開催されることになった。

 同映画祭は、新潟市民プラザ(新潟市中央区)ほかで、2023年3月17~22日に開催予定。劇場版、配信、シリーズを含めた長編アニメが対象で、長編部門(コンペティション)のほか、アニメの進化に貢献した作品を紹介する「アニメーションの未来」、作家、ムーブメントを再評価する「レトロスペクティブ」、セミナーなどのプログラムを予定している。

 アニメの映画祭は、60年以上の歴史があるフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭のほか、国内でも開催されてきたが、新潟国際アニメーション映画祭の特徴は、商業アニメに特化している点だ。

 「アニメに特化した映画祭、コンテストは昔からいっぱいあった。主に短編アニメーションのコンテストだけど、広島(広島国際アニメーションフェスティバル)がすぐに思い浮かぶ。要するにアートアニメーションなんだよね。我々みたいなエンタメでやっているアニメーションは、商業アニメと言われることがあるけど、アートアニメーションと真っ二つに分かれている。エンタメの映画祭は、見本市みたいなものはあるし、昔もあったような気もするけど、珍しい。映画祭は、コンペがないと盛り上がれない。どういう作品が賞を取るかで映画祭の色が決まる。最初が肝心になる」

 アニメは、日本を代表する文化になっているが、「商業」と「アート」、「国内」と「海外」、「専門家」と「大衆」などに分断されているとも言われている。分断をつなぎ、文化と産業をつなごうとしていくのが同映画祭の目的だ。しかし、国内のアニメ業界にはまだまだ課題がある。課題に向き合う必要がある。

 「今回はエンタメに特化しますが、どれだけ作品が集まるのか?が難しいかもしれない。アニメ業界は、よそはよそ、ウチはウチというところがある。集まって何かをやるのとは、ほど遠い世界なんです。これまで、官庁がやっている賞の審査員をやったこともあるけど、作品が集まらない。出して、メリットがあるのか?となる。それに、評価されるのを嫌がる。制作会社の問題ですよ」

 ◇大ヒット作はあるが冷え切っている 業界全体の活性化を

 作品が集まらなければ、映画祭として成立しない。押井監督は同映画祭の会見で、業界の課題について「海外では、公開前の作品を見せるスニークプレビューという伝統があるが、日本にはほぼない。制作会社が作品を交換して見せるスクリーニングも海外ではあるが、日本にはない。そういうことの先駆けになってほしい」とも話していた。

 「実は、みんなが考えている以上にたくさん長編アニメが作られているけど、アニメファンしか知らないし、業界でも知られていない。ピクサーやディズニー以外の海外の長編アニメも実はたくさんあって、いいものがいっぱいある。でも、なかなか見る機会もないし、見られていない。日本にも面白いものがある。いろいろなスタイルがあるんだけど、視野が狭いんだよね」

 近年は「君の名は。」「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」「劇場版 呪術廻戦 0」など興行収入が100億円を超える大ヒット作も生まれている一方で、アニメ業界全体が活性化しているわけではない。映画祭を通じて、アニメのさらなる地位向上、業界の活性化を目指す。

 「今はみんな混乱していると思う。当たっている作品もあるけど、冷え切っている。もちろん、当たっている作品がないよりもいいけど、業界全体の活性化につながってない。別世界の話ですよ。ファンも新しいものを見たいかというと、必ずしもそうではない。定番ばかり増えている。そうじゃないものもあるけど、なかなか盛り上がらない。映画祭は、いろいろな作品を見てもらうチャンスになる」

 ◇文化祭みたいにやればいい 人が集まることが大事

 映画祭はコンペティションだけが目的ではない。クリエーターやファンが交流する機会を生み出そうとしている。クリエーター同士が意見を交換することで、刺激を受けることもあるはずだ。

 「結局、狭い業界で、制作会社を超えて交流することがあまりないんですよ。お花見や飲み屋で隣になることはあっても、ほかの監督なんてめったに会う機会がないから。コンペ以外にも企画があるから、文化祭みたいにやれば、うまくできると思う。監督、アニメーターなどめったに会えない人に会うことができますしね。今の監督はおとなしいじゃない。対外的には人の悪口を言わないしね。宮さん(宮崎駿監督)、富野さん(富野由悠季監督)、私とかは言いっぱなしだったから。極端すぎるよね。交流の場ができるのは、前進だと思う。この映画祭は全員がアウェーで、中立地帯だしね。みんなで作品を持ち合って、話すということだったら続くと思う。将来、アニメ業界で働きたいと思ってる子たちも来てもらってね。それがあれば、コンペで落ちた落ちないの話にもならない。私が審査をするから、恨まれるのは私だしね」

 押井監督の作品は、カンヌ、ベネチア、ベルリンなど数々の海外の映画祭にノミネートされてきた。海外の映画祭に参加する中で感じたことがあった。

 「海外の映画祭にも散々行ったけど、どこも一緒なんですよ。カンヌよりもベネチアの方が飯がうまいとか、それくらいしかない。うんざりしたわけ。朝から晩までずっと取材で、ほかの監督に会うこともないし、作品も見られない。今回、国際映画祭のイメージを変えてしまえばいいと思う。声優さんのトークイベントでもコスプレでも2.5次元のステージでもいろいろやっていけばいい。ファンとクリエーターが交流をする場も設けたらいいんだよ。そうすれば、きっと人が集まる。人が集まることが一番大事。マスコミ向けの映画祭じゃなくていいんだから」

 新潟国際アニメーション映画祭が“新しい映画祭”になれば、アニメ業界のさらなる活性化にもつながるはずだ。業界の課題に向き合ういい機会にもなりそうだ。

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