ブッチギレ!:何でもありの新選組アニメ ドン・キホーテ? ヤンキー!? 平川哲生監督に聞く

「ブッチギレ!」のビジュアル
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「ブッチギレ!」のビジュアル

 人気マンガ「シャーマンキング」などで知られる武井宏之さんがキャラクター原案を担当するオリジナルテレビアニメ「ブッチギレ!」が、7月8日からTOKYO MXほかで放送される。侍が日本を支配していた時代を舞台に、新選組が何者かの手により一人を残して全滅してしまい、7人の罪人が新選組の替え玉として選ばれる……というストーリー。「川の光」「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」などの平川哲生さんが監督を務め、「ゴールデンカムイ」「虐殺器官」などのジェノスタジオが制作する。「トーンを統一するのではなく、ごちゃごちゃしていてもいい」とさまざま要素をぶち込んだという平川監督に「ブッチギレ!」に込めた思いを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇ヤンキーものですね きっかけは武井宏之の言葉

 新選組の隊士が替え玉になってしまう。突拍子もないアイデアだが、最初に「新選組のアニメ」という企画があったといい、平川監督は「新選組は、こすられすぎたところがあります。いろいろな作品がある中で、変えたい気持ちがありました。『スーサイド・スクワッド』のように悪いやつらが大暴れしてスカッとするようなものも見てみたかった」という考えがあった。令和の時代に、幕末を舞台としたアニメを制作する意義も考えた。

 「アニメは若い人が主人公になることが多いですが、この時代に若い人を主人公にして、何を描こうか?と考えました。今の世界に生きている若い人たちは何を考えてるんだろう?というところから発想が生まれていったこともあります。幕末は、古い因習を変えていった活気があふれた時代だったと思うんです。坂本龍馬しかり、新選組にしても、幕末は、若い人が時代を変えていった。今を生きる若い人も時代をガンガン変えていってほしい。アニメーションの世界でも、若い人がどんどん伸びている印象があります。例えば、ネットから出てきた若いアニメーターがオシャレな音楽PVを作っている。若い人の活躍が目覚ましいんです。高齢化も進んで、日本はもう沈む船なんじゃないか?という意見もある中で、そんなこと言わずガンガン変えていこうぜ!と。そういう気分を描くのに幕末、新選組がよかったんです」

 武井さんが手がけたキャラクターもいい意味で新選組のイメージを裏切るような斬新なデザインだ。そもそも、なぜ武井さんだったのだろうか?

 「刀が光る……という設定があったのですが、何の理由もなく光らせるわけにはいかない。人の魂が刀に入っているという設定を考えた時、『シャーマンキング』っぽいかも?と思ったんです。そこで武井先生にお願いしたのですが、武井先生のデザインが作品に与えた影響がすごく大きいんです。武井先生が『これ、ヤンキーものですね』とポロッと言われたんです。ヤンキーものか……それならまとまる!と企画の筋が一本通ったところがあります。武井先生は本当にすごい。発想力が豊かで、いきなり正解をズバッと出してしまいました。武井先生がデザインされたキャラクターの髪にはメッシュが入っています。デコトラやヤンキーのバイクのようなカラフルさが合うんです。武井さんのデザインは、シンプルに格好いいんですよ。第1話でキャラクターが歌舞伎のようなポーズを取るのですが、すごくハマる。表情もいいんです。アニメにするのが難しいところもあるのですが、キャラクターデザインの横田匡史さんにうまくまとめていただきました。横田さんは元スタジオジブリの方で、ジブリっぽさのあるキャラクターも出てきます」

 ◇アップルストアじゃなくてドン・キホーテで

 替え玉の新選組、ヤンキー……とハチャメチャだが「スタッフには『アップルストアじゃなくてドン・キホーテで』とよく言っていました。トーンを統一するのではなく、ごちゃごちゃしていてもいい」と考えていたという。「ブッチギレ!」は挑戦的な作品になった。

 「そういう気分だったところもあります。統一したトーンにした方が描きやすいし、スタッフに説明もしやすい。アニメ制作は、集団作業ですし。ただ、今回はぶち込める要素があったらドンドン入れた。何でもありにしたかった。史実に縛られても面白くない。近藤勇は、顔が四角くて……というようなイメージもありますが、自由に変えていきたかった」

 キャラクターがカラフルなだけでなく、背景もカラフルだ。時代劇のイメージからかけ離れている。

 「時代劇というと、色が地味になりがちですが、NHKの大河ドラマを見ても、壁に布を張ってカラフルに見せたり、工夫しているんですよ。武井先生のデザインがカラフルだったこともあり、背景も含めてカラフルになっています。シリアスに時代設定をしっかりする作品もありますが、『ブッチギレ!』は“なんちゃって日本”を描こうとしています。ハリウッド映画に出てくるようなよく分からない解釈をした日本が好きで、あえてやってみようとしました。せりふも時代劇とはかけ離れています。時代劇風にしゃべるキャラクターもいれば、現代語をしゃべっているキャラクターもいる。池田屋事件、禁門の変など歴史的なエピソードも描いています。ただ、描き方はハチャメチャです」

 バトルシーンも時代劇らしくない。

 「最初に第1話の絵コンテを描いていた時は、そこまでぶっ飛んだ描写にしようと思ってなかったんです。ただ、(土方歳三の替え玉の)サクヤが戦うシーンで、スタッフがものすごくジャンプする原画を描いていたんです。最初は待ってくれ!と思ったのですが、僕が間違っていました。この作品は跳んでいいんです。(新選組唯一の生き残りという設定の)藤堂平助は、重力に縛られていて、跳びません。ただ、サクヤは跳んだ方がいい。走り方にも特徴が出ています。刀は重たいので、刀を手で持ちながらじゃないと走れない。でも、(近藤勇の替え玉の)一番星は手を振って走る。武士らしく走るのではなく、時代を超越して自由に走るんです」

 ◇ハマったキャスティング 佐藤元、土岐隼一の光る演技

 近藤勇の替え玉の一番星役の佐藤元さん、土方歳三の替え玉のサクヤ役の土岐隼一さんのほか、豊永利行さん、上坂すみれさん、三木眞一郎さん、上村祐翔さん、高木渉さん、落合福嗣さんら若手からベテランまで豪華キャストが集結した。平川監督は「声優さんたちに助けられました。すごくハマっていて、キャスティングがうまくいった」と自信を見せる。

 「この作品は若手を使っても面白いんじゃないかな?というところもあり、一番星、サクヤは若手の2人を起用しました。佐藤さんは、本当にお芝居が好きな役者です。基本的なお芝居のうまさが前提としてあり、どこまで役を自分の中に持ってこれるのか?と常に確かめています。原作がないオリジナル作品なのに、それをしっかりやっていて、驚きました。オーディションでも僕の中では即決でした。サクヤ役の土岐さんも声を聞いて、すぐにサクヤだ!となったんです。アフレコでは、自由度を高くして、もっともっと!と要求していました」

 「ごちゃごちゃ感がありますが、ある程度はまとめないといけない。そのバランス感覚が難しい」と話す平川監督。「細かいところですけど、和紙っぽい質感にしたり、キャラクターに少し太い線を入れて、マンガっぽくしたところもあります。アイドルドラマ、映画みたいにしたいという思いもありました。SMAPやザ・ドリフターズのメンバー全員が出ているようなドラマ、映画ですね」とさまざまな要素をごちゃ混ぜにしたようだ。一体どんなアニメになっているのか!? 期待が高まる。

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