ポケモン映画:ファン投票のリバイバル上映 新たなトレンドに

映画館という特別な環境で好きな作品を鑑賞することへのニーズは、むしろ増しているようです。
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映画館という特別な環境で好きな作品を鑑賞することへのニーズは、むしろ増しているようです。

 毎年公開され人気を博している「ポケットモンスター」の劇場版アニメ。今年は25周年を記念してファン投票で上位の作品をリバイバル上映する「夏の思い出、ゲットだぜ!25周年ポケモン映画祭」として公開される。過去の作品のリバイバル上映も増えている状況について、アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

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 アニメ「ポケモン(ポケットモンスター)」の25周年を記念して、「夏の思い出、ゲットだぜ!25周年ポケモン映画祭」の開催が発表され、注目を集めています。

 歴代の「ポケモン」映画の中からファン投票によって決まった3作品を、期間限定で劇場上映するという企画で、先月から実施された投票の結果、「劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス」と「劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 七夜の願い星 ジラーチ」「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド・パール ディアルガVSパルキアVSダークライ」が選ばれ、8月11日から順次上映されることになりました。

 幅広い世代がそれぞれに思い入れのある作品を持つ人気シリーズ「ポケモン」の企画であるため、上映に先駆け既に大きな盛り上がりをみせているのはもちろん、加えて今回注目なのが、本企画が“ファン投票によるリバイバル上映”という新しい試みであることです。

 近年も「金曜ロードショー」で開催された「名探偵コナン」や「ルパン三世」の歴代作品投票企画がそうであったように、SNSとの相性も良い“ファンによる投票企画”は、それだけでかなりの盛り上がりが生まれる傾向にあります。自らも作品選択に参加できるのはもちろん、結果を予想したり、「この作品に投票した!」という報告と共に、作品への思い入れやオススメポイントをファン同士で語り合ったりと、シンプルな鑑賞とはまた違った楽しみ方があることも大きいのでしょう。

 実際に今回の企画でも、いまだ上映前にもかかわらず、投票開始や結果発表の段階から、ネット上では既に大きな盛り上がりが生まれていました。

 しかし上記の通り、近年のトレンドとして盛り上がっているファン投票企画ですが、実は本企画のように、投票で決まった作品が実際に映画館で上映されるのはかなり珍しいケースです。恐らく、スクリーン数や上映時間といった制約があったり、興行的にも新作上映が優先されがちであったりと、劇場での旧作上映には放送や配信とはまた違った難しさがあるために、これまで積極的には行われてこなかったのでしょう。

 そんな中、今回の「ポケモン映画祭」は、なんと全国307館という新作公開並みの規模で開催されます。これには人気シリーズの周年企画であることや、映画館でポケモンがもらえることはもちろん、近年のリバイバル上映での盛り上がりを経て、たとえ旧作であっても「映画館で見るために」足を運ぶことをいとわないファンが予想以上にいることを、興行側が強く認識した部分も大きいのではないでしょうか。

 コロナ禍以降は特に、新作公開がなかった時期に行われたジブリ4作品の全国的なリバイバル上映をはじめ、その後も各地のシネコンで「プロメア」や「KING OF PRISM」、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」といった熱烈なファンの多いタイトルが頻繁に復活上映され、盛り上がる機会も増えてきました。たとえば前者のジブリ作品であれば、「生まれる前の作品だから映画館で見てみたかった」という人などが、後者であれば劇場で何度も見たし映像ソフトも持っているけど「やっぱり映画館で見たい」人などが、新作鑑賞と変わらぬ熱量で映画館へ足を運ぶのでしょう。

 今回上映される「ポケモン」映画も、既に映像ソフトも発売されていれば、定額見放題でも視聴できる作品であるにもかかわらず、映画館でまた見たい、生まれる前の作品だから映画館で見られるのがうれしいと、上映を楽しみにする声は少なくありません。いつでも自由に自分の見たい作品を映像ソフトや配信サイトで視聴可能な現在だからこそ、そうした映画館という特別な環境で好きな作品を鑑賞することへのニーズは、むしろ増してきてもいるようです。

 上記に加え、アニメ映画の興行はただでさえ近年ヒットが多く、日本の映画興行界においてもますます重要視されてきているのを感じます。そうした昨今の勢いも鑑みると、これまであまり実施されてこなかったこの“ファン投票による映画館でのリバイバル上映”も、今回の反響によっては今後他の作品でも行われるなど、アニメ映画上映の新たなトレンドのひとつになっていく可能性もあるのかもしれません。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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