シャドーハウス:アニメで“完全な暗闇”シャドーを表現 顔がなくても細かい表情を伝える 大橋一輝監督に聞く

「シャドーハウス 2nd Season」の一場面(C)ソウマトウ/集英社・シャドーハウス製作委員会
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「シャドーハウス 2nd Season」の一場面(C)ソウマトウ/集英社・シャドーハウス製作委員会

 「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中のマンガが原作のテレビアニメ「シャドーハウス」の第2期「シャドーハウス 2nd Season」。原作は、独特の世界観、謎めいた展開、個性豊かなキャラクターなどから「類似作品不在」とも言われる話題作。大きな特徴の一つが、顔のない一族・シャドーの存在である。アニメを手がける大橋一輝監督は、「発光体であるテレビで“黒”をメインにした作品になっている。そこからの違和感を楽しんでほしい」と語る。アニメならではの表現、シャドーを表現する上でのこだわりを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇「狂ったサーカス」をアニメで表現 普遍的なシャドーの“黒”

 「シャドーハウス」は、マンガ家ユニット「ソウマトウ」が「週刊ヤングジャンプ」で2018年9月から連載中のマンガ。洋館・シャドーハウスを舞台に、顔のない一族・シャドーと、シャドーの“顔”として仕える世話係である生き人形の不思議な日常を描いている。テレビアニメ第1期が2021年4~7月に放送された。

 大橋監督は、原作について「絵柄とストーリーの重厚さ、さまざまな要素を兼ね備えた本当にすごい力を持っている作品」と魅力を語る。アニメ化する際は、原作者の「ソウマトウ」の2人から「狂ったサーカス」という作品の大きなコンセプトを聞いたという。

 「『サーカス』という単語には、華やかで楽しいというイメージ、驚きという要素が大部分を占めていると思うのですが、そこに『狂った』が付くということは、暗めのファンタジー、ミステリーのストーリーの深さを表していると感じました。見た目は可愛いキャラクターだけど、やっていることはエグいとか、そういう部分を映像でも表現できたらと思いました」

 大橋監督が、「シャドーハウス」をアニメ化する上で最もこだわり、難しさを感じたのは、顔がないキャラクター・シャドーの表現だった。シャドーは、「アニメにしづらい」キャラクターだったという。

 「シャドーは、原作ではベタで処理されてしまっているキャラクターなので、アニメでは絵面として取りづらい構図がやはり生まれてしまう。黒しかないので立体表現ができなくて、振り向きなど普通のアニメ表現で行われる動作が分かりづらくなってしまいます。ただ、そんなキャラクターをあたかも表情があるキャラクターと同じように画面上に置くことで、そこから生まれる違和感を楽しんでもらえるのではないかと考えました。結果、画面全体が暗くなってしまって、びっくりするほど目に悪いアニメが生まれてしまったのですが(笑い)」

 たしかに、アニメの画面は全体的に暗めだが、それが作品のミステリアスな雰囲気を表現しているようにも感じる。そこにひときわ異質な存在としてシャドーが存在する。大橋監督は「シャドーの色は、あの世界で一番暗い色を使っています」と説明する。

 「どのシーンにおいても、シャドーより暗い色は存在しません。“完全な暗闇にいるシャドー”を表現しているので、服だけが浮いて見える。暗い空間に、最も暗いシャドーを置いているので、恐ろしい映像にはなっていると思います。何にも塗りつぶすことができない普遍的なものとしてシャドーを表現しています」

 ◇アニメならではのすす能力の表現

 第1期では、シャドーに秘められた謎が徐々に明かされていった。シャドーは、怒ったり悲しんだりと感情に動きがあると、体から“すす”を発する。さらに、シャドーがすすを使って強烈なパンチを繰り出したり、すすで作った翼で空を飛んだりと“すす能力”を操れることも明らかになった。シャドーがすす能力を発動するシーンは、アニメならではの表現に挑戦したという。

 「アニメでは、すすを微粒子の集合体として表現しようとしています。すすは一塊になっているはずではあるのですが、その先端や末端にはまとまりきれていない、固まりきれていない部分が存在すると思うので、そこを動きのある流動体として表現することで、アニメならではの見せ方になっていると思っています」

 シャドー自身の動きを表現しづらい分、すす能力で生き生きとした動きを見せる。それぞれのシャドーが「生きている世界」を表現するべく、大橋監督らスタッフはさまざまな工夫をしているという。

 「実は、絵コンテの段階では、シャドーに表情を描いているカットもあるんです。最終的には黒で塗りつぶすのですが、横顔でまつげの動きを意識するカットでは、絵コンテで目の位置を描いて、そこからまつげを伸ばしたりしています。表情を想定した上でキャラクターを動かせるように、描かなくてもいいものを描いている部分もあります」

 大橋監督はアニメ「シャドーハウス」の魅力を「真っ黒だけど伝わるものがある」と表現する。

 「テレビという発光体に黒を置くということは、その部分に何も映ってないってことになる。この作品は、黒が画面の8割を占めるようなカットも普通に生まれてくるんです。ただ、その黒の奥に『このキャラクターは、こういう顔をしている』『今このキャラはこっちを見ている』というのが、なんとなく分かるようになってくるのがこの作品の面白さ。真っ黒のシャドーではあるけど、細かい表情のニュアンスが伝わるように心がけています」

 第2期では、ケイトらシャドーと生き人形たちの前に新たな事件が発生し、事件の犯人と思われるローブをまとった謎の影の正体を追うことになる。すす能力を使ったバトルシーンも見どころの一つとなる。

 「第2期では、すす能力の処理を微妙に変えています。第1期でも、シャドーによってすす能力に差があることが描かれましたが、第2期ではより差別化、個別化しています。どんな違いがあるのか、アニメを見て気付いていただけたらうれしいですね」

 大橋監督らスタッフが挑むアニメ「シャドーハウス」。第2期では、登場するキャラクターも増え、「感情の流れをより深く楽しめるのではないか」と語る。シャドーの奥に何が見えるのか、注目したい。

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