高嶋政伸:「若者に馬鹿にされる、この喜び」キャリア重ねても初心大切に

16回目の朗読ライブ「リーディングセッションVol.16」を8月28日に開催する高嶋政伸さん
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16回目の朗読ライブ「リーディングセッションVol.16」を8月28日に開催する高嶋政伸さん

 ドラマ、映画をはじめ各方面で引っ張りだこの俳優・高嶋政伸さん。近年は作品に登場すると、周囲をざわつかせる存在感で視聴者を魅了しているが、そんな高嶋さんがライフワークにしているのが、自身で企画・プロデュースからお弁当の手配までを行っているという朗読ライブ「リーディングセッション」だ。今年で16回目を迎えるが、俳優として活躍する高嶋さんには切っても切り離せない大切な朗読ライブだという。思いを聞いた。

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 ◇役者としての腕試しのために始めた「リーディングセッション」

 1995年に高嶋さんが立ち上げた朗読集団「リーディングセッション」。自身の「腕試し」とプロ・アマ問わず多くの表現者たちの実験の場を作りたいと思って、この集団を立ち上げたという。

 「最近、滑舌が悪くなってきてまして。特にコロナ禍でマスクをしていると余計に口先だけでしゃべる癖がついてしまって、いま滑舌を一からやり直しています。また、今回の朗読で、1時間30分以上、しっかり読み切る体力をつける作業を役者として命懸けでやっています」

 普段は俳優として現場に立っている高嶋さん。そこでは役としていろいろな感情をアウトプットしている。デビューから30年以上俳優をしていると、常にインプットしていないと出すものがなくなってしまうという。

 「この『リーディングセッション』は、いろいろな人が集まってきて、意見交換をします。皆さんの意見はとても勉強になるし、多くのことをインプットできます。さらに、題材選びからプロデュース、演出、音楽選び、もっと細かく言えばスタッフや出演者のお弁当の手配もします。普段、役者だけやっている自分がいかに恵まれているかを感じられるし、得られることが多いんです」

 ◇「頓田町の聞奇館」を朗読に選んだ理由とは

 今回、高嶋さんが選んだのは、直木賞作家・木内昇さんの「頓田町の聞奇館」。大正時代の話で、親から縁談のプレッシャーをかけられるも、その気になれない娘が、死者の声を降ろすイタコの老婆と出会うことによって自分の生き方を見つける、という不思議なストーリーだ。

 「この作品は『占(うら)』という短編集の一編なのですが、僕自身、占いが好きで惹(ひ)かれたというのがまず、ありました。。占いって結構、僕の日常に入り込んでいます。神社に行けばおみくじを引いたり、祝い事には仏滅を選ばす、大安を選ぶ。占いは、すでに僕のDNAの中にあるんじゃないかと(笑い)。それと共に木内先生のお話を読んでいると、身近にある幸せみたいなものを題材にされている作品が多いように感じました。伸ばせば手が届く幸せ……それをつかもうとすることで、人は成熟していくのかなと思ったんです」

 こうしたちょっとした幸せがテーマにあるため、あえて今選んだという。

 「最近、子供と一緒に散歩したり、ジュースを飲んだりしているときに、ふと幸せを感じることがあります。すぐそばに、こんな幸せがあるんだな、と。そう思う自分があるから、木内先生の作品を今回、選ばせていただいたと思います」

 もともと2020年に開催予定だったが、2年近く間が空いた。くしくもコロナ禍で世の中が大きく変化するなか、高嶋さんはこうした「手の届く幸せ」というテーマが、心に響いたと言う。

 「そんな、すぐそばにある幸せを、シャーマン(イタコ)の降ろした死霊たちが教えてくれる、まるで、ギリシャ神話のアリアドネの糸のような、ある種スペクタクルな魅力も『頓田町の聞奇館』にはあると思うんです」

 ◇若者に馬鹿にされる、この喜び

 数々の現場を経験し、映像界にはなくてはならない存在という評価を得ている高嶋さんだが、常に自分を疑うことを忘れないという。

 「現場にくる人ってすごい方ばかり。僕なんか足元にも及ばないような若い俳優さんはたくさんいらっしゃいます。過去の実績なんて考えていたら、彼らと渡り合っていけない。常に腕を磨きながら、イマジネーションも豊かに保っていかなければ、仕事はなくなります」

 年齢を重ねていくと、周囲が気を使ってくれることが多くなるという高嶋さん。油断するとお山の大将になってしまうという怖さがあるため、いつも心掛けていることが、フレッシュな気持ちでいること。

 「現場ではいつも若い方の話を根掘り葉掘り聞きます。若い方に馬鹿にされるぐらいになって初めて彼らも本音を話してくれる。『若者に馬鹿にされる、この喜び』です(笑い)」

 ◇「ちむどんどん」の現場でも調和を大切に

 現在放送中のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ちむどんどん」の現場でも、高嶋さんは現場でのコミュニケーションを大切にしているという。

 「皆さん、若いですが本当に実力派ばかり。いろいろ話をさせていただきますが、しっかりと芝居に対して哲学ががある。もちろんスタイルも違うし考え方も違うのですが『なるほどな』と思うことばかりです」

 もう一つ、高嶋さんが現場で心掛けているのが“調和”だという。

 「僕が言うのも変なんですが、現場では、やり過ぎも、やらなすぎもいけない。全体の調和を考えて、自分がどう演じるべきかをいつも意識しています。自分にないものを絞り出そうとしてもしょうがない。マツタケとシイタケがあるとして、漠然とシイタケがマツタケになろうとすると、おかしなことになりますよね。でもシイタケが最高においしいシイタケとして作られたら、決してマツタケに負けない。僕も常に、自分にしかできないものは何なのかを考えています」

 「ちむどんどん」の現場でも、高嶋さん演じるイタリアンレストラン「アッラ・フォンターナ」の料理長・二ツ橋光二として、ときにトリッキーな芝居を披露することもあるが、バランスを大切にしているという。

 「(ヤクザから権利書を奪い)亀になったりしましたが、あの様なシーンは本当に難しい。原田美枝子さんとの間合いもあるし、ヤクザたちを演じている俳優さんとの距離感もある。もちろん(黒島結菜さん演じる)主人公の暢子ちゃんとの関係性もある。演出家や、時に共演者に自分の芝居をどう思うかをお聞きしながら、慎重に本番に向かいます。自分の姿を自分自身で見ることはできませんから」

 現場では年配者へ敬意を持ちながら、年齢・キャリア関係なく、常にフラットに向き合うという高嶋さん。そんな中、「面白いことを今、やれるか」と自身の価値観を示す。「もちろん法律に従いますが、常識に従わない。常に面白いことを追求する人には憧れますし、そうありたいなとは思っています」と理想の俳優像を語ってくれた。(取材・文・撮影:磯部正和)

 「高嶋政伸『リーディングセッションVol.16』」は8月28日、BODY&SOUL 新渋谷公園通り店(東京都渋谷区)で開催される。

 ※高嶋政伸さんの「高」ははしごだか

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