1997年にプレイステーション(PS)用として発売されたアドベンチャーゲーム「KOWLOON’S GATE クーロンズ・ゲート-九龍風水傳-(クーロンズ・ゲート)」が発売25周年を迎えた。香港の九龍城砦(九龍城)を舞台に、別世界“陰界”から出現した九龍城に風水をもたらすために探索し、世界の崩壊を防ぐ……というゲームで、カオスで不穏な雰囲気、妄想に取りつかれた妄人(ワンニン)と呼ばれるキャラクターなど独特の世界観が、一部ファンの間でカルト的人気を誇る伝説のゲームだ。発売から四半世紀たったが「クーロンズ・ゲート」の伝説は終わらない。続編の制作が発表されており、今後もさまざまな展開が控えているという。企画・脚本・監督の木村央志さんに、伝説のカルトゲームの制作秘話、今後の展開について聞いた。
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「クーロンズ・ゲート」はソニー・ミュージックエンタテインメントのニューメディア室が開発した。1994年に発売されたPSの初期タイトルとして予定されていたが、開発に約3年を要した。
「ニューメディア室はそもそもゲームを作る部署ではなかったんです。ソニー・ミュージックエンタテインメントとしては、CDの売り上げが減ってきて、新たにメディアを作ろうとした。そこそこ予算があったので、1億円くらいするオニキス(シリコングラフィックス製ワークステーションのSGI Onyx)を買って、じゃあ何かをしようか……というところから始まっています。ハイエンドなCGマシンなのだから汚れやゆがみの表現に挑戦すべきだと。オニキスが火を噴くくらい使うことを前提として、汚れ、ゆがみを求めて、九龍城砦にたどり着いたんです」
1994年4月、スタッフは香港に向かった。しかし、九龍城砦は既に取り壊されていた。
「現地コーディネーターの方の案内で重慶大厦を手始めに、九龍城的な路地裏などディープなところばかりを回りました。匂い、空気感を感じ、風景を組み合わせて、何とか形にしようとしました。いろいろなものをつなぎ合わせたんです」
九龍城砦は、不思議な魅力がある。無計画な建設で迷路のようになっており、無法地帯になっていた。廃虚のようにも見えるが、人が住んでおり、そこには生活があった。
「誰かが計画して作ったものではないからなんでしょうね。再開発したキレイな街はやっぱり魅力を感じない。路地裏におばちゃんがやっているうまい飯屋があるとか、そういう方が魅力的です。ビルとビルの間にビルを建てたり、自然発生的に生まれていて、構造計算を無視した感がある。それでも一応、街として成立していた。居場所を求めてやってきた人の濃密なコミュニティーがあり、治外法権的な場所だから魔窟と呼ばれておかしくない状況があったようです。廃虚と一緒にされることもあるけど、それとはまた違うんです。廃虚は人がいないのがいい。九龍城砦は人が密集している。それ自体が生き物みたいなんです」
「クーロンズ・ゲート」は、ゲーム畑ではない異業種のクリエーターが集まって制作された。そもそも木村さんはソニー・ミュージックコミュニケーションズ(現:ソニー・ミューックソリューションズ)でソニーの広報誌の編集などを手掛けるコピーライターだった。
「初期のPSはそれまでゲームに携わってこなかった人が業界に入ってきたので、変なゲームが結構ありましたよね。『クーロンズ・ゲート』にしてもテレビ業界や組み込み系のエンジニアなど、ゲーム業界以外の人間が集まっていました。何でも手探りだったし、手作りでした。仕様書もなくゴールも見えていなかった。香港取材から帰ってきたら、その鮮烈な体験で頭がパンパンになっているから、(CGデザイナーの)武富(聖)君がいきなりダンジョンを作り始めるし、僕もシナリオプロット出しより先に路人のせりふを書いてみたり、1カ月くらい打ち合わせをせずにそれぞれがやっていた。武富君が1週間、自転車のスポークを1本ずつ作っていたこともありました。自転車はドブに沈めるからそんなの見えないんですけど」
仕様書がなくても力業でゲームとしてまとめようとした。“まとめる”というのは間違いかもしれない。九龍城砦のようにまとまらず、カオスな体制、自由な発想でゲームを作り上げた。
「結果的にまとまるんですよ。合議制で作るとあまりいいものができない。僕が女性だと思ってシナリオを書いたキャラクターが男性としてデザインされてきたので、せりふを全部変えたり、四方が鏡張りの部屋に閉じ込められるシーンを作ろうとしたけど、当時の技術では難しかったから、そこで登場する人を鏡台みたいな箱をかぶったキャラクターにしたり……とほころびを利用しながら作っていました。ほころびの中に何かがあるんじゃないかな?と考えていた。ちゃんと打ち合わせをやったら、普通になっていて、つまらなくなったでしょうね。すれ違ったままだったのがよかったのかもしれない」
ゲームには、妄人(ワンニン)という住人たちが登場する。物に執着した人間が妄想によって、徐々に対象に近づき、最終的に物になってしまうという斬新な設定だ。扉男、鍵穴男、ボイラー男など奇妙な妄人が登場する。
「ゲームには鍵と扉の関係があります。扉があり、鍵を探して、扉を開けるとうれしい。ただ、鍵を探すのは作業感がある。よほど上手にゲームを作れば、作業感はなくなるけど、我々はそこまでの手練(てだれ)ではなかった。どうすれば面白くなるのか?を考えた。扉に顔があったら、扉が鍵にもなる。物がしゃべったら、話も進めやすい……と発想していきました。CGチームから『窓男って何ですか?』と聞かれても『窓男は窓男だよ!』としか言えなかった。仕様書もなかったんで」
約3年におよぶ制作期間を経て、「クーロンズ・ゲート」は1997年2月28日に発売された。大ヒットしたわけではないが、約20万本を売り上げた。
「ほとんどが特装版です。2万本が特装版で通常版が18万本くらいなのが普通ですが、『クーロンズ・ゲート』は特装版がほとんどで、通常版がレアなんです。当時のゲームとしては売れたわけではありません。人気作は100万本くらい売っていた時代だったので。ただ、『クーロンズ・ゲート』は銀座の山野楽器で500本くらい売れたと聞きました。なにしろオフコースやユーミンの新譜とかが売れる店でしたからね。当時のソニーのCMなどの戦略も大きかったのですが、サブカルチャーがメインストリームに躍り出てきた時代でした」
当時、バブル経済は崩壊していたが、ゲーム業界は“プレステバブル”で沸いていた。
「予算を使い尽くせばいい期間限定のような部署だったんです。ゲームリリース後、オニキスは産業廃棄物処分場で壊されました。残しておけば税金が掛かりますから。今だったらリースにして買わないですよね」
大ヒットとはいかなかったが、「クーロンズ・ゲート」は熱狂的なファンに支えられ、伝説として語り継がれていく。2015年には設定資料集が発売され、2016年に初のコンサートが開催された。2017年にはVR「クーロンズゲートVR suzaku」も発売。2022年10月29日にはLOFT9 Shibuya(東京都渋谷区)でイベント「超級路人祭」が開催され、木村さん、音楽を担当した蓜島邦明さん、声優の野中希さんらが登壇する。続編となる「クーロンズリゾーム」の制作も発表されており、今後の展開にも注目が集まる。最後に、木村さんに今後の展開について聞いた。
「今年度、25周年は、1周回って、2周目の始まりと位置づけています。総括というキーワードで、原点回帰をしていきたい。ユーザーの方にも“クーロンズ現象”に参加していただくために、設定をしっかりしていきたい。思念のネットワークの中でぐるぐる回り、温泉の湯の花のように結晶となったのが九龍城砦だったり、妄人だったりする。『クーロンズリゾーム』は思念のネットワークに目を付けて、そこを中心にノベルゲーム、動く設定資料みたいにして公開したい。設定、シナリオ、グラフィックはクリエイティブ・コモンズのようにして次の世代に受け継いでいきたいです」
※イベント「KOWLOON 25th ANNIV. 超級路人祭~クーロンズ・ゲート プロジェクト25周年記念イベント~」配信情報(敬称略)
配信時間:10月29日午後7~9時(予定)▽視聴チケット代:2000円出演▽出演者:蓜島邦明、野中希、木村央志、武富聖、浅野耕一郎ほか
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