すずめの戸締まり:新海誠監督の大きな挑戦 「ほしのこえ」から変わらないメッセージ

劇場版アニメ「すずめの戸締まり」のビジュアル(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
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劇場版アニメ「すずめの戸締まり」のビジュアル(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

 「君の名は。」(2016年)、「天気の子」(2019年)などで知られる新海誠監督の約3年ぶりとなる新作劇場版アニメ「すずめの戸締まり」。11月11日に公開され、新海監督の「最高傑作」との呼び声も高い。同作は、2011年の東日本大震災を描いていることでも注目を集めている。新海監督は「現実に起きた出来事を映画の中で直接的に扱うということは、大きな挑戦でした」と語る。

 ◇覚悟を決めて臨まなければいけない作品 現実に起きた出来事を描く

 「すずめの戸締まり」は、日本各地の廃虚を舞台に、災い(地震)のもととなる“扉”を閉めていく少女・岩戸鈴芽(いわと・すずめ)の解放と成長を描く冒険物語。九州の静かな町で暮らす17歳の少女・すずめが、災いを呼ぶ扉を閉めて鍵をかける“閉じ師”の青年・宗像草太と出会い、“戸締まりの旅”へ出ることになる。

 同作は、すずめと草太のバディーによる軽快なロードムービーではあるが、地震を呼ぶ扉を閉めることは危険を伴う使命として描かれる。そんな扉にすずめは果敢に立ち向かい、「死ぬのなんて怖くない」と口にすることもある。ストーリーが進むにつれ、すずめのたくましさの裏には、つらい体験をした過去があることが明かされていく。

 「すずめは、たくましいキャラクターにしたいと思いました。いろいろ抱えてはいるんですけど、物おじせずにどんどん世界を切り開いていって、僕自身も観客も見たことない景色の場所まで連れて行ってくれるような、前に走っていくキャラクターにしたいと。ただ同時に、すずめ自身に過去の経験の影のようなものは色濃く落ちている。それゆえにどんどん前に走っていってしまう。彼女の中で明るい面とほの暗い面が、分かりやすい形で外側に出ているのではなくて、複雑に絡み合っているというようなキャラクターにしたいと思いました」

 新海監督は、同作を「場所を悼む物語」と表現し、「人がいなくなった土地や場所、つまり廃虚を悼む、鎮めるという物語」を描こうとした。すずめたちは、さまざまな廃虚を訪れ、扉を閉める際に、その土地に住んでいた人々、訪れた人々のことを思い、土地を鎮め、災い(地震)を防ごうとする。その中で、2011年の東日本大震災が描かれる場面もある。

 「日本で現実に起きた出来事を映画の中で直接的に扱うというのは、僕自身や一緒に作ってきたチーム全体にとって大きな挑戦になりました。『これがどう伝わるんだろうか』と。生半可な気持ちでは作り始めてはいけない、覚悟を決めて臨まなければいけない作品でした。映画の規模としても大きいですし、アニメ制作という観点では、ロードムービーで舞台がどんどん移り変わっていくため、作り込む設定や描く物量もとにかく多い。約2年半かけて作りましたが、今までで一番疲弊した作品で、正直、走り切るので精いっぱいでした」

 作品作りへの覚悟、そして責任を持って臨んだ「すずめの戸締まり」。新海監督の商業デビュー作となった「ほしのこえ」(2002年)から20年、映画作りに対する意識にも大きな変化があった。

 「僕は、映画青年、映画少年のような人間ではなかったので、『映画ってこういうものなんだ』という哲学が自分の中にあったわけじゃないんです。見よう見まねで個人制作で『ほしのこえ』のようなアニメーションを作り始めたんですが、その当時は、アニメーションはもちろん好きだったんですけど『映画』というつもりではなくて。自分の作りたい映像を作るところから始めました。ただ、作り続けていくにつれて、段々スタッフや観客といった周りの人が増えて、自分の作品を映画として扱っていただけるようになっていった。そして映画興行になると、本当に多くの人が携わるんだということが、この10年ぐらいで身に染みて分かってきたんです。映画作りとは一つの大きい世界なんだなと。そうすると、責任のようなものも感じるようになってきたんです。『大きな船を作っているんだ』と」

 映画監督として「ここ10年ぐらいは、大きな船にみんなが乗って、遠くまで行けるような映画作りをしたい」と考えてきた新海監督は、「すずめの戸締まり」に対して「一番大きな船を、一番遠くまで行く船を、今回作れたんじゃないかと思っています」と思いを込める。

 ◇ずっと変わらない思い 「あなたはきっと大丈夫」

 「君の名は。」「天気の子」の大ヒットもあり、自身の作品に注目する観客が増える中で、新海監督は描きたいテーマにも変化があったと語る。しかし、アニメ作りで大切にしている「届けたいメッセージ」はずっと変わらないという。

 「僕はずっと『あなたはきっと大丈夫だよ』と言ってくれる作品を作りたいと思ってきました。もっと言えば、自分も誰かにそう言われたいとずっと思ってきたんです。『ほしのこえ』という作品や、『秒速5センチメートル』という作品を作った時も『きっと大丈夫』といったフレーズを登場させました。前作の『天気の子』でも帆高という主人公の少年が、とても大丈夫とは言えないような変わり果てた街を目の前にして『大丈夫』という言葉を言うわけですが、本気で必死に何かを作ったり、仕事をしていたり、何かと向き合おうとしていて、でも前が暗闇で見えない時にほしい言葉というのは、その言葉に尽きる気がしていて。根拠はないかもしれないけど『あなたは大丈夫だと思うよ』と言ってほしい。僕は、どうすれば観客に『そうかもしれない。大丈夫かもしれない』と思ってもらえるかをずっと試し続けてきているような気がするんです」

 「すずめの戸締まり」では、新海監督がこれまでの作品ではできなかった形で「あなたは大丈夫」というメッセージを伝えようとした。

 「これが一番誠実な『大丈夫』なんじゃないかと考えながら脚本を書いていったような気がします。それが映画を見た人に少しでも感じてもらえれば一番うれしいですね」

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