silent:「変わっても変わらないもの」を丁寧に描く キャラクターは当て書き 新人脚本家とベテランPに聞く裏側

連続ドラマ「silent」のポスタービジュアル(C)フジテレビ
1 / 1
連続ドラマ「silent」のポスタービジュアル(C)フジテレビ

 主人公が耳に難病を抱えた元恋人と再会し、現実と向き合いながら共に乗り越えていく姿を描く連続ドラマ「silent」(フジテレビ系、木曜午後10時)。心にしみるせりふの数々や、隅々まで考えられた設定など、丁寧に紡がれた物語が話題を呼んでいる本作だが、脚本を手がけるのは今作が脚本家デビューとなる新人の生方美久さん。プロデュースの村瀬健さんは、生方さんの脚本について「変わっても変わらないもの」がテーマになっているというと語る。企画の始まりからこだわりまで、2人に制作の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇多様性への疑問を物語に昇華 ろう者と聴者の“新たな”ラブストーリーに

 主人公は、高校時代に出会った恋人・佐倉想(目黒蓮さん)との別れを経験し、新たな人生を進む青羽紬(川口春奈さん)。ある日、偶然にも街中で想と再会するが、彼は「若年発症型両側性感音難聴」のために、ほとんど聴力を失っていた事実に直面する。

 「14才の母」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」などの話題作を手がけてきた村瀬さん。「多様性と声高に言われている世の中で、自分も含めて本当に向き合えているのだろうか、多様性と言われることについてどう思っているのだろうか、ということをずっと考えていました。それをエンターテインメントとして物語に昇華できないか、というのが企画の発端です」と語る。

 そこで、ろう者と聴者のラブストーリーを思いつき、生方さんに話を持ちかけた。提案を受けた生方さんは「耳が聞こえなくなった状態で出会って恋に落ちるという設定ではなく、もともと引かれ合っていた2人が、いざそういう状態で再会したときにどうなるのかを描きたいと思い、このような設定になりました」と明かした。

 ◇「重要なのは誰と誰の恋が見られるか」 川口春奈×目黒蓮だったワケ

 「連ドラのラブストーリーにおいて重要なのは、誰と誰の恋が見られるか」と話す村瀬さん。「飾らない言葉と等身大の自分をありのままに伝える姿勢で今最も女性の共感と支持を得ており、かつ、近年の出演作において圧倒的な“華”を感じさせている川口春奈さん。彼女が主人公(=ヒロイン)のラブストーリーを作りたい、と思いました」と話す。

 また、「その相手役に誰が来たら見たいと思うかな、と考えたとき、今最も波に乗っている『Snow Man』のメンバーであり、同時に、役者として明らかに“大器感”を感じさせ始めている目黒蓮さんの顔が浮かびました」と告白。村瀬さんが「一番見てみたいと思った」という2人を起用した。

 2人の印象については「何か一つだけを見て、というわけではない」と話したが、川口さんの「圧倒的な“華”」を特に感じたのは、昨年末の「NHK紅白歌合戦」で司会を務めた姿だったという。

 「あれだけのスターがそろう中でも、周囲に負けないキラキラとした華を感じてすごいなと思いました。大河ドラマ『麒麟がくる』で帰蝶役を務めることになって、そこから紅白の司会にも抜てきされたストーリーや、フジテレビのドラマにおいても女優デビュー作からやってきて、階段を上ってきた先の今、まとっているオーラを強く感じました」

 一方、目黒さんについては「Snow Manがガッと人気になっていく中で、彼には不思議な空気を感じました。『教場』での武骨なかっこよさだったり、冗舌ではなく素朴な感じだったり、お芝居をしたときの雰囲気から、これまでのジャニーズにはあまりいなかったタイプかもしれないと。とにかくこの人でラブストーリーをやりたいと思いました」と告白。2人のイメージからキャラクターを当て書きし、物語を作り込んでいった。

 ◇「変わらない部分を描きたい」 新人・生方美久の“脚本力”

 ドラマの放送が発表されると、瞬く間に話題となり、公式SNSのフォロワーは放送前にもかかわらず20万人を突破。今では50万人を超えている。数々のドラマを手がけてきた村瀬さんにとっても放送前からの盛り上がりは異例だったといい、「川口さん、目黒さんはもちろん、共演者への期待の高さも感じました。そして何よりも、こういった川口さん、目黒さんの姿を皆さんが見たいと思っていたんだなと。皆さんの期待に応えられるドラマにできるよう、ますます身が引き締まりました」と明かす。

 そして初回放送後には、視聴者の心を揺さぶるせりふの数々や、劇中に登場する楽曲と人物の関係性のリンクなど、隅々まで考えられた脚本にも注目が集まった。村瀬さんは、生方さんの脚本について「リアリティーのあるせりふで、スッと心に入ってくる。いわゆる“せりふっぽいせりふ”ではなくて、何でもない日常の言葉を使ったせりふがものすごく心にしみるんです。キャストも皆さん、良い本だ、せりふが素晴らしいと口をそろえて言ってくれています」と絶賛する。

 「2人で話し合ってきた中ですごくいいなと思ったのが、変わっても変わらないものというか、変わってしまったことではなくて、変わらない部分を描きたいと生方さんが言っていて。その部分はこの作品のテーマの一つだと思っています。台本を読んで、そういったメッセージ性をキャストの皆さんも感じとってくださっています」

 さらに、「僕はいつも、展開ありきではなく登場人物の気持ちを優先してその上でどう動くかを考えて物語を作ることを意識しているんですけど、生方さんの脚本はまさにそう。物語を展開する上で登場人物をこう見せたいというのではなく、この人物だったらこう思って、こう動くんじゃないか、という視点で進んでいく。そうして作ったストーリーがシンプルにとても面白く、連続ドラマの醍醐味(だいごみ)でもある『この先どうなっていくんだろう』と興味を持たせるものでもあるんですよね」と村瀬さん。「生方さんの書く力には驚かされています。新人でありながらまるでベテランのような筆力を感じるときも多々ありますし、それでいて新人らしいみずみずしさもあって、それが生方さんの強さであり才能であると思っています」と太鼓判を押した。

 ◇「リアルだけど美しい」世界観を追求 スタッフィングにもこだわり

 今作では繊細な物語だけでなく、見た目の美しさも意識した。ティザーの段階からしっかりと作り込み、村瀬さんは「解禁時のティザーカットも、やはりファーストルックが大事だと思ったので、こういうドラマなんだとしっかり伝わるものにしようとこだわりました。紬と想がどういう雰囲気なのかを、画の美しさを含めて見せたいなと。あの一枚にはすごく気合を入れました」と話す。

 「ティザー映像も同じで、初めて動く紬と想を見せるわけじゃないですか。どんな表情をして、どんな動きをするのかを重視しました。まずはこのドラマの世界観を伝えたいと思い、あえて本編を担当する風間(太樹)監督ではなく、CMディレクターの太田良監督にお願いして、ドラマ本編の監督とはまた違った目線で見たイメージで作っていただきました。映像内に出てくるモノローグの言葉は生方さんが考えてくださったもので、本当に優しい2人の姿を表現することができたと思っています」

 本編では美しい映像を撮影するため、カメラマン、撮影監督、照明などいわゆる“ドラマ畑”ではないスタッフを集めた。「リアルだけど美しい、ラブストーリーの世界を描きたいと、スタッフィングを意識して、結果的に素晴らしいスタッフの方々にお集まりいただきました。普段はCMに携わっている方も多く、その出来栄えにはキャストもモニターを見ながら喜んでくれています。ぜひ注目していただきたいポイントの一つです」

 実際に放送を通じて、視聴者からは「細かい描写が丁寧で切なさとつらさ倍増する」「毎話映像が奇麗すぎて何回も見たくなる」といった声が上がっており、制作陣のこだわりがしっかりと届いている。新人脚本家とベテランPが二人三脚で紡ぎ上げた繊細な物語をじっくりと味わいながら、紬と想の行方を最後まで見届けたい。

テレビ 最新記事