「信頼や尊敬という感情はその人への思いが強ければ強いほど、裏切られたと思ったとき、負の感情に大きく振れると思う」。映画「レジェンド&バタフライ」で、日本一有名な逆臣といえる明智光秀を演じた宮沢氷魚さんは語る。「信長への愛情を誰よりも持っていた人物」として光秀を演じたという宮沢さんに今作について、初共演となった主演の木村拓哉さんとの撮影の思い出と共に話を聞いた。
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「レジェンド&バタフライ」は、木村さん主演で制作された東映創立70周年記念映画。“最悪の出会い”から始まった信長(木村さん)と濃姫(綾瀬はるかさん)が次第に心を通わせ、天下統一へ突き進む夫婦の愛の物語。連続ドラマ「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」(共にフジテレビ系)や、現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」(総合、日曜午後8時ほか)で知られる脚本家・古沢良太さんと、映画「るろうに剣心」シリーズなどの大友啓史監督のタッグで手掛けた。
東映が総製作費約20億円をかけた大作。オファーを受けた際の心境について、宮沢さんは「まずは不安や驚きでいっぱいでした。主演を張るレベルの方たちがそろった作品に僕が出演できる上、初挑戦の時代劇で明智光秀という高名な人物を演じさせていただくことに、喜びもありつつ、不安や驚きが勝っていました。でも『このチャンスは逃したくない』と思って、すぐにぜひやらせていただきたいとお返事しました」と回顧する。
光秀は通説、信長よりも年上だったとされる。近年のNHK大河ドラマでも光秀役は、信長役よりも年上の俳優が選ばれる傾向だが、今作は逆で、宮沢さんは木村さんの22歳年下。この話に触れると「その心配はなかった」ときっぱり。「この作品においては、信長と濃姫を中心に彼らが“どういう思いで生きていたのか”ということが大切。年齢という縛りを覆すことが許される作品なのかなと思いました」と話す。
今作の光秀については「ミステリアスでとにかく頭が良くて、信長への愛情を誰よりも持っていた人物」と説明する。「史実でも謎が多い人物なので、演じる上で一番意識したことは彼のミステリアスさ。そこまで登場シーンがあるわけではなかったので、『比叡山の焼き討ち』の際の狂気の表情だったり、少ない登場シーンでインパクトを残すところも意識しました」と振り返る。
そして、信長への思い。「魔王たる信長の姿にほれこんで、信長への愛情は人一倍」といい、「人間信長のパートナーが濃姫だとしたら、魔王信長のパートナーは光秀」と見えるように演じたという。だが、その信長=魔王という光秀の強すぎる思いが、ある出来事によって打ち砕かれ、本能寺の変を起こす動機となる。宮沢さんは「信頼、尊敬していた人物に裏切られ、今度は自分が裏切る。それほど光秀が信長に思っていた感情はとてつもないものだったと思います」と今作の光秀を読み解いた。「彼の中の理想の信長像が全部崩れて失望するシーンがあるのですが、そのぐちゃっとした感情を、観客の皆様にも伝わっていればうれしいです」と語った。
「実は……」と作品に入りきらなかったシーンがあったと明かす宮沢さん。「光秀が濃姫に『邪魔をしないでくれ』とクギを刺すシーンがあったんです。光秀は濃姫に嫉妬していたと思っていて、彼はきっと人間信長のパートナーにもなりたかったのかな」と述べた。
主演の木村さんとは初共演。「小さい頃からテレビで見ていたスター。初めてお会いしたときからずっと夢見心地で、その感覚は撮影が終わるまでずっと慣れませんでした」と感慨深げに語った。
撮影現場で感じたのは「圧倒的存在感」。「木村さんが現場に入ると、信長に入りこんでいるのもあってかすごい威圧感で、近寄れない雰囲気でした。スタッフ含めてみんなピリッとするんです。でも今思い返すと、剣や槍(やり)を用いたり、重要文化財で撮影したりと、緊張の糸が切れると危ない現場だったので、座長としてみんなの緊張感を保ってくださっていたのかなと思います」と追懐する。
ただ撮影の裏では「すごく気さくで優しくて」とほほ笑む。「共演シーンが多かったので、よくお話しさせていただきました。それも木村さんの方から話かけていただいて! 『楽器やってんの?』『どんな学校行ってたの?』とかプライベートを聞いてくださったり、おすすめの整体師さんを教えてくださったり。プロデューサーを交えて3人でご飯にも行かせていただきました。いろいろな肉料理を食べられる京都の老舗で……すごくおいしかったです(笑い)」と楽しげに語った。
「今でも現実だったのか夢か区別できない」と、木村さんと過ごした時間は夢見心地だったという宮沢さん。ただ木村さんの“座長”の姿は目に焼き付いている。「なんだろう……木村さんのためなら不思議と自分の持てる力を全て出し切ろうという思いが出てくるんです」。その言葉の端々から、木村さんへの畏敬(いけい)の念がうかがえた。
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