僕とロボコ:全員善人の令和ギャグ 倍速できないスピード感 “ギャグアニメの名手”大地丙太郎監督に聞く

「僕とロボコ」を手掛ける大地丙太郎監督
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「僕とロボコ」を手掛ける大地丙太郎監督

 「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の宮崎周平さんの人気ギャグマンガが原作のテレビアニメ「僕とロボコ」が、テレビ東京系で毎週日曜深夜0時半に放送されている。本編は約3分のショートアニメで、アニメ「おじゃる丸」「セクシーコマンド 外伝 すごいよ!!マサルさん」などで知られる大地丙太郎(だいち・あきたろう)さんが監督を務める。“ギャグアニメの名手”とも呼ばれる大地監督は、「僕とロボコ」について「令和のギャグ」と語る。大地監督に「僕とロボコ」の制作の裏側を聞いた。

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 ◇誰かを傷つけないギャグ

 「僕とロボコ」は、2020年7月に「週刊少年ジャンプ」で連載をスタート。美少女メイドロボットが一家に1台普及した20XX年を舞台に、行動が規格外のメイドロボ・ロボコと、心優しい少年・ボンドの日常がコミカルに描かれている。

 大地監督は原作を読み、「善人ばかり」であることが「僕とロボコ」のキモになると読み取った。

 「原作を読む前に、テレビでケンコバさん(お笑い芸人のケンドーコバヤシさん)のプレゼンを聞いていたんです。すごく印象に残っていたので、それありきで読んで、ものすごく入りやすかった。キャラクターを見て、何かに似てませんか? そう、僕もスターティングメンバーだったアニメです。でも、違うんです。みんなめちゃくちゃいいやつなんです。ガチゴリラ、モツオ……善人ばかりなんです。そこがキモです」

 主人公の少年の同級生として、ガキ大将っぽく見えるガチゴリラ、金持ちでイヤミっぽく見えるモツオが出てくるのは、どこかで見たことがあるような気がするが、「僕とロボコ」はステレオタイプにはハマらない。ガチゴリラ、モツオはすごく優しい。

 「これまであったギャグマンガとキャラクターの位置関係は似ているように見えるけど、中身が違います。それが『僕とロボコ』の世界なんですね。いじめっ子がいて、弱い子がいて、それを助けるお友達のロボットやキャラクターがいるというのは、日常系ギャグマンガの王道として昭和からずっと続いてきました。それだと、必ず誰かが傷つくんですよね。でも、『僕とロボコ』は、そのパターンを破っている。かなり新しいです。これが令和のギャグなんです。戦うこともあるけど、敵もすごくへっぽこですし。誰かを傷つけないというのは、最近のお笑いもそうかもしれませんね」

 善人だらけでも、ギャグとして成立している。

 「善人だらけというのは、ハードルが高いと思います。僕は26年間、『おじゃる丸』をやってきて、あの作品も善人ばかりなので、その辺りの受け入れ態勢はできています。ただ、『僕とロボコ』は、また全然違う。強烈です。押し出しが強くて、演出が『おじゃる丸』とは正反対です。『おじゃる丸』は、気持ちを押しつけないけど、『僕とロボコ』は押さないと面白くない。ガンガンいきます」

 アニメは、スピード感を感じる映像となっている。ガンガン押してくる。約3分という尺にギャグが詰め込まれている。

 「大変です。日夜戦っています。『ギャグマンガ日和』をやった時、あれは4分尺で、もうダメだ……と思ったけど、さらに上ですね。3分でストーリーを成立させなくてはいけないから、1秒、2秒のせりふを入れるのか?とせめぎ合いをやっています。休む暇がない映像です。見ながらSNSに投稿できない作品です。倍速では見られないですね(笑い)。最初から倍速ですから。そこも今風ですね」

 ◇ギャグアニメはバリアフリー

 取材の前に大地監督が制作のために用意したVコンテを見せてもらった。絵コンテを撮影したもので、大地監督が全てのキャラクターを演じた声が入っている。

 「ショートアニメは大体やっています。結構楽しいんですね。3分に入るのか?と試したり、スピード感を確認したりしています。第1話でこれをやらないと3分の感覚が分からない。第1話は6回くらい作り直しました。相当削らないといけないけど、第1話は入れないといけないものもある。大変でした。その後は少し楽になりました。やっているうちに、置いていってもいい部分があることに気付きました。尺のある時は、反復して丁寧にするんですけど、3分ですから、何となく面白くやっていることが分かればいい。ボンドのツッコミのタイミングさえうまくできれば、大体笑えるし、ラストのオチがしっかりしていれば、空気で笑っちゃうはずです」

 大地監督は、子供も大人も楽しめるギャグアニメを世に送り出してきた。「僕とロボコ」も世代を問わず楽しめるアニメになっている。「幅広い世代に楽しんでいただくために考えていることは?」と聞いてみると「全く。あんまり考えたことがないです」と話す。

 「バリアフリーです(笑い)。子供に喜んでいただけるなら、お年寄りだって楽しめるはず。垣根はないと思うんです。『ギャグマンガ日和』にしても海外で見ていただいています。日本語で見て、何で分かるの!?とも思うけど、多少の意味が分からなくても、画(え)、表情の面白さがあり、声、音楽、SEが付いたら面白いことは分かる。テンポも重要ですが」

 ◇チョコプラ松尾出演の決め手

 お笑いコンビ「チョコレートプラネット」の松尾駿さんがロボコを演じていることも話題になっている。

 「松尾さんのお名前が出てから、何とかやっていただけないかな?と思っていました。テレビで引っ張りだこですし、お忙しい方だから難しいかな?とも思ったのですが、OKをいただき、よかったです。松尾さんだ!と思ったのは、インスピレーションですね。最初は、女性の声優にしようともしていたんです。原作者の先生から『男性、お笑い』というキーワードが出てきて、それはないでしょう……と思ってもいました。ただ、松尾さんを改めて見たら、松尾さんしかいない!と考えが変わりました。一番は、チャーミングなところですよ。狙ってる感じがない人がいい。期待通りでした。オーディションに来ていただいた時、音響監督が『すみません。IKKOさんでやってもらえません?』とお願いしたことがあって、松尾さんがやると完全にロボコになっていたんです。そこも決め手になりました」

 水瀬いのりさんが、ロボコがパワーを使いすぎて弱体化した蚊トンボ膝ロボコを演じたことも話題になっている。

 「最初は、弱体化したロボコも松尾さんで!と思ったのですけど、出来上がった映像が可愛かった。これは松尾さんじゃないな……となり、変えました。水瀬さんがしっくりきたんです。ギャップがすごすぎておかしいですしね」

 ボンド役の津田美波さん、ガチゴリラ役の置鮎龍太郎さん、モツオ役の武内駿輔さんら豪華声優が集結した。置鮎さん、武内さんが小学生男子を演じるというのも新鮮だ。

 「僕もびっくりしました。まさかこういう結果になるとは(笑い)。置鮎さんに『お前のモノはオレのモノ』『オレのモノはお前のモノ』と言っていただいた時、説得力がすごかったんです。ほかの方は考えられない。そこが決め手になりました。優しさもありますしね。モツオもバックボーンまで考えると、武内さんしかいない! それにボンドは要です。ツッコミがしっかりできないといけない。ツッコミは難しいんです。そこもうまくハマりました」

 アニメは2クールで放送されることが発表されており、まだまだ続く。大地監督は「あと30秒あれば……と思うこともありますが、制作する中で、積み重なってきたものはあるので、少しは楽になっています。ただ、カロリーが高いですよ。息を抜いてる暇はありません。駆け抜けていければ」と話しており、高カロリーな映像で楽しませてくれそうだ。

 「Rakuten TV」では2月14日午後8時からアニメの第1~10話の全話を連続でオンライン上映する。各配信サイトで同日から1週間限定で第1~10話を無料配信する。

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