新潟国際アニメーション映画祭:ポテンシャル感じた初開催 評価したい異例の取り組みと課題

開催前には予想もできなかったほどの熱量をみせましたが、初開催ならではの課題も見えました
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開催前には予想もできなかったほどの熱量をみせましたが、初開催ならではの課題も見えました

 新潟市で3月に開催された長編商業アニメの映画祭「新潟国際アニメーション映画祭」。初開催ながらアニメ業界のビッグネームが名を連ねるイベントとして話題を呼んだ。実際に映画祭にも参加したアニメコラムニストの小新井涼さんが魅力と課題を語る。

ウナギノボリ

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 先月初開催された、アジア最大の長編アニメーション映画祭とされる「新潟国際アニメーション映画祭」をご存じでしょうか。

 世界中の長編アニメーションから、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」といったお馴染みの作品までが上映されたこの映画祭。大友克洋氏や押井守氏といった業界関係者が大勢参加したことも話題になっていたため、開催中に報道を目にした人も少なくないかもしれません。

 しかし中には、そもそもこの映画祭はどんな内容で、どこがすごくて、何故新潟で開催されたのか、いまいち分からなかったという人もいると思います。新潟国際アニメーション映画祭とは、一体何だったのでしょうか。

 新潟国際アニメーション映画祭は、後述する“アニメーション文化と産業を統合するハブとなる”こと等を目標に、3月17~22日の6日間、新潟市中心部で開催されました。

 実は新潟県は、東映動画(現・東映アニメーション)を立ち上げた大川博氏や、日本初のフルカラー短編アニメーションを手掛けた蕗谷虹児氏といった、日本アニメーション史における重要人物の出身地でもあります。加えて「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」をはじめとするイベントや、積極的な人材育成を行ってきた地域として、当映画祭が開催されたとのことです。

 会期中は、主に市内中心部8箇所の会場で連日朝から晩まで上映やイベントが行われ、移動中もそれぞれの会場を結ぶアーケード等でポスターが目に入る等、まるで町全体がイベント会場となっているような雰囲気でした。

 そんな当イベントの特徴としては、国際映画祭“ならでは”の企画と、アニメーション映画祭“としては異例”の取り組みという二つの側面が挙げられます。

 国際映画祭ならではの企画は、映画祭の目玉ともなる長編コンペティション部門の存在です。長編コンペは、世界各国からエントリー、選出された作品を映画祭内で上映し、グランプリ・監督賞・脚本賞・美術賞・音楽賞が決められるというものでした。

 しかし審査員の押井守氏も開会式から言及していた通り、今回長編コンペに並んだのは、絵柄もスタイルも全く異なる10作品です。そのため、これだけ多様な表現の作品たちを並べて通常の評価は成立するのかと協議された結果、当初予定していた各賞が、グランプリ他、境界賞・奨励賞・傾奇賞に変更され、それがなんと授賞式当日に発表されるという一幕もありました。

 かなり珍しい出来事ですが、今後の基準ともなっていく初回に、並列しての評価が難しいアニメーションの新たな審査基準が設けられたことは、かなり画期的でもあります。

 加えてこの長編コンペでは、会場で上映されたコンペ作品の五つ星評価を毎日発表していく、カンヌ等の国際映画祭でもお馴染みの星取表が実施され、筆者自身も参加させてもらっていました。参加させてもらった身で手前味噌ながら、上映中の作品の寸評が連日リアルタイムで発表されていく様子は、映画祭開催期間中の“お祭り感”をより一層高めるものでもあったように思います。

 アニメーション映画祭としては異例の取り組みは、前述の“アニメーション文化と産業を統合するハブとなる”という目標にある通り、普段は乖離(かいり)しがちな、いわゆるアート系とされる作品と商業的な作品を垣根なく扱おうとした点です。

 実際に当映画祭は、普段ミニシアター等でしかなかなか鑑賞できないアート系等とも呼ばれるアニメーションから、劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編や「劇場版 呪術廻戦 0」といった作品までが並行して上映される珍しいラインアップとなっていました。アニメーション映画祭では短編作品が中心とされがちな中、これまた珍しく40分以上の長編に特化した当映画祭だからこそ、実施できた試みでもあったのでしょう。

 これだけ意欲的な試みもあり、開催前には予想もできなかったほどの熱量をみせた当映画祭ですが、一方で、初開催ならではの課題も見えました。

 特に個人的にもったいないと思ったのは、上記に挙げた企画や取り組みをはじめとする、当映画祭の“異例さやすごさ”が、アニメにあまりなじみのない層にはイマイチ伝わりにくかったところです。

 実際に、映画祭の上映ラインアップや、東京でも一堂に会することのないゲストの豪華さを、参加していない人にいくら伝えようとも、直接体験しないことには、たとえるなら“他人が見た夢のすごさを熱弁されるような”ピンとこなさがあると思います。だからといって直接参加しようにも、どれだけ素晴らしくても知らない長編映画をいきなり鑑賞するハードルは高く、よほど熱心に情報を集めない限り、プログラムを調べ、チケットを取り、新潟に足を運ぶことも容易ではありません。

 しかしそこはまだ初回ということで、今後回数を重ねていくうちに、参加へのハードルを超えるほどの魅力も徐々に認知されていくことと思います。そうした中で、いつか当映画祭が目指すアヌシー・オタワ等に並ぶ世界的なアニメーション映画祭としてもきっと定着していくのだろうと、そんなポテンシャルも強く感じられる初回開催でした。

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