ジャンプ:異色の学習マンガ誌「勉タメジャンプ」誕生の裏側 “ジャンプらしさ”にこだわり

「勉タメジャンプ」の担当編集の本田佑行さん
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「勉タメジャンプ」の担当編集の本田佑行さん

 マンガ誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)の編集部が“本気で作った”小学生向けの学習マンガ誌の第1号となる「勉タメジャンプ 2023 SPRING」が4月1日に発売され、話題になっている。誌名の「勉タメ」とは、勉強とエンターテインメントを組み合わせた造語で、マンガを通じて、人体、ピラミッド、英語、YouTubeなどさまざまな分野の知識を小学生から大人まで、老若男女を問わず楽しく学ぶことができる雑誌を目指した。歴史、科学などさまざまな分野の学習マンガは存在するが、学習マンガ誌は異色だ。「週刊少年ジャンプ」の副編集長で「勉タメジャンプ」の担当編集の本田佑行さんに誕生の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇作り方はジャンプと同じ

 学習マンガの歴史は古く、「科学漫画サバイバル」(朝日新聞出版)シリーズのヒットも記憶に新しいように、学習マンガはいつの時代も子供を魅了し続けている。一方、少子化の影響もあり、学習誌が縮小傾向にあるなど、子供向けの雑誌が増えているわけではない。なぜ、この時代にあえて学習マンガ誌を作ることになったのだろうか?

 「僕にも子供がいるのですが、子供に学習マンガを読んでもらおうと、書店にいったら、学習マンガがたくさんあって、どれもすてきなのですが、どれを選べばいいのか分からなかったんです。雑誌があれば……と思ったのですが、見当たりませんでした。学習誌が縮小傾向にある中で、なかなか新しい雑誌を作るのは難しいかもしれませんが、需要はあるはずです。その需要を掘り起こせると思ったのが『勉タメジャンプ』を作るきっかけになりました。ジャンプ編集部のノウハウは、学習マンガにも生かせるはずです。ワクワクを詰めこんだ雑誌を作ろうとしました」

 本田さんは、「週刊少年ジャンプ」で連載され、アニメ化もされた人気マンガ「Dr.STONE」の初代担当編集を務めた。同作は、文明が滅んだ世界を舞台に、主人公の科学少年・石神千空が科学を駆使して、ゼロから文明を築こうとする。同作をきっかけに科学に興味を持った子供も多いという。「Dr.STONE」が、「勉タメジャンプ」誕生の一つのきっかけにもなったという。

 「複合的な要素がありますが、『DrSTONE』は大きなきっかけの一つでした。学び、知らないことを知ることをエンタメの中心にした作品が、これほど面白いのか!と勉強させていただきました。編集者として、監修の先生と一体になって作品を作る中で、新しい学習マンガを作ることができるかもしれない……とも感じていました」

 「Dr.STONE」は、学習マンガではない。ただ、「勉タメジャンプ」は「Dr.STONE」のようなジャンプ作品のノウハウを生かそうとした。

 「小学生のファンもすごく多い作品です。科学が面白く、格好よく見える。ジャンプ作品として、キャラクターを中心に、物語を展開していきます。科学ではなく、科学を自由自在に駆使するキャラクターの格好よさが中心になっていて、そこがブレていません。僕たちができる学習マンガを考えた時、キャラクターマンガであることをブレないようにしようとしました。ジャンプ作品と同じ作り方を意識しています」

 小学生男児に絶大な人気を誇るマンガ誌として「コロコロコミック」(小学館)がある。1977年の創刊から40年以上にわたって男児向けマンガ誌の帝王として君臨し続けている。「コロコロ」は、学習マンガ誌ではないが、「勉タメジャンプ」と同じく小学生をメインターゲットとしていることもあり、参考にしたところもあったのだろうか?

 「コロコロさんのギャグや子供の心をくすぐるものは秘伝のたれのようなもので、到底まねできませんし、無理です。でも、得意なことで勝負しないとやる意味がないので、ジャンプらしさを改めて考えました。新しいことを始める時、やりたいことがたくさん思い浮かびますが、自分たちが一番得意なことをやった方がいい。まねをしても、それはまねにしかなりませんから」

 こだわったのは“ジャンプらしさ”だ。本田さんは「キャラクターの魅力」が“ジャンプらしさ”であると考えている。

 「キャラクターの活躍が、読者の方の心地よさにつながっている部分が一番です。キャラクターが強いからこそ、アニメや舞台、実写などにもなるのかもしれません。学習マンガでもキャラクターマンガのマインドを大切にしようとしました」

 ◇普遍的な題材と新しい題材

 学習マンガは、楽しく学べることが魅力だ。楽しいだけではなく、勉強だけでもない。

 「この雑誌が目指す学習マンガの形、学習とは何だろうか?を考える中で、子供の知的好奇心を刺激することを大切にしようとしました。明日の勉強、明日の試験に役に立つようなものじゃないかもしれませんが、面白そう!とワクワクできることを中心にしたかった。雑誌が雑多な面白さの器になりうると思ったんです」

 「Dr.STONE」の作画を担当するBoichiさん、「べるぜバブ」の田村隆平さん、「ハイキュー!!」の古舘春一さん、「ぼくたちは勉強ができない」の筒井大志さんら人気マンガ家が集まった。描く題材は編集部が提示したわけではない。それぞれのマンガ家と一緒に考えた。

 「先生が面白いと思ったもの、ワクワクしたものを描いていただかないと、読者の方にも伝わりません。ジャンプと同じ作り方です。子供たちには一番面白いマンガを読んでもらいたかったんです。今回、描いていただいた先生以外にも、今後参加したいというお話をいただいています。皆さん、楽しんで描いていただきました」

 第1号で取り上げた題材は、人体、ピラミッド、英語、料理、仕事、YouTubeと多岐にわたる。

 「今の子供にとってYouTubeは切っても切り離せないものですし、そこを外すのは、学習マンガとして違うんじゃないかと思います。YouTubeの面白さ、難しさもしっかり伝え、マンガとして面白く見せようとしました。今の子供を見ていても、変わらず人体やピラミッドに興味を持つだろうし、普遍的な題材と新しい題材を織りまぜていきました」

 子供の頃、学習誌の付録にワクワクした人も多いはず。意外にも「勉タメジャンプ」第1号の付録はしおりだけでシンプルだ。

 「第1号はベーシックに作りましたが、第2号以降は発展させて、大きめの付録を付けるなど切り口を変える予定です。第1号にしおり以外の付録を付けることも考えたのですが、まずはシンプルにマンガを読んでいただきたかったので、付けませんでした。第2号以降は、大きめの付録を付ける予定ではありますが、付録を題材としたマンガがあったり、マンガで付録をナビゲートしたりして、マンガ、キャラクターが中心であることをブレないようにするつもりです」

 次号は7月下旬の発売を予定している。テーマは夏らしく「自由研究」だ。

 「さまざまな自由研究を紹介するのではなく、自由研究の楽しさ、考え方を学習できるような内容を目指しています。雑誌は、自分が興味のある分野以外を知るきっかけにもなりますし、玉手箱みたいに楽しめるのがいいところです。編集部がキュレーションして面白いものをお届けしていければと思っておりますので、ぜひ読んでください」

 “ジャンプらしさ”にこだわる本田さんの言葉にはブレがない。今後も既存の学習マンガとは異なる発想で、子供たちをワクワクさせていくことに期待したい。

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