PSYCHO-PASS サイコパス：一筋縄ではいかない　常守朱と狡噛慎也の魅力　脚本・深見真に聞く

　人気アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」のシリーズ最新作となる「劇場版PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」（塩谷直義監督）が、5月12日に公開された。常守朱、狡噛慎也が大事件に立ち向かう姿が描かれる。2012年に放送されたテレビアニメ第1期から同作の脚本を手がけてきた深見真さんは、朱と狡噛の関係性を「一筋縄ではいかない」「一言では言い表せない」と語る。2人の魅力、制作秘話を聞いた。

ウナギノボリ

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　◇ぶれない朱　人生を見つめ直した狡噛

　「PSYCHO-PASS サイコパス」は、巨大監視ネットワーク・シビュラシステムにより人の心理状態などを数値化し、管理できるようになった近未来の高度情報化社会を舞台に、厚生省公安局の刑事の活躍を描くSFアニメ。完璧に見える社会が持つ矛盾が描かれた。「PROVIDENCE」は、2019年公開の劇場版3部作の「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐（おんしゅう）の彼方に＿」と、同年放送されたテレビアニメ第3期の間のストーリーが描かれる。公安局統括監視官となった常守朱が、外国船舶で起きた事件をきっかけに、かつて公安局から逃亡した狡噛慎也と再会する。狡噛は、海外を放浪した後、外務省海外調整局行動課の特別捜査官となっていた。朱と狡噛は、日本政府、ひいてはシビュラシステムをも揺るがす大事件に立ち向かうことになる。

　テレビアニメ第1期では、朱と狡噛は厚生省公安局刑事課一係の監視官と執行官という上司と部下の関係だった。その後、朱はシビュラシステムの秘密を知り、狡噛は復讐（ふくしゅう）を果たし海外へ逃亡。互いに異なる道を歩み、「PROVIDENCE」で再会することになる。深見さんは、2人をそれぞれどのように捉え、脚本作りを進めたのだろうか。

　「『PROVIDENCE』のプロットを組み立てたのは塩谷監督とシリーズ構成の冲方丁さんなので、大きい部分は2人の頭の中にあると思うのですが、自分が書く時に思っていたのは、やはり朱は本質的には第1期の時からぶれていないということ。ただ、『うまくやらなきゃいけない』という意識が強くなっていると思うんです。朱が対峙（たいじ）するシビュラは巨大なシステムですし、その中でどんな行動をとっていくか、ちゃんと見極めていかなきゃいけないと。自分の力の限界も理解して、『これなら自分でも変えられる』と思ったところを、ではどう変えていくか？と。それこそ賢くやらなければいけないし、世の中は『正しいから勝てる』というわけでもない。朱の中では、そうした思いがシリーズが進むにつれて強くなっていると思います」

　そんな朱に対して、狡噛は「第1期の時より視野が広くなっている」と話す。

　「狡噛は、世の中を変えるとかそういうことよりも、自分のせいでどうしても傷つく人間が出てきてしまうことへの反省がある。また、『もっと自分にできることがあるかもしれない』と。狡噛は第1期の時から『自分のやりたいことを曲げると自分ではなくなってしまう』という思いが強くて、それゆえに宿敵の槙島聖護を撃って逃げてしまった。その結果、狡噛の行く先で傷つく人間が出てきて、結局、逃げ切れないというか。そんな中で、海外での経験を経て自分の人生を見つめ直すようになってきました」

　◇恋愛関係ではないが絆がある　複雑だからこそ魅力的

　深見さんは、朱と狡噛の会話は「いつでも書き出せる」といい、「2人の関係が変化していても、やっぱり書きやすいんですよね。やはり相性のいい2人だと思いますし、2人のシーンを書いている時は、ちょっと第1期に戻ったような安心感もあるんです」と語る。

　書きなれた2人とはいえ、「恋愛関係じゃないけど、絆があるという描写は難しい」と語る。

　「そこは意識して、すごく気をつけて書きました。朱と狡噛を恋人同士のように描いてしまうと、それはもう全然違う。でも、絆がないと言ったら嘘（うそ）になる。そこのバランスは、すごく注意して書かなければいけないというのがありました。パートナーだけど上司と部下で、本来なら朱のほうが立場は上なのだけど、朱としては狡噛に教えてほしいことがまだまだたくさんあるという。だからすごく複雑で、一言で言えないところが2人の魅力なのではないでしょうか。一筋縄ではいかない関係性なんですよね」

　朱と狡噛は、危うさはあるが、ずっと見ていたいと思うような不思議な魅力がある。最新作「PROVIDENCE」では、2人がどのような言葉を交わし、どんな選択をするのか、注目したい。