荒木飛呂彦さん作、シリーズ累計発行部数1億2千万部超の人気マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」(集英社)シリーズ。そのスピンオフを実写映画化した、高橋一生さん主演の映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」(渡辺一貴監督)が5月26日に公開された。脚本を手掛けたのは、2012年から「ジョジョ」のアニメシリーズを執筆してきた小林靖子さん。10年以上「ジョジョ」と歩んできた小林さんに、映画制作の裏側や「ジョジョ」シリーズへの思いを聞いた。
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映画の原作は、荒木さんがルーブル美術館による「バンド・デシネプロジェクト」(2009年)のために描き下ろした読み切り作品。「ジョジョ」に登場する人気マンガ家の岸辺露伴が、ルーブル美術館を舞台に「この世で最も黒く、邪悪な絵」の謎を追う。
「スピンオフではありますが、紛れもなくジョジョの雰囲気を持った荒木先生の世界観だと思いました」と語る小林さん。今作では、露伴の青年期を描いている。「露伴が結構純粋な若者だったのが意外でした。現在の露伴とは違った感じがしました」と笑う。
今回、123ページの原作を、約2時間の映画に落とし込んだ。「どうしても尺を増やさなければいけなかったのですが、その部分は荒木さんからリクエストがあったんです」と明かす。
「今回は露伴が生まれるはるか昔の話も大きく関わるのですが、終盤に描かれる過去の話を膨らませてほしい、という要望でした。原作だと、おそらくページの都合で数コマしか描かれていない場面ですが、過去がキーになっている物語なので、確かにその部分を膨らませることが重要だと思いました」
荒木さんからのリクエストは、もう一つ。それは「悪人を、ちゃんと悪人として描くこと」だった。
「中途半端な悪者だと、エンタメとしてやっつけたときの爽快感が薄くなる。『ジョジョ』シリーズは少年マンガなので、荒木先生は常に勧善懲悪のバトルを意識しているところもあるのかなと」
今作には、2020年12月にスタートした高橋さん主演のドラマ「岸辺露伴は動かない」から、露伴の担当編集・泉京香(飯豊まりえさん)が登場した。京香は、原作の「ルーヴルへ行く」には登場しないキャラクターだ。
高橋さん演じる露伴と、飯豊さん演じる京香の掛け合いは視聴者の間でも人気だが、ドラマも手掛けてきた小林さんにとっても「書いていて楽しいシーン」だった。「ドラマ1期のときから、お2人の掛け合いがすごくはまっていると思っていました。唯一の息抜きシーンなので、ペンが進みました」と語る。
アニメ、ドラマ、そして今作と「ジョジョ」シリーズの制作に携わってきた小林さん。10年以上の時間をかけて熟成したであろう「ジョジョ」への思いを聞くと「大ファンですとは言えない。一定の距離を置いている」と意外な言葉が返ってきた。
「『ジョジョ』は仕事として関わってから読み始めた作品。荒木先生の作品だと『魔少年ビーティー』(1982~83年)や『バオー来訪者』(1984~85年)は読んでいたのですが、世代がちょっと違ったんです」
「一定の距離」とは?
「あまりにも思い入れが強すぎたり、知りすぎたりすると、作品を客観的に見られない部分がどうしても出てくると思っています。そうすると、マニアではない視聴者の気持ちが分からなくなる。なので『ジョジョ』や『岸辺露伴』には一定の距離を置いていて、それが自分にとってとても大事な部分かな、と思います」
そうすることで感じる「ジョジョ」の魅力とは何だろう。
「もちろん荒木先生に確認はしていただきますが、多少のアレンジを加えても作品が壊れないという安心感があります。キャラクターの設定や、独特な世界観がとても堅固に作られているので、今回のように映画の尺を伸ばしても、何も違和感がないですね」
荒木さんとは意外な交流も。「荒木先生とは直接仕事の打ち合わせをしたことはないのですが、実はよく行く料理屋さんが一緒で(笑い)、食事の席を共にさせていただいたことが何度かあります。(先生の)奥様から『岸辺露伴を楽しみにしてます』と言っていただけたこともあり、うれしかったです(笑い)」と明かした。
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