ガンダム:45周年も止まらない進化と挑戦 「水星の魔女」で新規ファン開拓 「ガンダムSEED」新作は?

「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」のビジュアル(c)創通・サンライズ
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「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」のビジュアル(c)創通・サンライズ

 人気アニメのガンダムシリーズが2024年に生誕45周年を迎える。同シリーズは進化を続けてきた歴史がある。2022~23年に放送されたテレビアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」は、新機軸を打ち出し、新規ファンの獲得に成功した。今年は「機動戦士ガンダムSEED」シリーズの完全新作「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」が公開されることも話題になっている。ガンダムシリーズを手掛けるバンダイナムコフィルムワークスの小形尚弘エグゼクティブプロデューサーに「水星の魔女」、そして「SEED FREEDOM」について聞いた。

ウナギノボリ

 ◇「水星の魔女」は「SEED」以来の大きな波

 2022~23年にガンダムシリーズで大きな話題になったのが「機動戦士ガンダム 水星の魔女」だろう。2015年10月に第1期がスタートした「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」以来、約7年ぶりとなる同シリーズのテレビアニメで、女性主人公、学園を舞台とするなど新機軸を打ち出し、これまで同シリーズを見てこなかった新たなファンを開拓した。

 「ガンダムシリーズファンの男性、女性の比率は9:1くらいなのですが、『水星の魔女』は7:3くらいで、新規ファン層も半分くらいは若者でした。昨年夏に開催したイベント(『機動戦士ガンダム 水星の魔女』フェス ~アスティカシア全校集会~)でも、家族やカップルで来場されている方もいて、これまでガンダムシリーズを見てこなかった方にもアプローチできたと実感しています。アニメに対する捉え方がこの5年くらいでガラッと変わっていることも大きいと思います。『SEED』を放送していた20年前とは違う状況で、業界全体がいい方向に向かっていて、良い時期に放送できました」

 「SEED」とは、“21世紀のファーストガンダム”とも呼ばれる「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」のことだ。2002年に放送をスタートした「SEEDシリーズ」は、多くの女性層を含む新規ファンを獲得した。小形さんは「水星の魔女」のヒットについて「若い人がしっかり見てくれたという意味で『SEED』に近い。『SEED』以来の大きな波になりました」と語る。

 「水星の魔女」はSeason(シーズン)1が2022年10月~2023年1月、Season2が2023年4~7月にMBS・TBS系全国28局ネットの日曜午後5時のアニメ枠“日5”で放送され、同枠で2023年1~3月には、劇場版「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)「機動戦士ガンダム サンダーボルト」、劇場版「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」がテレビエディションとして放送された。3作品はいずれも宇宙世紀を舞台としたアニメだ。

 「『水星の魔女』が、シリーズをこれまで見てこなかった若い方にアプローチしようとしているのに対して、『サンダーボルト』などは、そういった方々にも見てほしいのですが、基本的には既存の宇宙世紀作品のファンに向けて制作した作品です。ガンダムシリーズの映像戦略としては、テレビシリーズは新しいファン、映画やOVAは既存のファンに向けて制作していて、両軸で動いています。そもそもベクトルが違うものなのですが、日5で放送できたことは大きかったです。ガンダムシリーズはさまざまなバリエーションがあることを知っていただける機会になりました」

 ◇テレビシリーズ新作は挑戦的であっていい

 「水星の魔女」のようなテレビシリーズは、新規ファンの開拓のために“挑戦”をしようとしているという。そもそもガンダムシリーズの第1作「機動戦士ガンダム」などを手掛けてきたシリーズの“生みの親”の富野由悠季監督が挑戦し続けてきた歴史がある。

 「テレビシリーズの新作は基本的に挑戦的であっていいと思っています。富野監督が作ってきた作品の系譜を見ても、ファースト(機動戦士ガンダム)と『機動戦士Zガンダム』、『Z』と『機動戦士ガンダムZZ』で、ある種の前作の否定から入っている。前作のことを一回忘れて、新しい作品をつくるぐらいの挑戦をしてきました。だから、ガンダムの新作テレビシリーズは置きにいかない。ファンがいる作品を深掘りする方向性ではなく、新しく挑戦し続けようと考えています」

 ガンダムシリーズはこれまで1年、連続4クールで放送した作品もあったが、昨今はアニメの映像のクオリティーを維持するために、分割して放送する作品も多い。ファンの目が肥えていることもあり、求められるクオリティーのハードルが上がっているようにも感じる。

 「基本的に映像はシナリオ、演出ありきで、そこが面白くなければ、どんなに作画がよくてもダメだという考えはあるのですが、昨今は作画のクオリティーを求められます。昔のテレビシリーズは、話数によって波があるのが当たり前でしたが、今は平均的にレベルが高いものが求められ、中途半端なことができなくなっています。以前は、テレビシリーズといえば、各話で個性を出せて、実験や挑戦もできて、クリエーターや制作が成長することができました。実験したことを映画やOVAで開花させることもあったのですが、それが難しくなっている状況ではあります」

 ◇「SEED FREEDOM」の新たな映像表現

 2024年は、「SEED」シリーズの完全新作「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」が1月26日に公開されることも話題になっている。劇場版は、2006年に制作が発表されたが、その後は長らく続報が途絶えていた。2023年7月、ついにタイトルと公開日が発表された。

 「もっと早くお届けしたかったのですが、関係者が苦労をしながら公開までこぎ着けることができました。サンライズとしては一大事業で、感慨深いです。待っていただけた方々に感謝しています。『SEED DESTINY』の放送が終了した2005年から19年を経て、映像的にも新しくなっていますが、“SEEDらしさ”がある作品に仕上がっているはずです」

 MS(モビルスーツ)はCGをメインに表現した。約19年で、CGも大きく変化した。

 「作画もありますが、メインは3DCGです。“SEEDらしい”動き、編集で切れ味のいい映像になっています。業界全体が3Dを使うことに慣れてきていて、3D、2Dの両方を駆使する時代になっています。『水星の魔女』は手描きを中心にMSを表現していますが、レイアウトなど制作工程で3Dを使っています。求められるクオリティーも20年以上前とは雲泥の差ですし、そこにしっかりコミットするために、制作工程で3Dは必要になっています」

 「SEED FREEDOM」では福田己津央監督らテレビアニメのスタッフが再集結する。一方で、若手のスタッフも活躍し、新たな映像表現に挑戦しているという。

 「もちろんベテランの方々の力は必要ですが、原画、CG、美術などで若いクリエーターが活躍しています。『SEED』を見ていた世代がクリエーターとして作品に参加することで、映像が新しくなっているところもあります。デジタルを駆使する新世代のスタッフが増えていて、デジタルを使うことが当たり前の発想になり、映像が進化しています。若手の活躍を見ていると、日本のアニメはまだまだ戦えるとも感じます。映像が進化する中で、今まで見たことがないものがこれからも生まれていくことに期待しています」

 ガンダムシリーズの進化、挑戦は止まらない。45周年、さらに50周年に向けたさらなる進化、挑戦に期待したい。

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