解説:「ちびまる子ちゃん」 声優交代で変わったこと、変わらないこと

“どちらも”そのキャラの声として人々に広く認識され、楽しまれる機会も増えてきています
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“どちらも”そのキャラの声として人々に広く認識され、楽しまれる機会も増えてきています

 長寿テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」(フジテレビ系、日曜午後6時)で、約34年にわたり主人公のまる子の声を務めてきたTARAKOさんが3月4日に急逝。4月21日からまる子の声優を菊池こころさんが引き継いだ。長寿アニメではしばしば見られる声優の交代だが、サブスクリプションの普及などもあり、ファンの声も変わってきているようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが解説する。

ウナギノボリ

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 「ちびまる子ちゃん」で長年「まる子」役を担当してきた声優・TARAKOさんの急逝に伴い、4月21日放送回から、新たな担当声優・菊池こころさんが声を吹き込んだまる子のエピソードが放送され、注目が集まりました。

 こうした誰もが知っているキャラクターの声優交代は、“キャラとその声”がセットで人々に印象づいている分、毎回何かと話題になることが多いのはご存じかと思います。しかしそこで生じる反応というのは、以前と比べて大きく変わってきているようです。

 例えば、多くの長寿作品で声優交代が行われる中で、ひと昔前のように、声優交代にネガティブな声ばかりが生まれることはほぼなくなりました。これには放送が長期化し、やむを得ない事情も増えてくる中、そのキャラがいつまでも居続けてくれるためには声優交代も避けて通れないものなのだと、人々に広く理解されてきたこともあるのでしょう。

 加えて最近は、声優という職業の存在がお茶の間により浸透し、以前より一層身近になってきたことも大きいかもしれません。さまざまなメディアで声優の方々の人となりや仕事内容に触れ、そこに親しみや敬意が生まれることで、前キャストの声への思い入れと同じくらい、大きな期待とプレッシャーの中で新しい声を担当するキャストへの感情移入も生じるようになったのではないでしょうか。

 とはいえ、たとえ交代への理解が生まれたとしても、それで慣れ親しんだ声とのお別れが悲しくなくなる訳ではありません。特にそうした別れを惜しむ声の中では「今後初めて作品に触れる人は、前の声優さんバージョンのキャラクターの声を知らない人が増えていくのか……」という寂しさもよく語られてきました。

 しかしこのことについても、最近は状況が変わってきています。動画配信サービスが普及し、そこで新旧関係なく様々な作品が配信されている今では、今後初めて本作に触れる人が、前任者と現担当両方の声で作品に触れられる機会も、以前より格段に増えてきているのです。

 実際に、「ちびまる子ちゃん」だけでなく、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」など、前任者と現担当それぞれのバージョンが共に配信されている、主人公の声優交代を経た作品も存在しています。こうした状況は、これから初めて作品に触れる人が以前の声でも作品を楽しめることはもちろん、最近テレビ放送を見ていなかった人が、新たな声のバージョンに初めて触れる機会だって与えてくれるはずです。

 それでも、毎週作品をみている側も急にきっぱり切り替えることは難しいので、まだしばらくは放送を見ていて「声が違うね」という反応や、それぞれのまる子を比べる声が生じることもあると思います。私自身、頭ではどんなに分かっていても、OPソングでのせりふや提供クレジットといった耳慣れたフレーズでは特に「変わった」という実感が強く押し寄せ、やはり寂しい気持ちにもなりました。

 しかし上記の変化もあり、前任者と現担当の声はただ比べられるばかりではなく、“どちらも”そのキャラクターの声として人々に広く認識され、いつまでも楽しまれる機会も確実に増えてきています。放送の長期化や世間の声優というお仕事への認識、視聴環境の変化により、声優交代への反応は変わりましたが、TARAKOさんのまる子も、菊池こころさんのまる子も、どちらもまる子の声として共に親しまれていくことは、今後もずっと変わることはないのでしょう。

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