K2 Pictures:日本映画に変革を 紀伊宗之が目指す“新しい生態系”

K2 Picturesのロゴ
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 映画を中心とした事業を展開するK2 Picturesが、映画製作ファンド「K2P Film Fund I」を設立した。K2 Picturesは、東映で数々のヒット作を手掛けた名物プロデューサーの紀伊宗之さんが立ち上げた会社で、日本映画の“新しい生態系”を作ることを掲げ、国内外の投資家の日本映画産業への参入、クリエーターへの利益還元を推し進めるという。岩井俊二監督、是枝裕和監督、白石和彌監督、西川美和監督、三池崇史監督、アニメ制作会社のMAPPAらと映画製作を進め、タレントのゆりやんレトリィバァさんが同社で映画監督デビューすることも話題になっている。紀伊さんに、日本映画の変革を目指す“新しい生態系”について聞いた。

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 ◇製作委員会の課題

 紀伊さんは、東映映画興行を経て、映画興行のティ・ジョイに出向し、東映では映画企画部でプロデューサーを務めた。代表作に「シン・仮面ライダー」「孤狼の血」などがあり、アニメとの関わりも深く、「放課後ミッドナイターズ」をプロデュースし、「009 RE:CYBORG」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」などの配給を手掛けてきた。

 紀伊さんは2023年4月に東映を退職し、同8月にK2 Picturesをスタートした。一体どんな会社なのだろうか? 「分かりやすく言うと映画会社です」と説明する。

 「映画会社をやります!とできた会社は、この70年間で1社もありません。洋画の買い付けをしていて、邦画を作るようになった会社はありますが、新規はなかなか参入できない。日本の映画市場はクローズだからです。新興の映画会社と理解をしてもらえれば。インパクトスタートアップなんです。社会課題を解決することが僕らの会社としての進むべきことで、それは生態系を変えることです。結果、クリエーターにも幸せになり、新しい投資家も幸せになることです」
 日本の映画市場には、どんな課題があるのだろうか?

 「取らなければいけないリスクとして、作品を作るリスク、それを展開するためのビジネスリスクがあります。僕は日本のクリエーターを信じているので、世界を目指して展開していきたい。多少お金がかかってもいいから、世界でどうやったら受けるのかをちゃんと考えてほしいと言えば、監督や脚本家は考えてくれます。それだけの能力があるんです。でも、ビジネス側がリスクを取らないから、なかなかできない。そのリスクをどう取るのか? 映画には製作、配給、興行があり、それは基本的にファイナンス、プロダクション、マネタイズなんです。ファイナンスモデルは、製作委員会方式でビジネスリスクは取らないものばかりで、それが窮屈になっている。そこを解放していきたいんです」

 製作委員会方式一辺倒の閉じた市場を解放し、より健全な“生態系”を生み出そうとしている。

 「ファンドを作り、投資家にどんどん入ってもらいます。製作委員会は、既存のプレーヤー以外は投資しづらい。さらに、参加各社のリスクを下げるために製作費は縮小傾向にある。新しい投資家が必要なわけです。新しい投資家を誘致するには、ファンドの仕組みしかない。世界中が日本の映画やアニメに興味を持っています。世界に出て行ける道を作れば、より儲かるようになります。K2 Picturesはマージンの割合を最低限しか取りません。この生態系を維持するためには、投資家、クリエーターが満足しないといけない。7:3で投資家とクリエーターに分けようとしています」

 ◇「空の境界」の衝撃

 紀伊さんは、これまでの経験から“新しい生態系”という思想に至った。

 「僕は元々、映画館の切符のもぎりから始まり、配給、宣伝とやってきました。興行時代の最後に、新宿バルト9の立ち上げ、編成をやっていました。映画館は、すごく自由ではあるけど、制約があり、売りに来るものしか買えない。プライベートブランドのようなものをもっとパッシブにやった方がいいのでは?と編成時代に考えた。売りに来るものを買うのは誰でもできる。売ってないものを調達する方がはるかに難しいけど、面白い。衝撃的だったのが『空の境界』だったんです」

 「空の境界」は「Fate」シリーズでも知られる奈須きのこさんの同名小説が原作。原作は、同人サークル「竹箒」のホームページに掲載され、後に講談社ノベルスから出版された。2007~09年に7部作の劇場版アニメが公開された。劇場版は、当初、テアトル新宿のレイトショー公開のみの予定だったがヒットを受け、公開規模を大きく拡大した。

 「テアトル新宿にとぐろを巻くように人が並んでいた。一体何だ!?となったんです。当時、ティ・ジョイは大人向けのアニメを映画館で上映していなかった。20館くらいだったティ・ジョイの興行網は、アニメとフィットするはずと考え、アニメに傾倒していきました。いろいろなアニメの関係者に会いに行き、OVAを上映しませんか?と話をしました。すると、配給をやってくれませんか?という話にもなって、エンターテイメント事業部を作りました。ODS(映画以外のコンテンツ)、ライブビューイングと言われるものをやり始めたのも僕らでした。製作、配給、興行という枠の中だけではなく、映画館を活用していく。映画館は装置として考えると、もっとビジネスが広がっていく」

 紀伊さんは「攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D」「009 RE:CYBORG」「劇場版 TIGER & BUNNY」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」などさまざまな作品を手掛けた。新宿バルト9は“アニメの聖地”と呼ばれるまでになった。

 ◇ジャンル映画の可能性

 2014年には、東映の映画企画部に異動し、「犬鳴村」シリーズや「孤狼の血」シリーズなどを手掛けた。

 「ティ・ジョイは20館、興収2億円でよかったけど、300館、30億円になり、染みついたものが抜けず最初は大変でした。悩んだのですが、そこで概念整理ができて、狙いを明快にして映画を作ろうとした。東映にいる以上、東映がやる理由を考えたんです。東映がやるということは、ほかではできないことをやる。ただ、この体制ではできないことも多かった。日本の市場の成長は難しい。僕らが3、4億円で作っても、韓国は20億円とかで作っている。今の日本の仕組みと日本のビジネステリトリーを考えると、これ以上製作費は増やせない」

 東映では、同社が本来得意とするジャンルをより強化することでヒット作が生まれた。

 「日本映画はいわゆるジャンル映画が、世界につながるパスを持っている。過去をさかのぼってレビューすれば分かるんです。なぜ三池崇史がこんなに世界で受けているのか? でも、世界のスーパースターである三池さんに、マンガ原作ばかりをやらせるわけですよ。テイラー・スウィフトに民謡を歌わせるようなものです。なぜ得意なところに、予算を割けないのか?」

 アニメもまだまだ世界で勝負できるはずだ。

 「まだまだいけます。アニメ業界の問題は、新しい人が入ってこないところにある。需要があるのに生産できない。夢がないからですよね、今、大企業がアニメに注力していますが、大事なのは、次の世代を育てることです。クリエーターと投資家を満足させる仕組みの中で、おのずと生態系は変わってくるはずです」

 K2 Picturesは、日本の映画市場の常識を覆すような仕組みを作り、世界を席巻していこうとしている。紀伊さんは「2026年には10本リリースしていきたい。1年目から年間興収100億を目指しています。年間の配給会社のランキングで例年に当てはめると3番目になります。ロケットスタートを切りたい」と話しており、期待が高まる。

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