マングローブ:なぜ行き詰まったのか? アニメ業界の課題浮き彫りに

自己破産の申請準備に入ったアニメ制作会社「マングローブ」
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自己破産の申請準備に入ったアニメ制作会社「マングローブ」

 注目の劇場版アニメ「虐殺器官」を製作していたアニメ制作会社のマングローブが9月29日までに営業を停止し、自己破産の申請準備に入ったというニュースは、アニメ業界に大きな衝撃を与えた。アニメファンにまでよく名前の知られた会社であったことに加え、オリジナル作も生み出し、近年も定期的に作品を世に送り出していたからだ。現在までのところ、裁判所から破産手続開始決定は出ていないが、一体何が起きたのか。関係者へ取材を進めると、業界が抱える課題が次々と浮き彫りになった。

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 ◇関係者一様に「なぜ?」

 マングローブは2002年設立。オリジナルアニメ「サムライチャンプルー」をはじめ、マンガ原作のアニメ「神のみぞ知るセカイ」「ギャングスタ」などを世に送り出したことで知られ、小林真一郎社長は「ガンダム」シリーズのサンライズで活躍した実績がある業界ではよく知られた会社。それだけに業界への衝撃は大きかった。民間の信用調査会社の帝国データバンクによると、負債総額は約3億5000万円以上という。

 同社によると、マングローブの年収入高は2013年度の約10億円から2014年度には約4億6000万円と1年で半減したといい、破産申請準備の引き金は、同業他社との競争にさらされて、資金繰りに苦しんだことだとされている。だが、多くのアニメ業界の関係者は一様に「なぜ?」と首をかしげる。

 ◇アニメーターの確保に苦心か?

 アニメ業界といえば、月収10万円のアニメーターの薄給が話題になるほど給料が低いうえ、正社員はなるべく抱えず、契約社員や外注に出すというのが一般的で、会社運営のコストは一般的に低い。マングローブは売り上げを落としたとはいえ、直近にはアニメも制作しており、その状況でどうして……となるわけだ。

 ある有力アニメ制作会社の関係者は、アニメ業界の現状として「アニメーターの確保が大変。今は作品数が多すぎて、1人が複数の作品を掛け持ちしている状況だ」と明かした。つまりアニメーターの確保で苦労していたのではと推測している。業界のアニメーター不足を解消するべく、新たに人を増やそうとしても、特殊な技術が必要な上に待遇面の弱さもあるため、厳しいのが現実だ。

 ◇工程管理に甘さか?

 アニメ制作を手掛ける別の関係者は、「工程管理に甘さがあったのでは。納期が遅れるとアニメーターの時間を使うからさらにコストがかさみ、他の仕事の玉突きになる」と指摘する。

 さらに作品制作への質のこだわりが“命取り”になることもあるという。「海外とは違い、日本のクリエーターは発言力が強いため、クリエーターの言うがままに凝り、予算をオーバーする『制作赤字』をやってしまうケースがある」と明かす。赤字は、アニメの制作費用を調達する複数の会社で組織する「製作委員会」から補てんされるケースもあるが、補てんはまれで、制作会社がかぶるのが普通だという。

 ◇放送済みのアニメにも影響か

 マングローブの自己破産申請準備が明らかになった直後の10月2日、同社が製作し、11月13日公開予定だった劇場版アニメ「虐殺器官」が、製作体制見直しのため公開日未定に予定が変更され、早速、余波を受けた形となった。だが、業界への影響はそれだけでなく、これまで制作されたアニメにも及ぶという。

 マングローブと仕事をした経験のある会社の社員は「どうしても(製作中の)『虐殺器官』に話が行きがちですが、放送済みのアニメにも影響すると思う。アニメのデータや原画なども差し押さえられるとすれば、ブルーレイ・ディスク(BD)やDVDの制作時にリテークができなくなるはず」と指摘する。そして「対岸の火事ではない。こういうことがあると、出資に慎重になる会社が出ると思う」と業界への影響を心配している。

 ◇DVD、BD依存の脆弱なビジネスモデル

 大ヒットアニメを生み出したアニメ制作会社は、そのアニメを繰り返して販売すれば、経営的に安定するが、大ヒット作を生み出せるのはほんの一握りの会社だ。「マングローブは、いくつものオリジナル作を出し、“ヒット作”はある。ただ“大ヒット”を生み出せなかったのも響いている」と話す声もある。

 つまり大ヒット作がないと厳しくなるビジネスモデルに問題がある……とも言える。特にアニメ業界は、DVDやBDを売るために、現在でも国内のコアファン向けに似たテイストの作品を作り続けている。海外と付き合いのあるアニメ関係者は、「海外から『日本は、世界に向けてアニメを売る気がない』と言われたことがある。残念ながら事実と言わざるを得ない」と指摘した上で、「いまだにDVDやBD販売の成功体験に引きずられ過ぎている。海外販売やネット配信など、新しいビジネスモデルを模索する時期に来ていると思う」としている。

 また別の関係者は「2014年にジブリの制作部門休止の発表を知った海外のアニメ関係者から『日本政府は何をやってるんだ?』と言われました。日本のアニメを好きになり、結果として日本に好意を持つ人を生み出している現実がある。だがアニメ業界は産業・経営面の弱さがあることを考えると、国から何らかの支援が必要なのかもしれません」と話している。

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