SANDA:スタッフの力を最大化するアニメの現場作り キャスティング秘話 神戸秀太プロデューサーに聞く

アニメ「SANDA」の一場面(c)板垣巴留(秋田書店)/SANDA製作委員会
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アニメ「SANDA」の一場面(c)板垣巴留(秋田書店)/SANDA製作委員会

 「BEASTARS」で知られる板垣巴留さんのマンガが原作のテレビアニメ「SANDA」が、MBS・TBSほかの深夜アニメ枠「アニメイズム」で放送されている。同作は、超少子化時代を迎え、子どもが過剰に保護された近未来の日本が舞台の異色の“サンタクロース”ヒーローアクション。「ダンダダン」「映像研には手を出すな!」などで知られるサイエンスSARUによる斬新な表現、板垣さんの力強い絵がそのまま動いているような躍動感のある映像、豪華キャストによる演技が注目を集めている。アニメはどのように制作されているのか。アニメーションプロデューサーを務めるサイエンスSARUの神戸秀太さんに聞いた。

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 ◇スタッフ起用のこだわり 「やりたい」を発揮できるように

 「SANDA」は、2021年7月~2024年7月に「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載されたマンガ。超少子化時代を迎えた近未来の日本で、国の宝である子どもたちは、大人たちによって全寮制の学園で管理・保護されており、子どもに夢や希望を与えるサンタクロースは危険人物として排除の対象とされていた。中学生の三田一重は、クラスメートの冬村四織から命を狙われたことをきっかけに、自分がサンタクロースの末裔(まつえい)であることを知り、子どもたちを守るためにサンタクロースとなって大人たちと戦うことを決意する。

 「原作を読み、板垣先生のすごく力強い絵柄にオンリーワンな魅力を感じました。どのキャラクターも衝動的で破天荒で、ストーリーがジェットコースターのようにテンポよく進んでいって、細かく展開に動きがある。サイエンスSARUは、動きの中でキャラクターやアニメの魅力を引き出すことを強みとしているスタジオでもあるので、そういう意味でもアニメ映えしそうだなと感じました」

 神戸プロデューサーが制作において最も重視したのは「スタッフの皆さんがやりたいことを発揮できる現場作り」だった。

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 「自分は、監督にクリエーティブな助言を出すタイプのプロデューサーというより、現場が機能するようマネジメントを頑張ることでクオリティーを高めたいと考えるタイプなので、その強みを生かすことを意識しました」

 アニメ化の企画段階で、「ユーレイデコ」「SUPER SHIRO」などで知られる霜山朋久さんが監督を務めることは決まっており、「ユーレイデコ」にも参加した石山正修さんがキャラクターデザイン・総作画監督を務めることになった。スタッフィングの上では、「霜山監督との信頼値が高いスタッフから固めていった」という。

 「自分も石山さんとは『映像研には手を出すな!』などでお付き合いがあって、その頃から良い原画を上げてくださる方で、作家としてもアニメをまとめるのが上手な方です。これまでの仕事ぶり、霜山さんとの関係値からうまくいくんじゃないかなと思い、起用しました」

 シリーズ構成・脚本を手がけるうえのきみこさんも「ユーレイデコ」「SUPER SHIRO」に参加している。音楽には、FPM名義での音楽活動もしている音楽プロデューサーの田中知之さんを起用。田中さんがアニメの劇伴を手がけるのは初めてで、「サイエンスSARUは音楽も大事にしているので、田中さんにお願いをして挑戦してみようという話になりました」と新たな試みもあった。

 「風通しの良い現場を作りたい、やる気のあるスタッフにチャンスを与えたいという思いもあったので、一部の絵コンテスタッフは、社内外でコンペティションを実施して選びました。そのように若手を起用する一方で、横山彰利さんや田口智久さんといったキャリアのある演出家にも参加してもらい、バランスを取りました」

 スタッフィングにおいては、神戸プロデューサーが「映像研には手を出すな!」「クレヨンしんちゃん」シリーズに関わった経験が影響しているという。

 「『映像研には手を出すな!』の村上泉さんや、『クレヨンしんちゃん』の林静香さんが手がけられる原画を見て、ただアニメが可愛い、アクションが格好良いではなくて、魂を吹き込んでいるというか、実際に演者としてアニメーターが存在しているように感じたんです。一番アニメをよくするのは、そのように芝居でキャラクターを作り上げることができるアニメーターの方々だと思います。『SANDA』でも、第1話のアバンを担当していただいた吉田ますみさんや、三宮哲太さん、山田まさしさんといった特別なアニメーターの方々にシリーズを通して参加していただきました」

 ◇原作の良さをアニメで表現 各話で“エース”が活躍

 アニメを制作する上では、「原作の絵の良さをできるだけそのままアニメで表現する」ことを目指した。

 「新しい技術を試すなどさまざまなチャレンジをして、正直全部が全部はうまくはいきませんでした。ただ、キャラクターデザイン、アニメーション周りは良い塩梅で落とし込めたと思ってます。キャラクターデザインの石山さんと撮影監督の伊藤ひかりさんは、『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』という作品にも参加されていて、その経験を生かして、『SANDA』でも板垣先生の力強く荒々しい線のタッチを表現できたように感じています」

 「SANDA」では、アクションシーンや、キャラクターの感情が大きく変化するシーンなど各話に見せ場がある。

 「各話、スタッフの中に“エース”がいて、その力任せで頑張っていただいた節もあるので、本当に感謝しています。それぞれのスタッフの方に任せる際も、押し付けるのではなく、それが今回最善であることを常に伝えるなどコミュニケーションをすごく意識していました。制作の現場では、マンパワーで押し切るのが最善の時もあれば、チームワークを生かすのが最善の時もあります。各話で最善のやり方が変わっていく中で、戦略を選び、皆さんに納得していただいて、できるだけ効率よくやれたのではないかという手応えはあります」

 ◇巡り合わせのキャスティング 「信じられないくらい良いチームに」

 主人公の三田役の村瀬歩さん、サンタクロース役の東地宏樹さんをはじめ、声優陣による生々しい演技も「SANDA」の魅力の一つだ。関俊彦さん、平田広明さん、野沢雅子さん、庄司宇芽香さん、永瀬アンナさん、新祐樹さん、松岡美里さんと、豪華かつ幅広い声優陣が顔を揃える。キャスティングにおいては「巡り合わせで決まった部分も大きい」という。

 「音響監督の三好慶一郎さんを中心に、監督とプロデューサー陣で議論した上で最終決定されたのですが、三田とサンタクロースの声のバランスはかなりシビアに考えられていて、オーディションでも、2人の組み合わせは最後まで悩むことになりました。三田とサンタクロースだけでなく、ほかの女性陣も含めて、三好さんが声のバランスを意識してキャスティングされて、巡り合わせで決まっていきました。ただ、やはり大事だったのはキャスティングの後です。三好さんが監督の意向を噛み砕いて、演者に伝わりやすく伝えて、ディレクションして作っていくというか。自分も最初からいいなとは思っていましたが、ディレクションでよりカチッとハマった感覚がありました」

 柳生田三郎役の平田さん、鉄留十予役の野沢さんの出演に関しては、神戸プロデューサー自身も「運がよかった」と感じているという。

 「柳生田に関しては、板垣先生からジョニー・デップを意識してキャラクターを作ったというお話がありました。平田さんはジョニー・デップの吹き替えを担当されているということもあり、まさにそういった意味でもキャスティングの決め手になったのかと思います。鉄留についても、野沢さんが演じてくださったら面白いことになるのでは、と希望も込めて話していたところ、それも実現して『そんな望み通りに決まる?』と。ぴったりピースがハマっていって、すごく運がよかったと思います」

 良い雰囲気の中で収録は進み、声優陣の仲も良く、毎回収録後に飲み会をするほどだったという。「本当に信じられないくらい良いチームバランスでやれていた気がします。その良さが画面にも出ているんじゃないかなと思います」と語る。

 スタッフ、キャスト共に最大限の力を発揮して制作されたアニメ「SANDA」。

 「今回、アニメーションプロデューサー、制作デスクという立場でしたが、大変なことが全くなかったんです。アニメ制作の現場でこんな順調にいくことはほぼないので、逆に戸惑うほどで。これは本当にすごいことで、とにかく頑張ってくれたスタッフに感謝しかないです」

 クライマックスに向けて見どころを聞いた。

 「“未成人式”というイベントで三田と大渋学園長チームが戦うことになります。お互いが感情むき出しで戦い、各々の思想をぶつけ合うシーンは、特にアニメーションも力を入れています。これまでアニメを見ていただいている皆さんにもすごいと思っていただけるようなアニメーションになっています。声優さんの芝居もどんどん真に入り、鬼気迫るものになっているので、楽しみにしていただけたらと思います」

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