名探偵コナン
#1189「W・アリバイ」
1月17日(土)放送分
東野圭吾さんの小説が原作の劇場版アニメ「クスノキの番人」が1月30日に公開されることを記念して、東京アニメーションカレッジ専門学校(東京都新宿区)で伊藤智彦監督によるトークショーが実施された。伊藤監督は、「ソードアート・オンライン」「僕だけがいない街」などで知られ、トークショーでは、「船の大学に通っていて船乗りになろうと思っていた」という異色の経歴や、アニメ制作における3つの軸、最新作「クスノキの番人」の制作秘話などを語り、学生たちにエールを送った。
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伊藤監督がアニメ業界を目指すきっかけとなったのは「サラリーマン、いわゆるネクタイを付けて満員電車に乗る仕事をしたくなかったから、です(笑)。船の大学に通っていて船乗りになろうと思っていたんです。一方で早稲田大学のアニメーション研究サークルにいってアニメを学んでいたこともありました。それで就職する時にアニメをやろうと。マッドハウスに作品を持っていったんです」と、異色の経歴を話す。船乗りという意外な経験をした伊藤監督だが「普通の社会生活を送ることも重要だったりするんですね。コンビニの店員がどういう動きをするのかとか……知っていると『自分分かります!』と言える。大学時代は寮に住んでいたので、共同生活をせざるを得なかったので、それもアニメの仕事に生かされていると思います」と語った。
マッドハウスで制作進行をしていた伊藤監督が、監督や演出をするきっかけとなったのは、浦沢直樹さん原作の「MONSTER」だったという。「演出志望だったものですから、『監督やプロデューサーになりたいです』とずっと手を挙げ続けた。監督の小島正幸さんに『コンテを書いてきたので見てください』というと、わずらわしがられたこともありました(笑)」と、自ら積極的に行動していたエピソードを話す。「毎度手を挙げるのが重要と言われていたので、『こいつめんどくさいな』と思われるくらいがよいのではないか、と思います」と学生に自身の経験を生かしたアドバイスを伝えると、熱心にうなずきメモを取る学生もいた。
伊藤監督のデビュー作「世紀末オカルト学院」を経たことにより、「(1つの作品に)なんでもかんでも詰めようと思っても全ては達成できないと分かりました。3つくらいしかできない。僕は自分の解釈として、『キャラクター』『世界観』『ドラマ』の3つだろうと思っています」と今もなお取り入れている、伊藤監督ならではのアニメ制作においての3つの軸を語った。
監督をする前にやっておけばよかったことを聞かれると「海外旅行」とコメント。過去には1人でペルーへ行ったこともあるそうで、その時の苦労を思い出し、大変な時に自分がどう振る舞うか、当時の感情を残しておくことが大事だと語る。「ペルーにいった時にガイドのおじさんに湖に連れて行ってもらったんですよ。本当に人がいなくて、360度湖と僕と」と語り、その経験は伊藤監督が手がけた「ソードアート・オンライン」にも生かされており、「その時の思いを思い出しながら制作していました」と秘話も飛び出した。学生時代にしておいたほうが良かったことは「座学で得られることは業界に入るとあっという間に学べてしまうなと思いました。継続的にやることを持っておいたほうがよいと思います。デッサンを3枚書くとか、構図を10枚書くとか……10年、20年やると、その積み重ねが間違いなくかなり大きな差になってくる」と伝えた。
最新作「クスノキの番人」は、東野さんの小説が原作で、これまで“東野作品”は実写映画化、ドラマ化されてきたが、アニメ化されるのは初めて。理不尽な解雇により職を失った青年・直井玲斗が、謎多き“クスノキの番人”となり、さまざまな事情を抱える人と出会う……というストーリー。伊藤監督にとって、一番“挑戦”だった部分を聞かれると「原作を読まれている方は分かると思うんですけど、爆発もしないし、異世界もないし、派手な作品ではないんです。割とリアルな世界の話をいかにアニメーションとして面白くまとめるか、というのは自分でもトライアルだと思って作っていました」と語る。
学生に注目してほしいポイントは「直井玲斗がアニメ主人公としては年がいってるんですよね。21歳というとみなさんより年上かもしれないです。ニュースをみても、若者につらい感じの社会になってきているなと思ったので……そういう子が希望をもてるような、頑張りが報われるような作品になればいいなと思っていました。見ていただくと主人公や大場壮貴に感情移入してもらえるんじゃないかなと思います」と、キャラクターの魅力を語った。
今作には、マンガ「ブルーピリオド」で知られる山口つばささんと、「かがみの孤城」などの板垣彰子さんががキャラクターデザインを担当し、「天気の子」に参加した美術監督の滝口比呂志さんら実力派クリエーターが集結している。伊藤監督は「(キャラクターデザインを)山口さんにお願いしたのもリアル一辺倒なキャラにしてしまうと固く見えそうだなと思ったので、マンガっぽいキャラが同居してもいい世界観にしようと思っていました」とこだわりを話す。劇中では滝口さんが担当した美術も大きな見どころの一つで、幻想的かつ美麗なクスノキがスクリーンいっぱいに広がる。「いろいろ試行錯誤されていたという経緯は知っていますけど、実際に熱海にいってご自身で観察して本番のカットを描かれているので、その成果が出ている」と説明した。
学生から募集された質問にも回答。今作を手掛ける中でこだわったことを聞かれると「3つの柱に通じることでもありますが、一つは柳澤千舟を格好よく描く(キャラクター)、ファンタジー性のあるヒューマンドラマ(ドラマ)、リアルな話だからこそアートな美術、カットを入れた(世界観)こと。滝口さんの描くクスノキや水彩超の画(え)などは個人作家さんにお願いして、なるべく入れられるようにと考えていました」と話す。そうしたこだわりからストーリーやキャラクター、ふとした瞬間に差し込まれる美しいカットの一つ一つに、監督が込めた“魂”が宿っているという。
声優として、主人公・直井玲斗役の高橋文哉さん、柳澤千舟役の天海祐希さんが出演しており、「柳澤千舟さんは天海祐希さんというのは初期的に決めていましたけど、それ以外はオーディションをしました。実は直井玲斗もオーディションをしたのですが、どうやっても格好よくなってしまった」という。そこで、伊藤監督が以前から「いつか自分の作品に出てほしい」と思っていた高橋さんをキャスティング。見事にハマった直井玲斗となり、その声を絶賛したと当時を振り返る。
続けて制作で思い出深かったことを聞かれると、アフレコの制作秘話が飛び出した。「柳澤千舟は一人称を『わたくし』というのですが、天海さんが一カ所だけ、『わたし』と読まれたことがありました。この作品では自分が音響監督も担当していたので、『どうしようかな……』と思い悩んだが、そのシーンには『わたくし』より『わたし』がなじんだ。それで、『わたし』をOKにしたんですね。何かしら、自分をガードしていた千舟というキャラクターがそれを無くす瞬間が“ここ”なのかなと思うと、それが正解なのかなと。その時、現場に原作の東野圭吾先生がいらしていたのですが、僕の背後から『それがいいと思います』とおっしゃったんです」と明かした。
さらに、キャラクターの感情を表現する時に伊藤監督が一番大事にしていることを問われると、ここぞというときに“誇張”することだと回答。「直井玲斗の目が金色になるところが1カットだけあるんです。これは細田(細田守監督)さんからの教えで、主人公が覚醒するときは目を金にする、と。『サマーウォーズ』で健二くんが『よろしくお願いします!』という前に計算するシーンで、目が金色になるんですよね」と演出術も明かされた。最後に伊藤監督から「アニメ業界はたくさん仕事があります。皆さん早くこっち(制作側)にきてください。そして僕を助けてください。待っています!」と力強いメッセージが送られた。
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
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