とんがり帽子のアトリエ:渡辺歩監督インタビュー 高密度と温もりをアニメで表現 「コツコツと丁寧に描くしかない」

アニメ「とんがり帽子のアトリエ」の一場面(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
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アニメ「とんがり帽子のアトリエ」の一場面(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

 白浜鴎さんのマンガが原作のテレビアニメ「とんがり帽子のアトリエ」が、4月6日からTOKYO MXほかで放送される。原作は、海外のマンガ賞の数々を受賞するなど世界中から注目されている話題作で、「ドラえもん」「海獣の子供」「漁港の肉子ちゃん」「サマータイムレンダ」などの渡辺歩さんが監督を務める。原作は高密度で美しいビジュアルが大きな魅力だ。アニメで表現するとなると、ハードルが高そうではあるが、渡辺監督はいかに表現したのだろうか。

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 ◇原作の情報量、質感を落とさずに動きも表現する

 「とんがり帽子のアトリエ」は、魔法使いに憧れていた少女・ココが、秘密多き魔法使いの世界に足を踏み入れていく……というストーリー。「月刊モーニング・ツー」(講談社)で2016年に連載をスタートし、コミックスの累計発行部数は750万部以上。フランスやスペイン、韓国などのマンガ賞に選ばれ、2020年には米アイズナー賞の最優秀アジア作品賞を受賞するなど世界中から注目されている。

 「白浜先生は『エニデヴィ』でもすごくうまい高密度系のマンガ家さんとウワサになっていましたし、『とんがり帽子のアトリエ』も読んでいました。アニメにしようとは考えていなかったです。やる人がいたら大変そうだな……と大変なのは分かっていました」

 渡辺監督は、他人ごとのように「とんがり帽子のアトリエ」を読んでいたようだが、高密度な同作をアニメ化することになり、何を芯にしようとしたのだろうか。

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 「まずはビジュアルですね。真っ先に飛び込んでくる情報量の多さがありますし、アニメにする際のアプローチはいろいろあると思いますが、動かすことを前提として情報をシンプルにしていく道筋を考える。それか、その逆ですね。なるべくビジュアルを生かして動かす。全体的には、一枚に対する情報量は増やすけれど、枚数を抑える形で再現する。原作は、高い密度で躍動感を持って描き込まれているので、どうにもならない。一度、密度を軽くしましたが、何かが足りないんです。ですから、最初に意識したのはビジュアルの情報量、質感を落とさずに動きも表現する。シンプルにこれはもう時間が掛かるんですよね」

 昨今のアニメ制作環境で、原作の情報量、動きをアニメで表現するのは並大抵のことではないはずだ。

 「時間が掛かっています。物量との戦いは、愚直に作業を続けるしかないんですよね。何かの機械ですごい処理でできるわけでもないので、結局はアニメーターの方々がコツコツと丁寧に描くしかない。それに尽きます。スタッフ全員の総力戦でした。ぜいたくな作り方をしています。もちろんCGの力を借りているところも多々あるのですが、ベースとしては有機的に描くしかない。原作が有機的で、線そのものが物語っています。それを再現するには、デジタルはアンマッチですし、なるべく温もりを表現しようとしました」

 ◇本物らしさが常に問われる

 渡辺監督はアニメ化に際して「マンガは『ないこと』を『あること』として描けますが、実は『あること』のために『ないこと』を丁寧に描くことが必要です。それによって『あること』の実在感に結び付けるのです。アニメも同じです」とコメントを寄せていたことも印象的だった。

 「上手に嘘をつくと言ってしまえばそれまでですが、本物らしさが常に問われる。スタッフと一緒に作っていく上で共通認識として、そういう覚悟がないと描ききれないと思っていました。原作を手にとったときの感動、なぜこの作品が好きなんだろうという思いが支えになる。白浜先生もどんどん筆致が高くなっていますし、アニメで追い切れるかどうかが未知数なところでもありました」

 本作において「魔法」は大きなキーワードとなっている。

 「この世界では、魔法は人々の生活に普通に根付いていることが前提になっています。現実世界でいえばテクノロジー的なもので、それをいかに使うかは、使い手によって善にも悪にもなる。僕もかつて便利な道具を出す未来から来たネコ型ロボットを扱ったことがあって、その時に個人的に思ってた部分に近かったんです。いつか描きたいと思っていました。白浜先生にお会いしたとき、『実はこういうことを考えていた』と聞いて、それがすごく面白かったんです。秘密にされていてるし、限られた人にしか伝播されないけど、実は非常に危うい。現実と地続きで、ファンタジー要素との距離感がすごく大事になってきます」

 原作者の白浜さんと話をする中で、アニメ化への道筋も見えてきた。

 「広い年代の方に手にとっていただきたいマンガとして描いているとおっしゃっていました。なので“怖いもの”の描写は避けたい、あるいは描かなければいけないにしても、それを中和する意味で可愛いところ、面白いところを入れたいというお話でした。広い視野で考えていて、懐の深い方なんです。なので、アニメで何かを突出して描くことはあっても、原作で成立している以上のものには踏み込まない。怖さや迫力を求められるシーンもありますが、ホッとするような世界も描き、バランスを取らないといけません」

 ◇“伝わる”とは?

 マンガとアニメでは表現が異なる。アニメならではの苦労もある。

 「時間ですね。テレビアニメのフォーマットに落とし込むにあたり、どうしても尺が足りないことがあります。原作の情報そのものを削るわけではなくて、アニメで増幅した部分もあります。キャラクターの描写を増やしたり、行間を表現したりとどうしても時間を使ってしまいます。マンガは、読み手の方のペースがあるし、戻って読み返すこともできます。どうしてもフィルムに落とし込むと、不可逆的に流れていってしまう時間に対して基本的に抵抗できません。どうしても描けないところも出てきてしまいます。そこが悩みどころでした」

 一方で、アニメだからできる表現もある。

 「表現を噛み砕く、分かりやすくするのと“伝わる”は違いますし、説明しすぎてしまってもまたそれは違います。想像してもらうためのギリギリのポイントがないといけません。見てくださった人たちがそれぞれ答えを持ってもいい。余白を持って終わりたいという欲求が、個人的にはあります。いかに余韻を持って終わるかが大事なような気がします」

 ◇本村玲奈、花江夏樹の光る演技

 本村玲奈さんが主人公・ココを演じる。本村さんはアニメ「前橋ウィッチーズ」「ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される」などでも活躍する新人声優だ。

 「本村さんは『漁港の肉子ちゃん』の公募のオーディションに参加されていて、最終候補には残ったのですが、別の役で出演していただきました。そのときから、柔らかく優しい声で、何かハマる役があるといいなと印象に残っていたんです。『とんがり帽子のアトリエ』を読んでいて、何となくその声が聞こえていたら、オーディションで候補になっていたんです。いろいろな方と検証して本村さんに決まったのですが、ポンとハマりました」

 ココを弟子とする魔法使いのキーフリーを演じるのは、花江夏樹さんだ。花江さんは「サマータイムレンダ」などにも出演経験がある。

 「花江さんはストイックで紳士的な方です。ただ、これまでとは少し違うところを掘ってみたいと思い、これまでの花江さんのイメージとはまた違うキャラクターをお願いしました。無茶を言っているところもありましたが、きっと応えてくれるだろうと思っていました。収録もいい雰囲気でした。若手も多いこともあり、役だけではなく、マイクの前に立つ姿勢も見せていただきました」

 花江さんに取材した際、キーフリーというこれまであまり経験のないタイプの役に挑戦できることを喜んでいた。役者と渡辺監督の信頼関係があるから実現したキャスティングなのだろう。

 渡辺監督が「僕が言うのもおかしいかもしれませんが、みんながリスペクトと愛情を持って一生懸命に作っています」と自信を見せる。丁寧に、そして愚直に描く「とんがり帽子のアトリエ」の映像美を堪能してほしい。(阿仁間満/MANTANWEB)

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