第56回グラミー賞:元外交官・阿曽沼和彦の作品がノミネート レゲエに魅せられた男の軌跡

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 米国の音楽賞「第56回グラミー賞」の最優秀レゲエアルバム部門にノミネートされたレゲエユニット「スライ&ロビー」の「Reggae Connection」をプロデュースした日本人の音楽プロデューサー、阿曽沼和彦さん。携わった作品がグラミー賞にノミネートされるのは10回目だが、日本でその存在を知るのは一部ファンのみ。元外交官という異色の経歴だが、「外交官といってもノンキャリアだったので、行き着くところには限界がある。野たれ死にする覚悟で(外務省を)やめました」と安定した仕事を捨てた経緯を振り返る阿曽沼さん。謎に包まれたキャリアやグラミー賞に懸ける思いを聞いた。

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 ◇“レゲエ外交官”の誕生

 阿曽沼さんは、1957年生まれの56歳。82年に青山学院大を卒業後、在ケニア日本大使館に派遣員として勤務。84年に在ジャマイカ日本大使館に外交官として正式採用されたが、99年に退官し、現在はジャマイカで音楽プロデューサーとして活動している。

 「フォーク世代で、特に吉田拓郎さんが好きで、そのあとはレッド・ツェッペリンやディープ・パープルなどのハードロックを聴いていましたね。学生時代は海外までツェッペリンのライブを見に行ったこともあります」と話す阿曽沼さん。外交官としてジャマイカに赴任した84年まで、レゲエはボブ・マーリーやサード・ワールドくらいしか知らなかったというが、スライ&ロビーの「アンセム」がグラミー賞の最優秀レゲエアルバム部門を受賞したことを知り、同ユニットのメンバーを食事に誘い、親交を深めたことがレゲエにハマるきっかけになったという。

 スライ&ロビーは70年代から活動しているユニットで、ボブ・ディランさん、セルジュ・ゲンスブールさん、マドンナさん、グレース・ジョーンズさん、ローリング・ストーンズなどの作品に参加してきたことで知られている。阿曽沼さんは、同ユニットのスタジオに顔を出すようになり「4年ほどスタジオに通い、知らず知らずのうちに制作方法を学んだ」という。レゲエの魅力にとりつかれた阿曽沼さんだったが、88年に米マイアミに赴任することになり、ジャマイカを離れた。ジャマイカに残ることも考えたというが「(メンバーに)『外交官やめて、一緒にやろう』と言われたが、奥さんに止められた」と断念した。

 ◇転機はグラミー賞

 その後、阿曽沼さんは、マイアミ赴任をへて、再びジャマイカに赴任。ジャマイカでは、外交官の仕事のかたわら、スライ&ロビーの音楽制作を手伝ううちに、99年に同ユニットのアルバム「フレンズ」がグラミー賞のベスト・レゲエ・アルバム賞を受賞した。阿曽沼さんは、同作の制作に携わっていたが、名前がクレジットされていなかった。その経緯は「ジャマイカに再赴任したとき『音楽の仕事をやっているらしいけど、仕事に支障があったら、日本に帰ってもらう』と言われていた。国家公務員法に抵触するようなことはやっていないのですが……」と諸事情があったようだ。

 「フレンズ」のグラミー受賞は、阿曽沼さんの転機となった。「受賞したときに外交官をやめようと思った。吹っ切れたんです。今度は奥さんもあきらめた。貯金はあまりなかったんですけどね」と笑顔で語る。外交官をやめた後、プロデュース業に専念。日本のSoulJaさんと青山テルマさんのヒット曲「ここにいるよ」をレゲエにアレンジしたカバーをプロデュースし、同作は約20万ダウンロードを記録するなど、日本とジャマイカの懸け橋となるような活動も行っている。

 一方で「苦境は何度もあった。援助してくれていた日本在住の方が東日本大震災で被災して、援助がなくなったこともあったし、日本に帰るしかない……と思ったこともあるが、踏ん張ってきた。ストレスで心臓発作になったこともあります。売れてはいないけど、そこそこの収入が入るようになった」と苦労を語る。

 ◇世界にレゲエをアピール

 阿曽沼さんの名前がクレジットされた作品は実はまだグラミー賞を受賞しておらず、「受賞したら、日本に帰ってもいいとも思っていますよ」と強い思いを持っている。今年、ノミネートされた「Reggae Connection」は、阿曽沼さんとスライ&ロビーがプロデュースし、「日本のリスナーにも聴いてもらいたい」という思いから生まれた作品で、元ちとせさんやleccaさん、COMA−CHIさん、EXILEの「愛すべき未来へ」などを作曲した宅見将典さんらが参加している。

 今回、同部門には、ボブ・マーリーの息子のジギー・マーリーさん、スヌープ・ライオンさん(米ラッパーのスヌープ・ドッグさんの別名義)ら人気アーティストの作品もノミネートされており、阿曽沼さんは「厳しいところはありますね」と冷静に分析する。

 「グラミー賞は白人がメインの賞。いまだにカントリーが強いし、レゲエはなかなか上にいけない」と分析する阿曽沼さん。今後は、ボブ・ディランさんやジミー・ペイジさんらのような大物アーティストが参加するレゲエ作品の企画も予定しており、レゲエを幅広い層にアピールしていく意向だ。阿曽沼さんの今後の活動も注目される。

 「第56回グラミー賞」の模様は27日(日本時間)午前9時からWOWOWプライムで生中継。

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