中国で実際に起こった事件を基に、「君さえいれば 金枝玉葉」(1994年)や「ラヴソング」(96年)、「捜査官X」(2011年)などの作品で知られるピーター・チャン監督が手掛けたヒューマンミステリー「最愛の子」が16日から公開される。誘拐された子供の産みの親と育ての親。それぞれの立場で描かれる物語からは、子を思う親の愛が、痛いほど伝わってくる。
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中国・深センの下町でネットカフェを開いているティエン・ウェンジュン(ホアン・ボーさん)の、3歳になる息子ポンポンが姿を消した。ティエンは離婚した元妻ジュアン(ハオ・レイさん)とともに息子の行方を捜すが見つからない。そして3年後。国中を捜しまわったティエンは、ついに息子を遠く離れた農村で見つけ出す。ところが、6歳になった息子は、誘拐犯の妻リー・ホンチン(ビッキー・チャオさん)を母と慕い、ティエンたち実の親のことを何一つ覚えていなかった……という展開。
ティエンとジュアンはもちろん事件の被害者だが、リーもまた被害者だ。誘拐された子とは知らず、慈しみ育てたわが子を、いきなり実の親とはいえ、ティエンたちに“奪い取られた”のだから。そういった思いを抱けるのは、映画がティエン、リー、さらにティエンを支える“行方不明児を捜す会”の会長ハン(チャン・イーさん)のパートに分かれ、それぞれの視点で描くことで、被害者、加害者、協力者の区別なく、子を奪われた親に心を寄り添わせられる構造になっているからだ。
印象的な場面がいくつかある。例えば、リーが、街中で見つけた息子に駆け寄る場面と、「子供に代替品などない」といっていたハンが、捜す会のメンバーに妻の妊娠を知らせる場面だ。前者では、リーが周囲から受ける仕打ちにやるせなくなり、後者では、メンバーの反応に、子をさらわれた親たちの傷跡の深さがうかがい知れ、胸が痛んだ。中国では年間20万人もの子供が消息を絶っているという。今作も、08年に起きた誘拐事件が基になっている。映画の最後に、今作のモデルになった人々が登場する。彼らの“その後”を目にしたときは、熱いものがこみ上げてきた。リー役のチャオさんはチャン監督に、「この映画には強い社会的良心がある」と語ったそうだが、まさにその通りの作品だと思う。そのチャオさんは今作の演技で、香港のアカデミー賞といわれる金像奨で最優秀主演女優賞に輝いた。16日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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